来訪
「えーと。どうされましたか」
私は、アイマリクト伯爵家の応接室にいる。執事のトマスに来客と言われ応接室に来たのだけれど。
「ローズ、エリシア様、サファイア殿下が何故うちにいらしてるんですか」
ローズ・モーリッツ伯爵令嬢、辺境伯爵令嬢であり陛下の姪。カラナリア学園では私の友人。
エリシア・スタンジェイル公爵令嬢、宰相であり王家に次ぐ公爵家の令嬢。先日仕事で知り合い友人になった。
サファイア・カラナリア第1王女、側妃様の御子でイーサン王太子の同腹の妹姫。学園で挨拶した事がある
ぐらい。
令嬢の中の令嬢という方々。
先触れもなく、皆様平民の格好をしている。所謂お忍びでうちに来たのだろう。
これは、はっきり言って嫌な予感しかない。
私はスージー・スロイサーナ。スロイサーナ男爵の娘。アイマリクト伯爵はお母様の実家で前伯爵はお爺様。私は王都の学園に通うため伯爵家で過ごしている。
うちの男爵家は貧乏なので私は自分のお小遣いぐらいは何とかしたいと思って王都の何でも屋で仕事をしている。
少し前にエリシア様の依頼でエリシア様と第ニ王子のジルベール殿下との婚約を破棄する手伝いをした。
エリシア様とはその時から友人になった。
トマスに三人の令嬢の事を話し、内密にお爺様を呼んでくるように言うと
「お嬢様、この部屋には誰も近づかないよう手配致します。」
と、急いで部屋を出て行った。
相変わらず出来る執事トマス。
「連絡も無く来てしまってごめんなさいね」
エリシア様が申し訳なさそうに言うが気になる事があるので先に聞いておこう。
「皆様、護衛の方はどうされましたか」
この三人に護衛がいないわけが無い。
「伯爵家の前で別れたわ。この辺りで待っててって言ってあるわよ」
サファイア殿下それは駄目でしょう。王女様なのに。護衛の方、苦労されてますね。
トントントンと音が聞こえ、返事をするとお爺様とトマスが部屋に入って来た。お爺様は三人を見て挨拶をした。
「今日はどのようなご用件ですか。サファイア殿下。許可を取って外出なさったのでしょうな」
お爺様、怒ってますね。この話し方だとサファイア様は許可無く王宮を出たりするのかな。
「ここに来る前はローズの所にいたから大丈夫よ」
モーリッツ伯爵家に行く許可は取ったけどその足で来たからうちに来る許可は貰ってないって事だろう。
お爺様がトマスに護衛や王宮に連絡するように指示をしていた。
「それでスージーに何の御用ですか」
「スージーにもですがアイマリクト前伯爵に教えて頂きたい事があります。私達は本当の事が知りたいのです」
サファイア様はお爺様を正面から見据えている。
私はローズを見た。
戻ってきたトマスがお茶を淹れてくれた。ローズが一口飲んで話し始める。
「今日サフィー、サファイア殿下ね。サフィーがエリシア様と私を訪ねて来たの。それで話を聞いていたらジルベール殿下の話になって」
ローズが私を見る。(な、なに?)
「私は、ジルベール殿下がモーリッツ領に来る事を昨日聞いたばかりで何も知らないのにエリシア様はいろいろ質問してくるのよ。
何が何だかわからなくて、私達ではどうしようもなくて、そんな時にスージーなら何か知っているかもしれないってエリシア様が言われたの。
先触れもせずに失礼と思ったけど話を聞きたくてお邪魔させてもらったわ」
ローズを見ると私を睨んでいる。
「私は何故ここでスージーの名前が出てくるのかも知りたいわね」
ローズ、可愛い顔が怖い。
今度はエリシア様を見る。困ったように胸の前で手を合わせ
「その、ジル様、ジルベール殿下の事なんだけれど」
とローズをチラチラ見ながら話し始めた。
「ジル様がモーリッツ領へローズと一緒に行くと聞いたの」
お爺様を見ると頷いたので話をしても良いと判断した。
「私もそう聞きました。辺境伯領で鍛え直すと聞いています」
「それよ」
ローズが間を開けず言う。
「エリシア様はジルベール殿下がモーリッツに婿入りする為にうちに来ると思っているのよ」
「えっ。確かにローズは一人娘だけれど」
私はしどろもどろになってお爺様を見ると、お爺様は額に手を当ててため息を吐いた。
「全く、想像力が豊かですなぁ」
「でも、王宮では皆がそう言ってます」
サファイア殿下がエリシア様の手を握って言う。
「殿下も、ローズ嬢も他に何か聞いてないかな」
「いいえ」
「何も」
「皆には話をしておくべきだな。特にローズ嬢には。
ジルベール殿下の辺境伯領行きは2年となっておる。長くて2年半だな。ローズ嬢が学園を卒業して帰った時にはジルベール殿下は辺境伯領にはいらっしゃらない。
さらにジルベール殿下は騎士団の宿舎で過ごされる為休暇で帰っても屋敷で会うことは殆ど無い」
「それでは、ローズとは会う機会がないですね」
少しでも疑いや誤解が無いようにしたんだろう。
「それでも殿下がモーリッツにおいでになる以上噂は出るだろう。殿下は鍛えに行かれるのであってローズ嬢との婚約は無い」
「「「噂は間違いなんですね」」」
三令嬢の声が揃った。




