ジルベール・カラナリア第二王子
「ジルベール、今日の鍛錬が終了次第伯爵家邸宅へ行くように。今まで散々断っていたんだ今日は必ず行けよ。これは命令だ」
モーリッツ騎士団第二隊長サイラスが王子に向かって言う。
「わかったな」
「…はい」
「マーカスは俺の手伝いだからな」
「殿下、いや、ジルと一緒に「今日は伯父と甥として話したいそうだ」」
サイラスが強く言う。
「今までのらりくらりと躱してきたが今日は行かないと駄目だろうな。一度きちんと話をしないと納得してもらえないだろう」
王子はサイラスの言葉に頷いた。
夕方
伯爵邸の応接室で当主ウィリアム・モーリッツとカラナリア王国第二王子ジルベール・カラナリアが向かい合って座っている。
「ジルベール、よく来たな」
「伯父上、お世話になっているのにご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「あぁ、そうだな。でも今日は来てくれたからな。ゆっくり話そう」
「はい」
「鍛錬はどうだ。やって行けそうか」
「はい。とても励みになります。勉強になります」
―ジルベール・カラナリア―
モーリッツ領にきてから伯父の呼び出しを断っていたがとうとう今日は応じることにした。
私の上司のサイラス隊長の厳命だから仕方がない。
鍛錬後に着替えて伯爵家邸宅へ向かう。
こちらが無理を言ってお願いしたのだ、逃げ回っていてもいつかは話さなければならない。
そう思って今日伯父と会おうと思った。
何を言われるだろう
何を聞かれるだろう
自分の蒔いた種だ。責任を取らなければならない。
応接室に行くと伯父が座っていた。部屋に居た侍女にお茶を頼み、その侍女も部屋から出て行った。
伯父と近況を話す。
私が拍子抜けするほど伯父はいつも通りだった。王都であった事を聞かれない。私から話し出すのを待っててくれているのだろうか。
少ししてトントントンと扉を叩く音がする。
扉が開いて中に入ってきたのは伯母のアンネメリーだった。
「久しぶりね。ジルベール」
「エリシアっ」
伯母の背後にエリシアがいた。
「なぜ」
「エリシアちゃんが貴方に聞きたい事があるのですって」
伯母がエリシアを前に押す。
「貴方もエリシアちゃんと話をしたいのではないの」
伯父を見ると首を横に振っていた。『あぁ、伯母に頼まれて私を呼び出したんだな』
「私は話すことはありません。」
「そう、エリシアちゃんは貴方に会うためにここまできたのよ。それでも話をしないのかしら」
「伯母上が何と言われようと、私には話す事はありません。失礼します」
部屋から出て行こうとすると部屋の出口にサファイアがいた。
「ジル兄様座ってください」
サファイアがモーリッツに来るのは聞いていた。エリシアも一緒に来たのか。
「ジルベール、そこに座りなさい」
伯母にも言われた。伯父に助けを求めるが、諦めろ、と言うように、肩を竦めてソファを指した。
私は戻り座ったが前には誰も座っていない。先程までいた伯父も立ち上がり伯母に何か言って部屋を出て行く。
「二人でしっかり話すのよ」
伯母もエリシアを私の前に座らせて部屋から出て行ってしまった。
「私達も出て行くわ。ただ二人きりには出来ないから。スージーお願いね」
「はい」
サファイアの後ろからスージー・スロイサーナ男爵令嬢が現れた。
「スージー嬢も来てたのか」
私、エリシア、スージー嬢の3人を残して皆応接室から出て行った。
―少し前、昼食時―
「ジルベールが鍛錬後にここに来るわよ」
アンネメリー様が私達で昼食を食べている時に言った。
「よくジル兄様が了承しましたね」
「命令よ」
アンネメリー様王子に命令を出したのですか。
さすがです。
「わかりました」
エリシア様が力強く頷く。
「でもね、やっぱり二人っきりはやめたほうがいいと思うの。かといって私達がいてもジルベールが話さないような気がするし、侍従や侍女も信用はしているけれどどこから内容が漏れるかわからないわ」
アンネメリー様がエリシアを見る。
「はい。そうですね」
「お母様、スージーが良いと思うわ」
「えっ、私? どうして?」
ローズに聞く。
「侍従や侍女の他と言ったら私達しかいないわ。お父様、お母様、それにサフィーはきっと二人の会話に口を挟んでしまうと思うの。
後は私かスージーなんだけど、私は殿下とは従兄弟とはいえあまり話をしたことが無いの。殿下は王宮、私は領地からあまり出ないから。
スージーは学園で一緒に昼食をとっていたわ。学園内でも話をしていたわよね。殿下も私よりもスージーの方が気安いと思うの。だからスージー、貴方にお願いしたい」
「そうね」
サフィー様も頷く。
「スージー、お願い」
エリシア様も私の手を握り言う。
「わかりました」私は了承した。
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