前日
今日は前期最終日。明日から夏の休暇になる。
テストも終わり皆明日からの事を話している。
とても楽しそう。羨ましい。私は明日の事で頭がいっぱいで、胃も痛い。
「スージーは、どうするの」
リリアが聞いてくるけれど返事が遅れてしまった。
「スージー、補習は無かったよね」
ローズが心配そうな顔をして言っている。
カラナリア学園のテストは休暇前にある。順位はでない。王族や上位貴族が下位の成績になるといけない、との理由からだ。貴族の学園らしい。
しかし、テストはきちんとやる。最低点を決めそれよりも下回ったら夏の休暇中に補習がある。これは厳しく、王族であろうと親から何か言ってこようと覆せない。
受けなければ留年、酷いと退学になるため、順位がないとはいえ気が抜けない。
余談、
ユリウス様は休んでいたけれどテストは授業後などで受けたそうだ。補習は無し。休んでいたのに凄いです。
私は心配そうな皆に向かって
「補習は無いよ。ちょっと考えててぼうっとしてた」
と言ってローズを見た。
「な、なに?」
ごめんね。ローズ、驚かしちゃった。
ローズは私を見ても普通だった。私はもしかしたらローズなら明日の件を知っているかもしれないと期待したけれど知らないようだった。
「覚悟を決めないとね」
思わず呟いていた。
皆で休暇中の話をして、領地に戻る前に集まる約束をして学園をでた。
伯爵家に帰るとお婆様が待っていた。そうだ、明日のドレスの試着をするんだった。更に、気が重い。私はドレスを着るのが嫌い。コルセットが締め付けられて、苦しくって、苦しくって。どうしてあんなに締めるんだろう。
私が嫌がっても試着は始まった。綺麗なドレス。我が男爵家では到底準備出来ないと思う。
「スージー、素敵よ。やっぱり女の子はいいわねぇ」
お婆様が満足そうに眺めている。
「お婆様、ありがとうございます」
カーテシーをして挨拶してみた。
「スージー、その調子でね」
「はい」
ぐっと拳を握って私は決意を新たにした。
―マーカス・バラスト伯爵令息―
学園から帰ると父が執務室で呼んでいる。とメイドが伝えてきた。
「父上はもうお帰りなのか。早いな」
呟いて執務室へ向かった。
父、バラスト伯爵はカラナリア王国騎士団の団長をしている。私は、次男なので伯爵家は継がないが、幼い頃から父に剣を教わっていたので、騎士団に入りたいと思っている。
いや、今後を考えると思っていた。だな。
私は、ジルベール第2王子と同じ歳だったので幼い頃から王宮に連れていかれ、(将来護衛や側近になるようにとの考えがあったんだろう)殿下とよく一緒にいた。幼いながら殿下は聡明で真面目で、勉強も剣も一生懸命学んでいた。私はそんな殿下を尊敬しているし、もし、殿下が王にならなくても一生側で支えたい。
殿下は母である王妃様の期待に答えるために頑張っている。昔から王妃様の殿下への執着は強かった。私が子供心にも、王妃様は殿下に王太子になって欲しいのだろうとわかったぐらいだ。
しかし、
殿下には兄の第1王子のイーサン殿下がいた。側妃様の御子だが、イーサン殿下はジルベール殿下より勉強も剣も優れていた。性格も良く、イーサン殿下にも王の素質はあると思う。ただ、側妃様の御子のためイーサン殿下本人が一歩引いているようだ。
兄弟仲はとても良く、幼かったジルベール殿下は
「兄上が王になったら私は兄上を支えられる様に勉強を頑張らないといけないな。母上は私に王太子になって欲しいみたいだけど兄上のほうが相応しいと思う」
と、よく言っていた。
しかし、本人の気持ちなど御構い無しに王太子争いなどと王妃様や周りの貴族が言い出し、ジルベール殿下と有力貴族のスタンジェイル公爵家のエリシア様との婚約が決まり、スタンジェイル公爵家が付いた事で王太子はジルベール殿下に決まった。
ジルベール殿下の気持ちも知らないで、王太子に決まってしまった。
「王族だからね。決まった事には従うよ」
呟いた殿下は寂しそうだった。
それでも良い事もあった。
殿下とエリシア様は仲睦まじく、相思相愛だった。殿下はいつも愛おしそうにエリシア様を見ていたし、エリシア様も王太子妃教育を頑張っていたので、お二人の時代に期待が出来た。
はずだったのに…
冬の休暇の後からジルベール殿下は考え込むようになり、そして、ある日、爆弾発言をした。
「エリシアと婚約破棄をしようと思う」
「はぁ」
思わず変な声が出てしまった。驚きすぎて息が止まるかと思った。一体どうしたんだ。
「理由を聞いても?」
何とか声を出した。殿下は顔色も変えず
「言いたくない。だが、協力して欲しい」
と言う。何度聞いても理由は教えてもらえなかった。
そして、殿下は動き出した。エリシア様を遠ざけ他の令嬢を取り巻きにしはじめた。
私は、幼馴染のキャサリン・ハイダミオ公爵令嬢に協力を頼み取り巻きの中に入ってもらい、2人で殿下を見守る事にした。
執務室についた私はメイドが扉を開けたので中に入る。
「父上、お呼びでしょうか」
「うむ、マーカス、ジルベール殿下は変わりがないか」
「と、言われますと」
嫌な予感がする。
「今日、陛下から言われたのだが、明日スタンジェイル公爵がユリウスとロザリエンヌ・マキヤリア侯爵令嬢との婚約を破棄する報告に来るそうなのだが、公爵がその場にジルベール殿下の同席を願いでたそうだ。何故、ジルベール殿下なのだ。おかしいだろう。マーカス何か知らないか」
明日なのか
「父上、殿下とスタンジェイル公爵家のエリシア嬢は婚約されているのでその辺りの話ではないでしょうか」
無難な返事を返した。父上とはいえ、これ以上は言えない。
「そうか。それもそうだが。疲れているところ悪かったな」
父上はそれ以上追求してこなかった。
話が終わり私は執務室を出た。
ユリウスが殿下の事を調べているのは知っていた。殿下も知っているはずだ。スタンジェイル公爵からエリシア嬢の事で何かあるのだろう。
その時、殿下は……
殿下、どうなろうと何があろうと私は殿下の側にいます。




