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壊れかけの世界で第二の人生を  作者: ひいこ
第一章
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魔力

 



 スティルエーテ王妃は、この国を牛耳るつもりなのか。その理由は一体なんだろう。

 私を使ってレオナルド王子を呪い殺そうとしたことから、あまり良い返答は貰えなさそうだ。


「私は……いえ、わたくしは、なにをすればいいのでしょう?」


 こんな内密な話をして、ミレーリットは……いや、レオナルド王子は私になにを求めているのか。

 ミレーリットは手を頰に当て、考えるように視線をテーブルに向けた。


「一番は、王妃に捕らえられ、呪いの贄とならないよう守られていて欲しいですね。わたくし達がお守りしやすいよう、行動を制限して頂けると助かります。……そうなるとシオン様はレオナルド様の庇護下にあると周囲に認識されますし、王子が贔屓する建前の為に優秀であるよう努めて頂きたいです」

「頑張ります」


 頑張ります、と言いつつ私は大して頭が良くない。通っている学校も、平々凡々な私立大学だ。努力はするけどどこまで通用するだろう。


「わたくし共もサポート致します。明日から共に頑張りましょう」


 にこりと微笑んだミレーリットに、私もにこりと愛想笑いを浮かべておいた。


 兎に角、元の世界に戻るには必ず生きていなきゃいけない。ならば生きる為の努力はする。

 私を贄として使われるのが困るなら、手っ取り早く私を殺して遺体を処分しておけば、贄として使われずに済む気がするけど彼らはそうしない。情けなのか、策略なのか、囮扱いなのかははっきり判断出来ないけど、それなりの地位を与えて、知識を授けてくれて、守ると決めてくれた。初日、祠で殺されかけた私を救出してくれた件もあるし、ここにいる間は恩人に報いたいと思う。


「それから、神殿のことですが……」


 ミレーリットが王族の話を終え、神殿の話を始めた。

 私は収穫祭で会った神殿長を思い浮かべる。きらりと靡く銀の長髪と、この世の物とは思えない美しい顔立ちとアメジストのような藤色の瞳が神秘的な美女だった。

 白い衣装に身を包んだ神殿長が、私に手を差し伸べ微笑んでいた姿が頭を過り、そういえば神殿に来るように言われてたんだっけと思った。


「フェリシア神殿長から直々に神殿に足を運ぶよう申されたそうですね。今朝、トビアーシュ神官長から連絡がありました」


 ミレーリットが私に差し出した神殿長からの招待状には、私の名と日時が記されていた。

 美しい紙の上にはしっかりと神殿長のサインが記されている。日時が指定されている以上、これは招待状というより命令ではなかろうかと思ったが、皆の顔を見る限りそうらしい。


「神殿にはレオナルド様もご一緒するつもりです。神聖な場所なので、入れる者が限られていますし」


 小神殿なら誰でも入ることが出来るが、大神殿は神の意志があり、誰しもが簡単に足を踏み入れられる場所ではない。


「どのような御用件かは記されてありませんでした。が、フェリシア様は特別な目をお持ちの方ですから、何か感じ取られたのかもしれません」

「特別な目?」


 アメジストのように美しい藤色の瞳が頭の中に浮かんでくる。あの色が特別なのだろうか。確かに綺麗だけれど、この世界の人の目の色や髪の色は色取り取りなのでそう珍しいようには思わなかった。

 私の疑問に、一つ頷いてミレーリットは言葉を続けた。


「フェリシア様の瞳は、見えぬものが見えるのです。わたくしでは到底及ばぬ範囲まで全てを」

「神殿長に就かれる方は皆不思議な力をお持ちでした。フェリシア様は不思議な目をお持ちですが、先代の神殿長は予知夢を見る方でしたし、その前の方は精霊と心を通わす方だったそうですよ」

「この世で最も神と近しい場所にいらっしゃるので、影響をより強く受けるのかもしれませんね」


 ミレーリットの言葉に、リオノーラやローレンが相槌を打って私に教えてくれた。

 神職者は神の所有物であるという考えが、私の生きる世界でもあった。この世界にもそういった考えがあり、より顕著だ。


「神殿長とは、どういった方がなるのでしょう?」

「神殿に従事している者の中から、神殿長の指名によって選ばれます。魔力量も必要になりますから、大抵は貴族出身の者が多いです」

「元貴族ということですか?」

「はい。神に支えたいと自ら志願する者もいれば、跡取り争いの火種にならぬよう魔力の少ない子供を神殿に出す貴族もいます。他には没落した貴族の受け入れ先としてだったりしますね」


