隣国カサンダガルダ(下)
戴冠式は素晴らしかった。イーサン殿下は一番前、私達は真ん中辺りだったけれど式に出席出来たことは嬉しかった。レオンやシュウさんも正装していて格好良かった。
「レオン、格好いい」
私が呟いたらバル兄様が笑ってた。
戴冠式も無事終わり、舞踏会が開催される。
マラカイトロ国王の挨拶。ここでレオンとサフィー様の婚姻の発表があった。少し騒ついたけれど、問題は無かった。
王族への挨拶。王への戴冠のお祝い、レオンの婚約のお祝いなど喜びの挨拶が進む。
そしてダンスがはじまる。
予定通り、国王夫妻が踊り、王族が踊る。レオンは王妃様と踊っていた。
あれっ、イーサン殿下は踊っていない。
「イーサン殿下は踊らないのですか」
「殿下は踊りません。一人踊るときりが無いですからね。殿下は最高の優良物件ですから」
隣にいたユリウス様に聞く。
「ユリウス様は踊りますか」
「殿下が踊らない分私達が手分けします。貴方もなるべく踊るようにしてください。殿下の情報を聞き出そうとしてきますので上手く立ち回ってください」
「私に誘いがあると思えませんが」
「今からレオンハルト殿下と踊るのでしょう。目立ちますから間違いなく誘いがあります」
「そうですか」
「貴方もどんな情報でも良いので聞き出してくださいね」
「そうですね。それこそ陛下の依頼です」
陛下の依頼を思い出した。
曲が終わりレオンがこちらに歩いてくる。
レオン、目立っているよ
レオンから手を差し出された。
ざわざわ
まわりが騒がしい。『気にしない気にしない』レオンの手に右手を乗せフロアへ行く。
「スー、緊張してる?」
ちょっと意地悪そうな顔をしたレオンがいた。
「あぁ、いつものレオンだ」
二人でくすくす笑ってしまった。曲が始まった。
「レオンが王子様で本当に驚いたのよ」
「カサンダガルダにスーが来るとは思わなかったよ」
「陛下の依頼なの。サフィー様のためにカサンダカルダを見てきて欲しいって」
「陛下も僕達の事を知ってるから。……皆を驚かせたかったんだろうね」
「そうかしら」
くすくす。二人で笑う。
「レオンはサフィー様と結婚するのね」
「そうだね。王族だから政略結婚も仕方ないと思っていたけれど、サフィーなら上手くやっていけると思う」
「何でも屋でも仲良しだったわよ」
「な、なんだよ。何でも屋でサフィーの事を見ていて、王女なのに汚れも構わず仕事して、平民の皆とも打ち解けていたから…」
「そういうところが良かったのね」
「まあね。表面上の微笑みではなくて心から笑っているのもかな」
「耳、赤いわよ」
「煩い」
曲が終わった。
殿下の元に戻ろうとしたらダンスに誘われた。ユリウス様の言った通りイーサン殿下の事を聞かれた。それはもう根掘り葉掘り。
五人踊ったところで足が疲れてしまったので殿下やバル兄様を探してフロアを出る。
良かった。バル兄様を見つけたのでバル兄様の所へ移動する。
「スージー、お疲れ」
「ちょっと疲れた」
「よく頑張った。休憩しろ」
バル兄様が飲み物をくれる。
「他の方々はどこですか」
「殿下はレオンと話をしている。ユリウスは、ほら」
フロアを指さす。ユリウス様がダンスをしていた。
「3人目かなぁ。ユリウスが婚約者がいないと聞いて令嬢が次から次へとな」
「そうですか」
ユリウス様を見ると、まさか、笑っている
「バル兄様、ユリウス様が笑ってます。どうしたんでしょう」
「スージー、そこまで驚かなくても良いと思うぞ。氷の貴公子も忖度というものを知ってるんだよ。他国で無表情はまずいからな」
「はあ」
なんか、モヤモヤしている。ユリウス様はいつもは令嬢達を相手にもしないのに。なんか嫌だ。
「スージー、顔が怖いぞ」
「バル兄様、胃がムカムカする」
何驚いてるの。
「そうか、そうか」
なんで嬉しそうなの。私、調子が悪いんだよ。
曲が終わりユリウス様がこちらに来た。
「スージー、ユリウスと一曲踊って来い」
「「えっ」」
私、体調不良なんだけど。
「良いから」
バル兄様の無茶振りで、ユリウス様が手を差し出す。
その手を取って二人でフロアに向かった。




