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銀髪の悪魔は黒髪の転移者と共に行く  作者: 畑渚
第一章 始まりの街
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第五話 変化した日常

 ユカリが迷宮に初めて入ってから一週間後、二人は師弟の関係を組み行動を共にしていた。



 二人の朝は早い。二人の一日は、まだ日が昇り始めて間もない頃に始まる。


 「ユカリ、朝ですよ」


 「うう、あと五分……」


 セノは強引にユカリから毛布を剥ぎ取る。窓は既にセノが開けており、冷たい空気が部屋に流れ込んできていた。ユカリは温かさを求めてセノに抱きつく。


 「あったか〜い」


 寝ぼけたままのユカリに対して、セノは容赦なく鼻をつまむ。フガっと女の子にあるまじき声をだしたあと、ユカリはおはよ〜とセノに微笑む。ユカリは朝に弱く、いつもこんな感じである。

 セノが着替え始めたのを見て、ユカリも身体を起こす。目をこすりながら着替えると、外に向かう。


 「今日は何をするんですか?」


 「ランニングと魔法の訓練です」


 セノの早朝トレーニングは、これまでとは少し変わっていた。ただの自分のルーチンではなく、ユカリを育てるためのメニューを組み直したのだ。


 ユカリは素質がある、とセノは思っている。身体能力はそこまででもないのだが、MPの成長具合はなかなかのものだ。呪文の暗記速度は早く、魔術陣の構造もすぐに理解しパズルみたいだとアレンジをいくつも試していた。彼女はいずれ優れた探索者に成れる。そう確信が持てるからこそ、一切訓練の手を緩めることはなかった。



 朝のトレーニングを終えると朝食をとる。料理はもはやユカリの仕事になっており、セノはユカリを手伝うのみだ。


 いただきます、と二人の声が重なる。セノはこの時間が一日で最も好きだった。違う世界で育った二人は、会話の内容で困ることはなかった。セノはユカリの世界の進んだ技術に関心をよせているし、ユカリは創作の世界とこの世界との違いを楽しんでいた。



 朝食の後は二人で迷宮に潜ることになっている。二人がギルドに着くと、いつもの視線が二人に突き刺さる。この視線にも慣れたもので、全く気にせずに窓口へと向かう。


 「迷宮の入場手続きをお願いします」


 いつもの職員が今日も無言で手続きを済ませる。手続きが終わり迷宮の入り口に向かう二人の前に、大男が立ちふさがった。


 「おいおいセノじゃねえか!どうだ?髪の色は落ちたか?」


 いつぞやのセノにからんできた大男だった。セノはフードを深く被り、無視して横を抜けようとする。しかし大男はその巨体でセノの進路を阻む。


 「んで、なんだぁ、このベッピンさんは?いつから女の子を侍らすような身分になったんだ?」


 大男の目線はユカリの方へと向く。全身が思わず震えてしまうくらいの嫌悪感を感じ、ユカリは一歩後ずさる。


 「おいおい、だんまりか?」


 「……ま」


 「ああん?言いたいことあんならハッキリ言えや」


 「邪魔、今すぐそこをどいて」


 「おお怖い怖い。流石は悪魔、言葉も物騒だ」


 セノがいい加減どいてくれないかと表情を歪めたときだった。セノの腕を掴み、大男の間に入った者がいた。


 「あなたさっきから何なんですか?セノとどういう関係なんですか?」


 普段よりも強い口調で大男に向かってそういい放ったのはユカリだった。セノだけでなく、周りで傍観していた探索者や職員、そして大男までもが驚きを隠せずに言葉に詰まってしまう。


 「セノ、もう行きませんか?」


 「ああ、うん」


 セノは言われるがままにユカリに腕を引っ張られて、迷宮に消えていく。



 残された者たちの間には、どうも気まずい雰囲気が流れた。



 =*=*=*=*=



 迷宮の中でもユカリの訓練は続く。セノが敵の攻撃を回避している間に、ユカリが呪文を唱えてるという実戦に沿った内容だ。

 ユカリは優秀だ。戦局を読みその場に適した魔法を判断、即座に詠唱する。しかしながら……


 「ごめんミスった!セノ避けて!」


 「えっ?……ぐぅ動けない……」


 まだコントロールが甘くセノに誤射することもあった。セノは基本攻撃魔法が当たることはないのだが、今回のような状態異常系だと鼻が利かずにしばしば魔法を受けてしまうことがあった。


 「ごめんなさい!」


 ユカリはセノに駆け寄る。今回はアレンジを加えて、より強力な麻痺の状態異常魔法を唱えたのだが、詠唱が遅く敵が先に倒れてしまい、そのままコントロールを失いセノに当たってしまったのだった。


 「本当にごめんなさい!」


 「…い…ら…く……」


 舌まで麻痺が回っているようで、全身を痙攣させながらセノはユカリに伝える。


 「早く……解除して……」


 「そ、そうだった!」


 その後、普通の解除呪文では効かず、ユカリが新しく強化した解除呪文を思いつくまで、セノは痙攣が止まらなかった。



 =*=*=*=*=



 「今後あの呪文は使用禁止です」


 「えー!せっかくの高難易度魔法なのに」


 「じゃないです!本当によくそんなよく分からない魔法がポンポンと使えますね」


 今日の夕食の話は、ユカリへの説教話となった。


 「それにしてもよく魔法があんなにポンポンとつかえますね。私だったらとっくに発狂してますよ」


 「発狂……ですか?」


 「知らずに使っていたんですか……」


 セノが呆れるのも無理のないことだ。魔法というものは未だ謎が多いのだが、使っていると突然発狂することがある。発狂から戻ってきた者もいるのだが、とにかく恐ろしいものを見たという大雑把な話しかしない。

 とにかく、魔法をつかうということは発狂のリスクがあるということだ。ましてや独自のアレンジをいれるなど言語道断、いつ元に戻れなくなるかわからないのだ。


 「何か見えるんですか?」


 「そうですね、最初はこうぐわーってした感じの化物に見えるんですけど、あれってよく見てみたらどことなく可愛いですよ?」


 ユカリは呑気にそんなことを言う。セノはそんな馬鹿なとつぶやきながらパンを口に運ぶ。Cランクにも慣れば発狂の経験があってもおかしくない。実際セノには発狂した経験があった。そのときに見たものを可愛いなどという言葉で表すことはできない。


 「どうかしましたか?」


 「い、いや何でもないです」


 思い出したくないものを思い出し、セノは吐き気を紛らわすように飲み物を飲み込んだ。



 =*=*=*=*=



 ユカリがセノの家に来た日から、二人は一緒のベッドで寝ていた。ベッドは二人で寝るには狭く、身体がどうしてもくっついてしまう。最初は気恥ずかしさを感じていたが、今では心地よさすらも感じていたりする。


 「セノ……大丈夫?」


 「……!だ、大丈夫……です」


 また悪い癖――身体が震えていたようだ。きっと昔のことを思い出してしまったからだろう、とてつもない不安感がセノを襲っていた。セノは人肌の温もりを求めてユカリにくっつく。こうすると何故か落ち着く。ユカリもセノを拒んだりはせずにそっと腕を背中に回す。震えていた身体は、いつの間にか収まっていた。


 「ありがとうございます。もう大丈夫です。」


 「そう、良かった。おやすみ」

 セノはおやすみなさいと返事して、静かに目を閉じた。


解説は今回はお休みです。

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