婚約破棄 (中)
「陛下」
ジルベール殿下は決意を込めた顔をしている。
「エリシア嬢と距離を置いたのは事実です」
「ジルベール、何故です」
王妃様が王子に詰め寄る。
エリシア様は真っ青で今にも倒れそうだ。ユリウス様が後ろで支えている。
「それで、我が家のロザリエンヌと親しくして頂けたのですね」
侯爵、声が大きいですよ。
「ロザリエンヌとは、娘とは、学園ではいつも行動を共にしていらっしゃるそうです。娘と食事を共にし、エスコートもしてくださっているとか」
侯爵とロザリエンヌ様は顔を見合わせ頷いている。
エスコート?してましたか?もしかしてロザリエンヌ様が王子の腕を取って絡ませてていたあれ?
あれは、エスコートとは言えないのでは。
私が悩んでいると、お爺様が『どういう事だ』と言わんばかりに見てくるので説明しようとしたら
「スロイサーナ男爵令嬢、スージー嬢だったな。どうなのだ」
陛下から直接お声が掛かった。そうだった。私は学園内の証人だった。
言葉を選び、間違えないように気をつけて、口を開く。
「申し上げます。私が学園内でジルベール殿下をお見掛けした時や、昼食をご一緒した時に隣にはロザリエンヌ様がいらっしゃいました。しかし、キャサ「そうでしょ。私は特別なのよ。殿下から素敵な髪飾りも頂いたのよ」リン」
キャサリン様や他の令嬢もいたと言いたかったのにロザリエンヌ様が途中で遮って話を始めた。
これでは、王子とロザリエンヌ様が2人でいて、髪飾りを贈るほどの仲みたいに聞こえる。
「ジルベール、どういう事なの」王妃様。
「ジルベール、きちんと説明しなさい」陛下。
王子は陛下へ向かって頭を下げた。
「本当です。今の私は、エリシア嬢との将来が見えないのです」
「陛下、私の話が途中になっているので、よろしいですか」
スタンジェイル公爵、ここで入って行くのですね。強者です。
「後にしろ」
陛下がイライラしているけれど、公爵は平然として話を続ける。
「私は、殿下とエリシアの婚約を考え直していただくようお願いしようと思っておりました」
「お前まで何を言っているのだ」
陛下は真っ赤な顔をして怒鳴った。
あ、王妃様が気を失って倒れてしまわれた。騎士団長が支えて部屋の外に出て行った。
「陛下、少し落ち着かれてはいかがですか」
お爺様が立ち上がり陛下を見る
「其方は知っておったのか」
「はい、スタンジェイル公爵から相談を受けておりました」
「理由を言ってくれ」
公爵が大きく頷き
「私は娘に幸せになって欲しいだけです」
「ジルベールでは駄目か」
「以前の殿下でしたらご信用もできましたが」
公爵が王子を見てため息をつく。
「エリシアと距離を置かれたのは、遺憾ですが、まだ許容できます。遺憾ですがね」
公爵は、念を押し
「しかし、令嬢との関係はいけません。友人の範疇から逸脱しております。学園では噂になっており、それを子供達から聞いた親がお茶会や社交の場で噂し、ほとんどの貴族が知っております」
「ただの噂だろう」
「現に、ロザリエンヌ嬢は王太子妃になると言ったそうです」
「子供の戯言です。深い意味はありません」
侯爵がすかさず言った。王子はまだエリシア様と婚約中だから不敬罪になる可能性がある。
ロザリエンヌ様は不服そうだけどね。
「ロザリエンヌ嬢を罰せよという訳ではありません。
王太子という立場にある方がそのような行動をしたことが問題なのです」
公爵はため息を吐く。
「ジルベール殿下、何かお考えがあるのですか。そうでなければ私は宰相として、王家に次ぐスタンジェイル公爵家当主として、殿下をお諌めしなければなりません」
公爵は王子を真っ直ぐに見ている。
「別に何も言う事は無い。私は王太子だ。私の行動にいちいち文句を言うな」
「ジルベール。配下の諫言も聞けないのか」
陛下が王子に言うが、王子ははっきり
「私はエリシア嬢との婚約破棄を希望します」
と、言った。
皆が固唾を呑んで見守る中王子は続ける。
「スタンジェイル公爵からも婚約破棄をと言われているのだから何も問題はないでしょう。両家合意です」
陛下が頭を抱えてしまった。しかし、直ぐに王の顔になる。
「ジルベール、お前は謹慎だ。頭を冷やせ。スタンジェイル家からも申し出がある以上エリシア嬢との婚約は考え直す。今は保留だ」
エリシア様が倒れそうなので、ユリウス様がエリシア様を連れて部屋から出て行った。エリシア様大丈夫でしょうか。




