王子と悪役令嬢(上)
私の役目は王子とエリシア様の話し合いを邪魔しない事。お二人の声が聞こえるぎりぎりの所に立つ。
侍女のように立っていれば良いと思っていたら、ローズが椅子とお茶を準備してくれた。
「ありがとう」
「よろしくね」
そんな会話をしてローズも部屋から出て行く。
部屋の中にはソファに座った王子、その前に座ったエリシア様、そして私の三人になった。
……静寂……
二人とも何も言わない。『エリシア様頑張れ』心の中で応援する。
「ジル様、お久しぶりです」
エリシア様が声を出した。少し緊張していて声が掠れている。
「ああ。そうだな」
王子それだけですか。もっと言う事があるでしょう。
「なぜ、エリシアがモーリッツにいるんだ」
王子、声から不機嫌さが出てますよ。
「ジル様と話をしたくてサフィーに頼んで一緒に来たんです」
「私は話す事はないが」
『はあぁぁ、おうじぃぃぃ』げふんげふん。王子その言い方はないのでは。
「ジル様、なぜ私を遠ざけたのですか。私は何かしたのですか」
王子そんな顔をするのなら何か言ってください。
「私は自分の何が悪かったのか考えましたが、心当たりがありませんでした。
ジル様が学園でロザリエンヌ様やキャサリン様達他の令嬢と親しくしているのを見て…」
エリシア様泣きそう『頑張って』。
「どなたかを好ましく思って私を遠ざけたのだと思っておりました」
「そうだな」
「だから、私はジル様が他の令嬢を望むならと父に頼んで婚約を破棄してもらおうとしたのです」
「えっ」
王子、目が見開いてますよ。
「なのにあの日、ジル様は周りの令嬢は友人だと言いました。あれほど親しくしていたロザリエンヌ様にもです」
「エリシア、何が言いたい」
エリシア様が大きく息を吐き王子を見据えて覚悟を決めたように言った。
「ジル様はただ、私と婚約破棄をしたかっただけなのですね」
……静寂……
「そうだ」
「なぜですか。この婚姻は確かに政略結婚ですが、私はジル様をお慕いしていました。ジル様もそうだと思っておりました」
王子、先程よりも辛そうな顔をしてます。
「ジル様がイーサン殿下に王太子を譲りたいとお考えになっていた事と関係があるのですか」
「「えっ」」
王子と声が揃ってしまった。『そうだったの。えぇ!』
王子を見ると驚いてエリシア様を見ている。
「な、何を言っている」
「ずっとお側にいたのです。それくらいわかります。いつかジル様から話して頂けると思っておりました。
私がスタンジェイルだから、私が隣にいると王太子になってしまうから、婚約を破棄したのでしょう?」
「違う!」
王子が強く否定した。
「違う。そうじゃない」
……静寂……
二人とも何も言わない。
「ジルベール殿下、殿下の婚約破棄の理由を教えていただけますか」
私は二人の会話に関わらないと約束していたけれど話しかけてしまった。
だって、お二人本当に苦しそうなんです。
「理由などない」
王子頑なですね。
「申し上げます。殿下が理由を説明してくださらないとエリシア様が前に進めません。
殿下はご自分の中で終わっているかもしれませんが、エリシア様は違います。
はっきりさせて、エリシア様を殿下から解放してさしあげてください」
言ってしまった。王子もエリシア様もこちらを見ている。約束破ってしまってすみません。
「そうか」
王子は頷く。
「エリシア…。私は、私の事など忘れてエリシアと兄上が婚姻してくれると思っていた」
「はあ?」
またまたすみません。つい出てしまいました。
「私はジル様に…」
エリシア様が小さい声で言う。
「エリシア、あの頃私はいくらスタンジェイルがつこうと王太子にはならないと決めていた。だからエリシアが王太子妃になる為には兄上と婚約するのが一番なんだ」
それは、エリシア様が王太子妃になりたい為に王子と婚約を続けていたと言う事ですか。
「何を言っているのですか。私はジル様と一緒にいたい。王太子妃になどなれなくてもいいのです」
「それは表向きだろう」
「違います。本当にそう思っています」
「今はもう私は王太子ではないのだから、無理にそのように言わなくてもいいんだ」
「違います。なぜ信じてくださらないのですか」
「殿下はっきりおっしゃった方がいいと思います」
聞いていてちょっと怒りが湧いてきました。もう我慢できません。王子に言ってやりました。
「冬の休暇の時に母上とお茶会をしていたのを覚えているか」
エリシア様は頷く。
「あの時、エリシアは王太子妃になりたい為に私と一緒にいる。と言った」
王子はまた辛そう。エリシア様は『えっ』という顔。
「それは、お聞き間違いとか、誤解ではないのですか。王妃様に話を、合わせていたとか」
「スージー嬢、私もそれは考えたんだ。だが、その中でエリシアは…
スタンジェイルが付いているから私が王太子になるのは決まっている。その為に婚約していると言ったんだ」
エリシア様は俯いてしまった。
「情けない事にその時の私はエリシアが大事で唯一無二の存在だった。
兄上に王太子になっていただくつもりだったから、エリシアの為には婚約破棄をして兄上に嫁いでもらうのが一番だと思った。
エリシアには幸せになって欲しい」
王子がエリシア様をみる。
「エリシア、兄上と「嫌です」婚約」
エリシア様が王子を見つめてはっきりと言う。




