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壊れかけの世界で第二の人生を  作者: ひいこ
第一章
16/22

王位継承権争い

 



 なんとか収穫祭が終わった。

 その日はフォーサイス家に帰り、身を清めたらすぐに布団に入った。もう疲れて、なにも考えたくなくて、ただ、ミレーリットに言われた通りレオナルド王子から貰ったネックレスをつけたまま夜を過ごした。


 朝目覚めて、朝食を食べ終えたらフォーサイス侯爵に呼び出された。

 執務室にはフォーサイス侯爵夫妻とミレーリットとコーネリアスがいた。


「おはよう、シオン」

「おはようございます」


 促されて着席すると、お茶が注がれた。ロベルトが飲み、それから口を開いた。


「ゆっくり眠れたかい?」

「はい、お父様。よく眠れたので疲れが癒えました」


 そういうと、ノーリーンがにこりと微笑んだ。


「よかったわ。収穫祭は大変でしたから、体調を崩していないか心配していましたの」

「確かに色々ありましたが、儀式も宴もこの世のものと思えない程美しく、とても感動致しました。参加できて大変嬉しく思います」


 神殿長の儀式は本当に幻想的だった。幾つもの光が空に飛び、覆い被さる程の輝きが舞い散る様子は花火が眼前で咲いたようだった。

 その後の宴も、いつもの豪華な城が更に華やかさを増して、全国の家族がその場で社交を行なっているのは圧巻だった。映画のセットの中にいる気分になれて、本当に興奮したし、料理もどれも綺麗で美味しかった。


「収穫祭は年に一度だからね。また来年一緒に参加しよう」

「はい、お父様」


 多分、来年には私はいないと思うけど。

 あの光景を見れたのは、この世界にやってきた価値があるなと思った。


「それでだが」


 ゴホン、と一度咳払いしてロベルトが言葉を続けた。


「シオン。魔法の練習の為、明日から城へ通うことになった」

「魔法の練習ですか?」

「ええ。昨日、王子が話を盛ったでしょう? 王妃があの話を聞いてから、城で練習するようにと申されたそうですよ」


 ミレーリットがお茶を飲んで言った。王妃が言い出したこと、というのはどうもひっかかる。肩を強張らせる私に、安心するようコーネリアスが微笑んだ。


「侯爵家で匿われては手が出せませんから、外へ出す狙いなのだと思います。王妃からの提案なので警戒は必要ですが、対策を整えておりますのでご安心下さいませ」


 言い切った言葉に、心強さを感じる。

 私は頷き、その場にいる皆の顔を見渡した。ここにいるのはレオナルド王子の忠臣で、私を保護すると決意してくれた者達だ。この世界での私の味方になる。よく覚えて、考えて、振舞わなければならない。


「ありがとうございます、皆様」


 その後、コーネリアスは城へと戻り、ミレーリットは私と共に部屋へ戻った。


 部屋に着くと皆で会議の姿勢になった。

 私の前にはミレーリット、リオノーラ、ジェシカ、アレックス、エドワード、ローレン、ジョサイアにダニエルがいる。


「一先ず、シオン様。昨日の収穫祭はとても良かったですよ。多々予想外の展開が起こる中で、シオン様の対応は素晴らしかったと思います」


 ミレーリットに褒められた。ちょっと嬉しい。

 照れ笑いすると、柔らかい笑顔を向けられて、私は少し顔を伏せた。


「一難去ったところではありますが、少し話をしましょうか。結界を張りますね」


 ミレーリットは白い正方形の箱を出した。それに触れながら魔力を流すと、じわりと青い光が線となって箱に流れていくのが見えた。そしてその線は空中に伸びていき、私達を包むようにぐるりと三百六十度青い光で覆い尽くした。


「バリア」


 ミレーリットが呟くと、それは一層強い光を放って消えた。否、消えたように見えたそれは透明になって、目に見えない膜となってそこにある。

 視界に捉えることは出来ないのに、宙に触れると柔らかいスライムのような触感があって、何度か確かめるように触れた。


「これも魔術具ですか?」

「はい。小規模の範囲を覆う結界です。この膜の中にいる全ての音を遮断します」


 外からはこちらに入らないらしく、この結界の内側にいるのは私の側近だけだ。


「レオナルド様と話し合って、王族の勢力と派閥をシオン様にも知っていただいた方がいいと思いました」


 これ以上、巻き込むのは如何なものだろうか。と踏み込みきれなかったらしい。しかし、成り行きではあるが私はフォーサイス侯爵令嬢となり、社交デビューの場で完全にレオナルド王子派であると認識された。


 仲間とされたのだろうか。駒と考えられているのだろうか。


 怖い、と思った。後戻り出来ないところまで足を踏み入れてしまっている気がして。この権力争いの渦中に巻き込まれている気がして。いや、違う。なんていうか、本当に私、帰れるんだよね……?


