婚約破棄(上)
とうとうこの日が来た。
私はお婆様と決めたドレスと王子に頂いた髪飾りをつけている。
今日でなければ気持ちが高まるような素敵なドレスだ。
髪飾りはお爺様に着けるよう言われた。証拠品として、必要になる可能性があるからだ。
今、机と椅子がコの字になった会議室のような部屋にいる。
謁見の間に行くのかと思っていたけれど今日はこの部屋を使うらしい。
正面の少し高くなった所に陛下が座られるのだろう。
正面右にスタンジェイル公爵家公爵様ユリウス様エリシア様、左にマキヤリア侯爵家侯爵様ロザリエンヌ様、正面の対面にお爺様と私が座って陛下のお越しを待っている。
当たり前だけれど、部屋の空気が重い。
公爵様とお爺様は何かコソコソ話をしている。作戦会議かな。
『あ、ユリウス様と目が合った』
ユリウス様、平然としてますね。私は緊張しすぎて頭が痛くなってきているのに。軽く頭を下げて挨拶する。
ロザリエンヌ様は何故か私を睨んでいるような。緊張でわからない。
「待たせたかな」
扉が開いて陛下が入ってきたので、皆立ち上がり最上礼をする。ジルベール殿下も美青年だけれど陛下は渋い美中年といった感じ。
「スージー頭を下げなさい」
すみません。つい陛下をじろじろ見てしまい、お爺様から注意を受けた。急いでカーテシーをした。
続いて数人入ってきたみたいだけれど頭を下げていて見えないので誰かわからなかった。
たぶんジルベール殿下でしょう。
「頭を上げよ」
陛下のお言葉で前を向くとやはりジルベール殿下がいた。
あれ?王妃様がいらっしゃる。
お爺様を見ると眉間に皺が…。王妃様を外す作戦は失敗してしまったんですね。それで先程公爵様と話をしてたんですか。
「皆、座ってくれ」
椅子に座り、陛下を見ると後ろに護衛のバラスト騎士団長がいた。誰も何も言わないからこのまま進めるようだ。
「陛下、本日は時間を作ってくださってありがとうございます」
スタンジェイル公爵が話し始めた。
「先に書類でご連絡致しましたが、嫡男ユリウスとマキヤリア侯爵令嬢ロザリエンヌ嬢との婚約を破棄します事をご報告申し上げます」
話し終えた公爵は書類を陛下へ渡した。陛下はパラパラと書類を開き、マキヤリア侯爵の方を向いて、
「マキヤリア侯爵も同意しているのだね」
「はい」
侯爵から言い出したんだからね。
「あとは二家で取り決めるように」
陛下のお言葉に公爵、侯爵共に頷く。
婚約破棄をすると損害賠償の話し合いをするが、揉める事が多い。そんな時のためにお爺様のような見届け人が調整する。
お爺様も大きく頷いた。
ユリウス様の婚約破棄は成立した。
「陛下、ご連絡をしておりませんでしたが、あと1つお願いがございます。エリシアの事です」
席を立とうとしていた陛下を公爵が止めます。
「なんだ。ジルベールを同席させた理由を聞かせてもらえるのか」
陛下もユリウス様達の婚約破棄でジルベール殿下の同席をお願いした事をおかしいと思っていたよう。
「陛下、私に発言のご許可を」
侯爵が勢いよく立ち上がった。
「なんで」
つい呟いてしまった。お爺様には聞こえていたようで
「マキヤリア侯爵は殿下の学園での様子やエリシア嬢の噂を知っておる。あの噂はロザリエンヌ嬢が撒いたからな」
「えっ」
「侯爵は知らなかったようだが」
お爺様はニヤっと笑い、
「侯爵はスタンジェイル公爵がエリシア嬢を擁護すると思っているのじゃ。婚約の継続を確認しようとしてるとな」
小さな声で教えてくれた。
侯爵が許可を得て話し始めた。
「陛下は学園の出来事をご存知でしょうか。
このところ、ジルベール殿下とエリシア嬢は疎遠となり、恐れ多くも今、ジルベール殿下の隣を許されているのは我が娘のロザリエンヌです」
ロザリエンヌ様も立ち上がってカーテシーをする。
「それを嫉妬したエリシア嬢はあろうことかロザリエンヌを虐めたのです」
「わ、私、エリシア様に殿下の近くに行くなとか貴族令嬢として相応しくないなど、酷いことを沢山言われました」
ロザリエンヌ様が目に涙を溜めて話し、
侯爵は「辛かったな」と言ってロザリエンヌ様を労わっている。
唖然としてしまった。演劇をみているようだった。ずいぶんと練習したんだろうな、などと頓珍漢な感想を持ってしまった。
それは私だけでは無かったようで部屋にいる全員が固まっていた。言われた本人のエリシア様も。
お爺様のこんな顔は初めて見た。
はじめに声を出したのは公爵だった。
「それは唯の噂であり、エリシアはそんな事はしていないと申しております」
エリシア様を見て、侯爵を睨むようにして言った。
公爵、侯爵の睨み合いが少し続いた所で
陛下がエリシア様、ロザリエンヌ様を見て、最後にジルベール殿下を見た。
「ジルベール、何か言う事があるか」




