3話 彼女は特殊クラス行きだそうです
入学式の開始時間より、10分ほど遅れて美乃は学校にたどり着いた。
門のあたりにはすでに人気がない。体育館から声がすることからも、すでに入学式は始まっているようだった。
「ちょっと、ごめんなさい!通ります!!」
私は新入生の親と思われる人達の間をすり抜けて、何とか体育館へ入る事に成功した。
後ろの扉から入ったため、正面にステージがあり、生徒会の面々が規則について説明しているところだった。
大きく右側と左側で別れていて、後ろには来賓席があるようだ。
(新入生は、制服の綺麗さからして……左かな?)
しかし、ここでまちがえて在校生側に並んだりしたら,目も当てられない事になるだろう。
聞くは一時の恥!
私は正面へ走りながら、大きな声で挨拶をする。
「遅れてごめんなさーい!!っ、新入生の恋雲美乃です!!どこに座ればいいでしょうか!!」
一瞬にして、静まり返る体育館。
在校生も、新入生も全員が私を、みている!!注目度No.1間違いなしだ!!
どこからかは分からないがくすくすと笑い声も聞こえてくる。
生徒会の人はというと呆れた目で私を見ていた。
「恋雲さん、あなたの席はないわ。端っこに立ってる子達がいるでしょう?あのあたりにいなさい」
「えぇ!?あ、はい!!」
勢いよく返事をして私は指定された場所へ向かう。
そこにはすでに7人ほどいた。
彼女達も、遅刻したのだろうか……。
しばらく生徒会の方々の挨拶も終わり、校長の長ったらしいご高説も終わり、とうとうクラス分けが発表されるようだ。
そのタイミングで新入生達が退場しているのだが、なぜか周りの子達は動かなかった。
「あ、あの!私達は、移動しないんですか?」
話しかけたのは隣にいたポニーテールの少女だ。
「ん?あ、そっかー、キミ新入生だから何も知らないでここに来たんだね」
どういうことなんだろう。教えてくれたりしないかな?
「ここのメンバーがすでに、Fクラスと言う集まりなんだよ」
ようは、ここのメンバーはクラスメイト?それにしては、別学年の先輩もいるみたいだ。
壁にもたれかかってヘッドホンをつけていた少女がこちらに来た。
「あなた、学校のパンフレットに目を通さなかったの?」
「あー……ははは……」
心当たりしかなかったため、なんともいえなかった。
彼女はため息をついたあと、学校について教えてくれた。
「この学校はね、各学年A~Eの5クラスがあるの。で、それに加えてFクラスがあるんだけど、このクラスだけは特別で学年の区切りがないの。つまり、先輩も後輩もみーんなクラスメイトなのよ」
なるほど、だから先輩がいるんだ。だけど、私が気になるのはそこじゃなかった。
なぜFクラスだけ、特別扱いなのかが知りたいところだった。
「基本クラス分けは成績で決まってるけど、Fクラスは何らかの事情を抱えた特別な子ばかりが集まるのよ。あなたも、中学生活でなにか問題を抱えていたはずよ。今日だって遅刻するくらいだし、遅刻魔だったんじゃないかな?」
私はまたしても図星を突かれた。
私はサンドボックスゲームのマ〇〇ラにハマっていて、当時はよく遅刻していた。
だがそんなにはやく性格が変わるわけもなく、今でも遅刻魔なのだった。
「……あなた、あまり嫌そうじゃなさそうね?Fクラスは普通みんな嫌がるのに」
「え、嫌がるの?なんで?」
「あー……Fクラスの生徒はね、学生寮に入らなきゃいけないのよ。もちろん、Fクラス全員がそう。ようはシェアハウスみたいなものね。夜間は出かけられないし、消灯時間も決まってる。とにかくルールが多くてね……みんなはあの学生寮を《要塞》って呼んでるよ。あとFクラス自体も《要塞クラス》って呼ばれたりするの」
蔑称なんだよ、と彼女は言う。
「学生寮!!なんか楽しそう!!しかも要塞って!!なんかカッコいい!!」
美乃は逆に目を輝かせていた。
その後も学校について色々教わっていたが隣にいたショートカットの先輩に腕を引かれた。
「話、途中で悪いけど。そろそろ時間。教室へいかなきゃ」
美乃は先輩の後に続いて、これからお世話になる教室へと向かっていった。
教室に着いてしばらくあと。教師がやってくる。
「あー、新入生諸君、まずは入学おめでとう!俺は担任の風巻龍だ。よろしくな」
美乃は目を輝かせた。
「とっても強そうな名前!!初めまして、恋雲美乃です!!趣味はゲーム!あと、エナジードリンク作ったりします!よかったら、みんなどうぞ!!」
そう言って美乃は鞄からエナドリを10本取り出す。
その場にいた7人に一本ずつ、先生にも渡す。
「おお!!エナジードリンクを自作するのか、すごいな!!……くぁwsdfgふじkp」
先生は口に含んだあと、悶絶していた。
美乃はすばやく水筒から水を用意して先生に渡す。
「ぶはっ……はー、めっちゃからくないかこれ……?てか、よくお前ら飲めるな!」
見るとみんなは普通に飲んでいた。これには私もおどろいた。
「え、すごい!!今まで飲んだ子達はみんな先生みたいに辛いっていうんだよ~」
「まあいい!今日はこのあと昇降口にいって、教科書を受け取ってくれ。あと学生証もな。それじゃ!!」
先生はそう言い残してどこかへいった。
「ねえ、キミ……」
先生がいなくなったあとしばらくして。学校について教えてくれたヘッドホンの先輩が声をかけてくる。先ほどとは違い、その声は非常に怖かった。
「な、なんでしょうか?」
彼女は私の頭に手を置いて、呟いた。
「いいや。こうした方が早い。――《掌握》」
――私のよく知る、魔法の言葉を。