「シオン様?」


 ミレーリットが心配そうに私を覗き込んだ。ハッとして頭を振り、私はにこりと微笑む。


「すみません、少しボーッとしてしまいました」


 いけない、考え込んでしまった。

 私はさっと整えてミレーリットに話を促す。少し気遣わしそうに一瞥して口を開いた。


「もうお分かりでしょうが、わたくし達の敵はスティルエーテ王妃です」


 これまで様々なことがあった。その度に苦しめられ、戦ってきたのだと。ミレーリットは簡潔に言ったが、短い言葉で紡がれた過去に重みがのしかかっている。何があったのか、知るのも恐ろしい。


「スティルエーテ王妃はモーテンソン公爵令嬢で、元々側室として王室に入られました。が、前王妃のセレフィリア様が亡くなられ、後任として側室の中で最も位の高いセレフィリア様が今の位置に着任されました」


 モーテンソン公爵家は元々侯爵家だったが、スティルエーテの昇任によって位を上げた貴族らしい。


「セレフィリア様は美しく、博識で人望もあり、民を思い王と共に歩んで行ける素晴らしい王妃でした。……ですが、セレフィリア様の出生は他国のシンクレアだったので、ラスティラルフの保守派からはあまりよく思われていなかったのです」


 ラスティラルフとシンクレアは敵対していたが、セレフィリアが嫁いだことにより同盟を結んだ。その友好の証として、ラスティラルフはセレフィリアを初の異国人王妃として迎えたが、代々王族と自国内の貴族が婚姻を結び国を治めてきた慣例を変え、血統に別の血が混じることを一部の貴族達は嫌忌した。


「セレフィリア様の死後、スティルエーテ王妃が産んだ第三王子であるユーリエス王子を支持する者が現れ、政界はレオナルド王子派とユーリエス王子派で対立しました」


 血、という単語を聞いて不意にこの世界にやってきた時、祠でスティルエーテが言っていた事を思い出した。


 "偽りは滅び、穢れは消さねばならん"


 ……ああいやだ。


 脳内にあの恐ろしい女性の顔が過る。私を殺そうとした祠を思い出す。


「国王はセレフィリア前王妃をとても大切にされていましたし、神の愛子であるレオナルド王子を継承者として考えられておられます。けれど……」


 ミレーリットは一度言葉を切った。そして、ぐっと唾を飲み込み再び話し始めた。


「シャワリンツェ王は御年五十一にあらせられます」


 へえ、そうなんだ。じゃあレオナルド王子は三十七歳で出来た子供なんだね。と、私は薄い感想を抱いた。けれどそれは私の基準でしかなく、この世界の結婚適齢期が十五歳から二十二歳程度までで、それ以降は行き遅れと言われるのだと思い出して口を閉ざした。


「先代から国王として継がれ、三十年以上王としての職務を全うされておりますが、王は病を患っておられます」


 それは、極秘事項じゃなかろうか。

 目を見開いた私に、ミレーリットは一つ頷いた。私の周りの人々が驚いていないことから、城内では誰もが知る周知の事実なのだろう。


「国王がご存命の間にレオナルド様が王太子に即位されないと、最大の後援者がなくなった後レオナルド様が王太子に即位するのは難しくなります」


 それはわかる。国王が国のトップだが、その次は王妃だ。国王亡くしたあとあの女性がそのままレオナルド王子を国王の座に着けるなどあり得ないだろう。けれど何故そんな深刻そうな顔をするのだろう。


 私は不思議に思い、頰に手をついてゆっくり傾けた。


「王子は来年成人されますよね? あと一年くらい、王様生きていらっしゃると思うのですが」


 王太子に就任するのは、早くても成人後だと聞いている。だから来年にはレオナルド王子は王太子になる。

 収穫祭で見た国王は、特に体調が悪そうな様子はなかったし、国王の死はそんなに深く心配する事柄ではない気がする。


 しかし、ミレーリットは頭を振って私の言葉を否定した。


「この国の平均寿命は五十から六十です。王が患っていらっしゃる病も、若くから体を酷使し規定以上の魔力を消費した事による不治の病です。本来ならば既に世代交代していて可笑しくないのです」


 あまりの寿命の短さにドン引きだ。その原因が魔力と関係することも判明し、魔力のことはよくわからないけど、これだけ深刻な問題ならば本当に老い先短いのだろう。ミレーリット達が危機感を覚えている理由がわかった。


「それに、可能性としては低いですが、薬に混ぜて毒を飲ますことも可能になってくるでしょう。体が弱るだけでいくらでも隙を与える事になりますし、ないとは言い切れません」


 ミレーリットは次々に考えうる限りの王の死因を挙げ列ねていく。その殆どが事故や病死に見せかけた暗殺だ。

 魔力が減るだけで防げたものが防げなくなり、気付けていた事が気付けなくなる。あの恐ろしい目をした王妃ならやりかねないと思った。


「王妃は御子息のユーリエス様を国王に即位させようと企んでいます。わたくし達はわたくし達の為、この国の為、それを必ず阻止しなければなりません」


 皆の厳しい眼差しに、私はごくりと生唾を飲んだ。




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