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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
セレナ村の騒動
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異世界デビューと初戦


 仁の目の前にはこちらを向かって顔を洗っているユニ。晴天の家の前で、ユニに呼ばれて言われるがまま庭先で対峙している。


「さて仁さん。今日でチュートリアルはめでたく終了します、パチパチパチ~。」


 ユニが手で拍手しながら効果音をしゃべる。慣れてきたとはいえこの異様な姿にやはり絶句する仁であった。


「チュートリアルが終わったらどうなるんだい?」


「実際の異世界に仁さんをダイブさせます。」


「・・・ダイブ・・ねぇ・・・。」


 キャッキャと笑うユニに細い目で見つめ返す仁。


「ですが、さすがに着の身着のまま放り出すような無慈悲なことは致しませんよ。まずこの家はそのままこの世界の森の中に移植します。また、今後のことも考えてこの家の中のものは腐食しない仕様になっています。

 ただ、発酵は別です。お酒飲めないと嫌でしょ。しこたま貯蔵している、食材や酒・酒・酒・・・そのまま使用できます。」


「さらに、仁さんが念ずればこの家は一般人からは見えないようなステルス性能もあります。この効果は解除するまで持続し続けます。何かやばいことが起こればこの家に避難できるように。ただ、ある一定の魔力を持っているモノがサーチした場合は、はっきりとは見えないでしょうけどうっすら存在を感知できる可能性はあります。何事も完璧はありません、悪しからず。」


「それとチュートリアル中に使用していた畑は、さすがにもう存在していません。必要であれば自分で実際に畑を開墾してください。家に保管してある植物の種はそのまま植えることができますので、最初はそれから生産するといいでしょうね。」


 仁は説明をうんうんと聞きながら、


「この世界での生活で文字や言葉は通じるの?」


「あぁそうでした、そうでした。それは既に可能な状態にできています、ご心配なく。この世界での社会情勢、風俗は自分で少しずつ調べていってください。」


「今度の森は、チュートリアルで生活した森とほぼ同じですが、魔獣がわんさかいます。以前注意しましたが、中にはそこそこやばいのもいますので注意してくださいね。HPが0になると、死んでしまいますがまた一からやり直し、同じような十数年間やり直すことになりますよ~、嫌でしょ?。まぁ今のステータスでは早々死ぬこともなさそうですがね。」


 そう言うユニが仁に自分自身を鑑定する様に勧める。最近自分のステータスを確認しなくても生活に支障がなかったのでほとんど見ていなかった。8年ぶりほどの再確認である。


名前:前崎 仁

HP:10000/10000

MP:*****


スキル:魔法特性(強)+魔法制御(強)

     鑑定(強)

     神の加護(寿命なし)


 これがどれだけ常識外れのステータスであるか、今の仁には見当もつかないがこの後それを嫌ほど知ることになる。


「さて、長々説明するよりも経験した方がいいんでしょう。それでは現実異世界へ・・・。」


 パァーッと明るい光に包まれ目の前が一瞬見えなくなる。目をつぶりしばらくして目を開くと、仁は見慣れた森の中にいる。そこにはチュートリアルと同じ環境が目の周りにあったのだ。


「ほぉ~、あまり新鮮味がない・・。」


 とりあえず周辺の環境を確認するために狩りで歩いた場所に移動してみるが、違和感がない。ほぼ同じであるといって良いほどである。多少違うのは、鳥の鳴き声が多いことであった。あちらこちらで様々な鳴き声が聞こえている。

 森から家に帰り、魔法で自分の体を浮かせてみる。チュートリアル生活中こんな芸当もできるようになった。いわゆる飛行である。上空へ飛空すると周辺の森の広さが分かる。広大な森の中、やや遠方に大きな岩盤だらけの山脈が見える。逆を振り返ると、これまた遠くに平野が見える。どうやら、この家の場所は、この広大な森の中のほぼ中心地にあることが確認できた。


 仁は地上に降りて食事をとり終え、いよいよ異世界での初仕事、開墾に取り掛かる。


 家の庭隅はうっそうとした森。まずはここから開墾することにした。仁は掌に意識を集中し巨大な風の刃物を作る。半月上のそれは禍々しいほどの大きさになり一気に森の中に直進する。放った仁の髪の毛が大きく揺らぐと同時に、目の前にある木々が5mほどの幅でなぎ倒されていった。空には驚いた鳥たちが一斉に羽ばたき避難していく。


「おぉ~、一気になぎ倒した。」


 眼前を幅5m、奥行き20mの広さに森の木々をなぎ倒し悠然と仁が立っている。本人は決めているようだがいかんせん様にはなっていないのが残念。


「この調子でっと。」


 次々に同じように木々を切り倒し、20m×20mほどの広さを確保すると随分見通しが良くなり、森の中に光が入ってきた。


 やれやれ、と右腕で額の汗をぬぐうそぶりを見せるが、実際には汗など全くかく訳もなく。疲れましたと表現するもただの一人芝居、誰もそこにいるはずもない。

 仁が一人の虚しさを実感していると背中に悪寒がする。明らかに何かの気配を感知した仁。倒した木の先を見ると、木の高さまであるような、赤い、燃えるようなオーラが見える。そのオーラはゆらりゆらりとたなびきながら仁の方に近づいてくるのであった。


 危険を察知した仁は、掌に意識を集中して臨戦態勢をとる。徐々に近づいてくる四足歩行するそれは、まさに虎。ただ、動物園でみる虎の三倍はありそうな体躯をしている。


「これは近接戦闘は危険だな。遠くから魔法を当てて始末するしかない。」


 状況からして火気厳禁。そこで仁は木を倒したかまいたちを作り、この虎めがけて一気に放つ。シューッと音を立てて猛烈なスピードで虎に向かうかまいたち。しかし、敵もさる者。この程度のスピードは軽く避けた。そして虎は攻撃をかわした瞬間、仁にめがけて一気にダッシュしてくるのであった。


 仁もこれには相当焦った。異世界最初の戦闘で焦りまくった。ちょこまかと動く虎に対してその機動力をそぐことを考えた仁は、以前ジャッカルを刈り取ったあの魔法を使うことにした。


 まず両手に複数の爆風の卵を作成する。以前に比べると、この爆風の卵は小さいながらも数倍の威力を持つ様になった。仁は虎が走ってくる方向と回避するであろう方向すべてに爆風卵を投げる。高速に放たれたそれら卵は、仁の思っていた通りの場所で爆風を起こすのであった。


 虎は自分の周囲で起こる爆発を回避することもできず、目を閉じ仁に向かって走ることをあきらめ立ち往生してしまった。そして虎が目を開けた瞬間、時すでに遅し、仁の放ったかまいたちが虎の眼前にある。こうして虎は再び自分の目で仁をとらえることができなくなっていた。


 肩で息をする仁。初戦を何とか勝利したものの、チュートリアルとは違うことを実感した初日となったのであった。

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