依頼達成その後
無事サフィー様とローズの何でも屋体験も終わり伯爵邸に戻ってきた。バル兄様もサフィー様を送って先程戻ってきた。今はお爺様と話している。
何も問題なかったと思うけど。
サフィー様がはじめは元気がないみたいだったけれど帰りにはいつも通りだったし、イーサン殿下のお忍びを知った時なんかちょっと笑顔が怖かったぐらいだった。
二人とも『仕事の後の疲れは違うわよね』と意味不明な事を言ってけれど、体験成功、依頼達成で良いよね。
次の日学園に行くとローズの歩き方がおかしかった。
「ローズ、どうしたの。足を挫いたの」
近寄って手を貸す。
「筋肉痛よ」
ローズは少し恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
「ハハハ」
笑ってしまった。ローズは『笑うなんて酷い』と怒った。
…ローズ・モーリッツ…何でも屋体験後…
王都の屋敷に戻った。執事のシュバイと侍女のユイが迎えてくれる。
「お帰りなさいませ。お嬢様。何でも屋は如何でしたか」
「疲れたけれどとても楽しかったわ。凄く頑張ったと思う」
シュバイは満足そうに頷く。
「達成感ですね」
「ユイ、それだわ。達成感よ。見て」
ローズは銀貨を1枚みせた。
「今日の報酬よ。私が働いてもらったの」
ローズは自慢気に銀貨を見せた。
「良かったですね。お嬢様」
ユイは微笑ましそうにローズを見た。
「少し汚れておりますから先に湯に入りましょう」
「私、そんなに汚い?」
「それほどではありません。少し埃っぽいかと」
「どうしよう。バル様に汚いと思われたかしら」
ローズは項垂れてしまった。
「兎に角、湯に入ってください」
ユイは湯から出たローズの髪を整えてながら先程疑問に思った事を聞く。
「お嬢様、バル様とはどなたですか」
ローズの顔が赤くなる。
「バルファ様はスージーの従兄弟なの。アイマリクト伯爵の次男でイーサン殿下の近衛なのよ。今日はイーサン殿下に頼まれてサフィーの護衛をしていたの」
それからローズはバルの話を延々とした。
格好良いから始まり、優しい、力が強い、話が面白い、市井に知り合いが沢山いるとか昼食代を払ってくれた。など、ユイからしたら『それの何処が』と言いたいような事まで次から次へと話す。
これが『あばたもえくぼ』というものなのね。
ユイはローズにわからないようにため息をついた。
夕食の時にもローズは何でも屋の話をした。
始めは仕事の事だったけれど、だんだんとバルファの話になり今度はシュバイが聞かされていた。
これは、旦那様への連絡用件ですね。
シュバイは頬を染めて話すローズを見ながら考えていた。
次の日
ユイはローズの部屋へ入る。ローズは昨日の疲れからかぐっすり寝ていた。
「お嬢様、おはようございます。今日は学園へ行く日です」
声をかけるとローズがゴソゴソ動いた。
「ユイ、おはよう」
「おはようございます」
「ユイ、なんだか身体が痛いわ」
「えっ。どのような感じですか」
喉が痛いとか頭が痛いなら風邪だろうけれど身体が痛いなんて。
「特に腕と足が痛いわ」
ローズがベッドから立ち上がる。
「い、痛い」
立つのも歩くのも痛い。
「お嬢様、それは筋肉痛ですね」
「筋肉痛って何なの?」
ユイはローズに筋肉痛の説明と少しのマッサージをしたが、ローズが、痛がるので殆ど摩るだけだった。
朝食を食べるのも一苦労だ。腕は痛いし握力が無くなっている。カトラリーが持てない。パンを小さく切ってもらって摘む。兎に角、何をしても痛い。
「そういえば」
ローズを見ていたシュバイが何かを思い出したようだ。
「奥様もモーリッツで初めて 働いた時に筋肉痛になってましたね」
「私、お母様に、貴方も苦労しなさいって言われたわ。仕事の事だとばかり思っていたけれど筋肉痛の事だったのね」
ローズは大きくため息を吐く。
「こんなに痛くなるなんて考えが甘かったわ」
「貴族の御令嬢は筋肉痛になるほど動きませんからね。普通」
「そうですね。お嬢様のお転婆な所は奥様に似ましたね」
シュバイとユイが笑いながら話している。
「お嬢様、あまり痛いようなら学園を休みますか」
「駄目よ。スージーにバル様の話を聞くんだから」
ローズの言葉にシュバイとユイは顔を見合わせて笑った。
数ヶ月後、バルファとローズは婚約する。
…サファイア・カラナリア…何でも屋体験後…
王宮に戻って来た。随分埃っぽくなってしまったので湯に入って身体を綺麗にする。
侍女にイーサンへ先触れを頼む。
「イーサン兄様、お時間頂きありがとうございます」
夕食後イーサンの空いた時間に執務室へ行く。バルファは帰ったらしい。今日は伯爵邸へ帰り前伯爵と話をするのだろう。
「サフィー、労働はどうだったかな」
「疲れましたわ。今日は久しぶりにぐっすり眠れそうです」
「そうか」
「兄様、疲れたのですがとても満足感があります。私、壺の包み方が上手だと褒められました」
サファイアが自慢して言うのでイーサンから笑いが漏れる。
「それから報酬で銀貨1枚を貰いました。私の宝物ですわ」
銀貨を見せて笑う。
「随分と楽しかったようだな」
「そうですね。身体を動かして、皆で働いて、ありがとうとお礼を言われるのは貴重な体験でした」
「良かったな」
「ええ、お兄様のおかげです。ありがとうこざいました」
「それと」
サファイアは続ける。
「いろいろご心配をお掛けしました」
「もう、いいのか」
「はい。王妃様の事は頭ではわかっていたのです。
今までの事は今更何も出来ません。でも今からなら何か出来るかなと思います。一度王妃様とお茶をしたいと思います」
「そうか。よく決心したな」
二人でゆっくりとお茶を飲む。
「お兄様、私、また、体験に行きたいですわ」
「サフィー、そんな我儘は駄目だ。今日はバルが護衛だったから許可したんだ。バルは私の近衛だ。そうそうサフィーの護衛には出来ない」
「お兄様、サンは良く市井へ行かれるのですか」
「サン、…何故それを」
「ふふふ」
サファイアの微笑みが黒い。
「…わかった。体験の件はバルと相談だな」
イーサンはがっくりと肩を落として言った。
拙い文章を読んで頂きありがとうございます。
我儘王女とお転婆令嬢編 完結です。
誤字報告、ブックマーク、ポイント、ありがとうございます。
次は3年生になったスージーです。
よろしくお願いします




