帰りの電車はロマンス
今日も上司に言われたように動き、余計な感情はすてて仕事をする事が出来た。
それが私にできる唯一の親に迷惑をかけない行動になる。
みんなが進むであろうレールを外れると親も友達も離れる事が分かった。
とても仲良くしてくれていた友人も親でさえもあっさりいなくなった。
それくらい、私のおこした行動はひどかったのかもしれない。
結果現実として、失望されて一人で生きる事になったので、
できる限り、これからの人生は誰の期待を裏切る事もなく生きていきたい。
いや、期待なんてされるはずもないけど。
自分で生きるだけのお金を自分で稼いで、
親にも会社にも迷惑をかけないで生きていく。
そんな人生を歩かないといけない。
会社の終業のチャイムが鳴り響く。
何ともこのチャイムの音は何年たってもなれない。
急がなければ。
この音を聞くと、もう体は帰宅の準備に追われる。
夕方5時30分の電車を乗り遅れると、
この町の電車は次に来るのが6時になる。
それが皆がわかっているから、残業をしない時はみんな慌てて駅に向かう。
会社のみんなが一斉に駅に向かうのは恐ろしい光景だ。
近年の不景気の影響で残業はしない方針を会社も推奨しているので、
社員は早々と帰宅する。
朝の混雑とは比較にもならない位に女性の更衣室も込み合う。
でも私はその方がなんだかよかった。
朝よりもはるかに込み合うその更衣室は無駄なおしゃべりをする余裕すらない。
みんな帰る為の準備しか考えていない。
なんて考えていたら私も電車にのり遅れるので直ぐ帰宅準備をした。
余計な動きはしない。
素早く着替えて忘れ物がないかを確認して会社を後にする。
少し遅れそうだったので私は駅まで走った。
走って駅に着いた時はもう駅は帰る人であふれかえっていた。
どうにか、自分がたっているところを見つけて電車をまとうとした時に、
視界に彼が目に入った。
西片瑠衣さん、
彼もまた人にのまれないように自分が立っている場所を探していた。
彼の事は駅で何度か見かけるので知っていた。
きっとが確信に変わるのは早かった。
同じ会社の同僚になる彼はきっと、
住んでる町が近いので、おのずと通勤電車で同じになる確率が高かった。
なんだか心の中で、関わるとめんどうな事になりそうになる。
って気持ちがあったので、
彼とは目を合わせないように、気が付いてないようにしていた。
いつも見つけた時は、なるべく離れた位置にいくようにした。
なんだかもし目があえば、関わりたくない事に巻き込まれそうに思ったから。
私の人生の中で、もうある程度の人間関係が、
どれだけ危険でもろい事かがわかっていたので、
特にそれが異性の事で関わるなんて怖いとしか思えなかった。
それでも嫌でも視界に入ってくる、いつも楽しそうにしている彼を見るのは、
嫌な気持ちにならないのが不思議だった。
帰りの電車で女性と楽しそうにいるのをしっていた。
それはきっと構内で待ち合わせしていて、一緒にかえっているんだ。
たまに見かける彼らはとても楽しそうに微笑んでいた。
あまりに幸せそうで、こっちまでもしあわせになりそうな笑顔だった。
楽しい時間を過ごしているんだな。
色んな人生があるのに私はいつも一人だった。
それしか選択肢がない私だったけど、
人間がとても怖いとおもってはいる私だったけど、
あんな風に幸せそうにしている彼らを見ると、ほんの少し、
憧れたりする。
このままずっと一人で生きる事になるんだろうか。
そんな事を考えては、答えのない事に気が付いて目をしたに向ける。
心が下向きになったのでいつもの私の楽しい時間の事を考える事にした。
帰りの最後の電車に乗り換えて、座る事が出来たら45分の私の楽しい時間がはじまる。
長い通勤時間の過ごし方は、私だって見つけていた。
帰りの最後の電車はなるべく座る事の出来る電車を選んで読書をして帰る。
誰にも邪魔されることのない電車での移動時間は私の良い読書の時間だった。
ひとりで住む部屋を選んだ理由も近くに大きな図書館があったから。
そこで1週間分の本を借りて日々の読書にあてている。
一日の楽しみは帰りの電車でよむ読書の時間。
どんな日であっても、この読書の時間で私はリセットしている。
そうするようにしている。
いい事だって悪いことがあろうと、この時間で自分自身を取り戻していく。
この時間だけしか本を読まないし、この時間で自分をもちなおす。
早く最後の電車にのりたい、気持ちは早まる。
今日は新しい本を読む事にしていたからドキドキしていたとき、
声をかけられた。
「山口さん、一緒に帰ろう」
私はびっくりして、声をかけてきた彼を思いっきりみてしまった。
返事をしないとはわかっているけれども、すぐには声がでなかった。
目をぱちぱちするだけだった。
そうしていると電車がきて、動かないとと思ったよりも早くに、
「電車がきたよ、いくよ。」
と彼が手を引いて電車にのった。
この時にわかった。
帰りの電車が同じだと思っていたのは私だけではなくて、
彼も気が付いていたのだということ。
これからの長い帰りの電車がこれからの私の人生を大きく変える事になろうとは。