始まりと出会い
目覚めるとそこはうっそうとした森の中、木々の間から差し込む陽の光で目が覚めた。
「ふ~ん?、ここはどこ?」
そう自問する自身を見ると、物語に出てくる村人のような服装をしていて、腰には鉈ぐらいのナイフがある。そして、足には皮で作られたサンダルような履物。まるでローマ時代の市民のような服装である。
何が起きたか分からないこの人物は、前崎仁、身長は170cmぐらい年齢45歳の太ったおっさんで仕事は数学教師である。もちろん寂しい独身生活者である。
「・・・はて、確か俺は仕事帰りで・・・うぅ~ん記憶がない。」
そう自分の身に起きたことを整理している矢先、木の茂みがガサガサと動いた。仁はビクッとして立ち上がり周囲を警戒し、右手は腰にあるナイフに手をかけ、動いていた茂みをじっと見ている。スッとすり足で少しずつ後ろの方に動きながら、間合いを取っていざというときに対処できるように身構えていた。
すると茂みから出てきたのはフワフワした白い毛をしたデカイ猫であった。
「にゃぁ~」
この白猫が鳴いてちらっと仁の方を見て手をなめて顔を洗っている。
「はぁ~びっくりした。何が出てくるのかと思ったら猫か・・・おどろいた。」
仁は大の猫派だがマンション暮らしのため猫は飼えなかった。しかし猫を飼いたいと常々考えていたのだ。しかも特に大きい猫が好きで、仕事中メインクーンの画像や動画に癒されていたのは秘密である。
そんな仁の目の前に自分が飼いたいと思っていたような猫が出てきたわけであるから、もはや抗えるわけもなくその白猫の方へ行き指を猫の鼻先に近づけてコミュニケーションをとろうと試みてみる。すると、白猫がクンクンと仁の指を嗅いでいる。
「おっ、食いついた。こりゃ抱っこできるかな。」
と考えていたところ。この白猫は、
「指が臭いですよ!一体何触ったんです?ちゃんと洗ってくださいよ、もう!そんな手で私を触らないでくださいね!」
「・・・」
仁はあまりの出来事に何が起きたのか理解できずに固まっている。白猫はプイっと別の方向を向いている。仁は慌てて手を引っ込めてた。猫がしゃべったことを受け入れるのにしばらく呆然としている。白猫はそれを気にもせず毛ずくろいを始めだした。仁はとりあえず現状の理解がつかないまま、
「あっごめんなさい、手を洗いたいんだけど洗うところあるかなぁ?」
とまじめに猫に聞き返してみた。すると白猫は
「それなら、その茂みの先に小川が流れていますので、そこで洗ったらどうです。」
と答えてくるではないか!もう仁には自分の中の常識というモノがガラガラと崩れる音が聞こえてくる。気を取り直して
「はい、わかりました。」
と、とりあえず言われた通りに茂みの先へと仁は歩き始めた。後ろにはこの白猫がゆったりと歩いてついてきている。この奇妙な出来事の理解がおぼつかないまま歩くこと5分ほど、そこには白猫の言う通り小川があった。とりあえず手を洗い、手に水を汲んで飲もうとしたが、飲めるかどうかわからなかったのですくった水を口元までもっていったがいったん捨てた。そして、
「この水飲めるんだろうかなぁ。」
とぼそっと独り言を言ったら、白猫が、
「自分で判断できますよぉ。」
と言う。
「どうやって判断するんです?」
と、仁は白猫に聞くと、白猫は
「頭の中で、鑑定って思ってください。」
と仁へ返事をした。
ふぅ~ん、まぁとりあえず素直にやってみようと考え、頭の中で
「鑑定!」
と念じてみた。すると目の前に半透明のウインドウが表れて、
「小川の水、飲料可能な清水」
と表示された。
「・・・、また、訳の分からん事が起きた。どうなってんのやら・・・。」
とりあえず飲めそうなので、仁は手で水をすくい、口元にもっていって一口飲んでみた。ほどよく冷たくおいしいその水を飲んだ事で、ほんの少し気分が落ち着いた。
「でだ。君は一体何者なんです?普通猫はしゃべらんでしょ?」
仁は白猫に話す。白猫は
「まぁ、あなたが住んでいた世界では普通そうでしょうね。ちなみにこの世界でも猫はしゃべりませんよ。」
「いやいや、あなたしゃべってるじゃないですか!そんな理不尽あります?」
「私は特別なんです! そもそも貴方に近づいたのは、私が転生者のチュートリアルとして派遣されただけですから。」
「転生?、転生ってなんです?」
「転生とは、あなたが住んでいた世界とは別世界に来たことを言います。つまりあなたはもはや教師をしていた世界とは違う世界に来たということです。」
「・・・」
顔がこわばって固まっている仁であった。