 それから付け加えるように、「ああ、邪な考えを持つ者は大神殿に迎えられることはありませんのでご安心下さい」と言った。


「神殿には平民もいるんですか?」

「大半がそうですよ。先先代の神殿長は平民でした。……しかし平民なのでやはり魔力量が少なく短命でしたが」


 神殿の中では平民・貴族の身分さが存在しないらしい。それは勿論、貴族という地位がない者しかいないからというのもあるが、神職者は全て神の所有物で、所有物同士が勝手な行いをすることは許されないからだそうだ。唯一敬うべきであるのは、神の声を代弁し、神に認められた神殿長と、その神殿長が認めた神官長だけらしい。

 なんとなく、学校のような組織図が浮かんで、ふうんと軽い返事をした。


 それにしても、魔力を使う事って凄く寿命を短くさせるのだなと再確認して、私は身震いした。

 魔力量が豊潤だと言われているけど、私は魔力を使う感覚が分からずドバドバ使っているだけで、実際はとんでもなく消費しているのではないだろうか。だとしたら怖すぎる。

 胸に両手を当てて、心臓が動いているのをしっかり感じ取った。トクン、トクン、と規則正しく脈打つそれに安堵する。


 ……大丈夫。生きている。


 深呼吸をして、私は恐怖を取り払うようにぎゅっと手を握り締めた。




 次の日から城に行って魔法の特訓が始まった。

 フォーサイス家の家紋が付いた馬車に乗り、私はローレンとエドワードとお勉強をしながら過ごしていた。

 前に座るアレックスはにこりとした笑顔を浮かべているけど、とんでもなくつまらなさそうだ。


「……魔力とは、一体なんなのでしょう」


 ポツリ、と呟いた私の言葉に、三人は顔を上げて私を見つめた。

 私のそこはかとなく暗い雰囲気を感じ取って、戸惑いながらローレンは口を開いた。


「まだあまり解明されていませんが、生き物全ての体内に流れる物質であるとされています。生きる為のエネルギーという考えが主ですが、中には魔力の存在がエネルギーの素となるものを作成しているという考えもございます」


 魔力自体なんなのか、まだはっきり判明していないという。そんな不確かな存在に頼って生きているだなんて、とても恐ろしい事だと思った。


「魔力を使いすぎると病になったり、早死にしたりするなんてわたくし、怖いです」


 だから魔法の練習なんてしたくない、という私の副音声が皆に聞こえたようだ。

 ああ、と全員の肩から力が抜けた。何故安堵されているのかわからなくて、私は小首を傾げる。


「シオン様、魔力は使っても、また復活しますから問題ありませんよ」

「魔法を使って減るのはクルレギアですから、魔力は回復します。ほら、体力だって休めば戻るでしょう? 同じ事です」

「魔力の使いすぎによる病や短命の原因は、復活する魔力と消費魔力が合わないことによって起こる魔力枯渇が原因です。足りない状態が続けば、魔力を収める為の受け皿がどんどん小さくなっていき、魔力を回復させられなくなっていくのです。ただ、それも何十年と続けなければならないことですので数日間無理したところで起こることではないです」

「使った分、しっかり回復すればなんの影響もありませんからご安心下さい」


 皆の言葉に少しホッとする。私の心配は杞憂だったようだ。

 私が笑顔を浮かべると、三人は柔らかい微笑みを返してくれた。


 馬車が一定のリズムで音を立てている。魔術具によって揺れはないが、この音は眠りを誘った。


 私はその眠気を払うように、ふと国王を思い出した。

 魔力枯渇によって不治の病に侵されている彼を、補佐する人はいないのだろうか。いや、本来それをするのは王妃だ。王と王妃は互いに手と手を取り、国を治めていく共同体なはず。なのに、何故一方は寿命が尽きかけていて、もう一方は膨大な魔力を消費しなければならない召喚魔法を使って私を喚んだんだろう。

 嫌な予感がした。

 王の寿命すら、あの女が操っているのではないだろうか。

 私が寒気を感じて両腕を抱き締めるように窓へ視線を向けた時、コンコンと運転席からノックが響いた。


「シオン様、もう間もなく城に着きます」


 助手席に座っていたミレーリットの柔らかな声が、鼓膜を打った。




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