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銀髪の悪魔は黒髪の転移者と共に行く  作者: 畑渚
第一章 始まりの街
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第三話 非日常

 「とりあえず貴女のことは街につれていく。話はそこでしよう」


 セノの言葉にユカリは頷く。ユカリはとにかく今がセノにとっても異常事態であることは察せた。

 セノはユカリに背中を任せることに不安を感じつつも、先へと進む。とにかくユカリを安全に街へ送り届けることだけを考える。その洋服の質や学生という身分からして、彼女は貴族か何かなのだとセノは目星をつけていた。わけのわからない言動も、きっと混乱しているだけだと考えることにしていた。


 「おい、止まれ」


 「なんでしょうか」


 門を警備する兵士に止められたセノは少し不機嫌になりながらもそう答える。


 「何者だ。フードを脱げ」


 「探索者のセノです」


 セノはフードを脱がずに首にかけた認識票を掲げる。面倒だと思っているのが顔に出てしまったのだろうか、兵士は声を荒げる。


 「いいからフードを脱げ。従わんようであれば今すぐひっ捕らえて牢屋にぶち込んでやろうか」


 兵士は剣に手をかける。普段はこんなことでは止められないのだが、後ろにいるユカリのせいだろうか。

 とにかくこれ以上の面倒は避けたいと思い、フードを脱ぎさる。銀髪が夕日の光を受けて煌めいた。


 「ああ、お前が噂の銀髪か。それで後ろにつれているのは誰だ?」


 「彼女は森で迷っているところを保護しました。混乱しているようでして、身元を確認するためにとりあえずギルドに連れていこうと思いまして」


 「ほう、それは殊勝な心がけだな。だがその必要はない」


 「……何故?」


 「それは俺が連れて行ってやるからだ。そこの嬢ちゃんこっちに来な」


 ユカリは迷っているようだ。セノに何かしらの事情があるようだが、それがなにかはわからない。しかも兵士の男は先程からユカリの身体を舐め回すように見ており、嫌悪感がある。どちらについて行けばいいのかわからなくなり、セノの方を向く。

 セノはユカリと目が合い、気まずそうにそらした。


 「ここからはこの兵士について行って。それじゃあ」


 ユカリが何かを言う間もなく、セノは再びフードを被り街の中へと消えていく。


 「えっとあの……ありがとうございました!」


 遅れてしまった感謝の言葉がセノに届いたかは、ユカリにはわからなかった。


 「嬢ちゃんあいつに何かされなかったか?」


 「え、ええ」


 「そりゃ良かった。今後はあいつには近寄るなよ」


 「どうしてですか?」


 「どうしてって、そりゃあいつが銀髪だからだよ」


 「髪色が関係あるんですか?」


 「嬢ちゃんどこの出身だ?銀髪の悪魔の神話を知らねえのか?」


 「えっと東の方の田舎でして……」


 「へえ、神話すら伝わってないなんて相当な田舎なんだな」


 兵士の反応を見てユカリはホッと胸をなでおろす。咄嗟に思いついた嘘だったが疑いの目を向けられずに済んで良かった。


 「それでその銀髪の悪魔って何なんですか?」


 「それはな――」


 兵士は丁寧にも話の内容をユカリに説明してくれる。しかし話が終盤を迎えても、ユカリの心の内は変わらなかった。そもそもこの話の欠陥をいろいろと見つけており、なによりもユカリは神話なんかで考え方が覆るような性格でもなかった。


 「いいか?あのセノって奴は異常だ。なんの理由があるか知らねえが銀髪で居続けるやつなんて世界中を探してもあいつくらいだよ」


 「へえ、なるほど」


 会話が終わる頃にはギルドの近くまで来ていた。


 「そういや名乗り遅れたな。俺はエヴァルト・クラニ、しがない街の警備兵だ」


 「友納由香梨です。ありがとうございました」


 「ギルドに行ったら窓口に行け。俺の知り合いがいる。身分証の代わりになるもんを発行してくれるはずだ」


 「本当に何から何までありがとうございます」


 「なに、ただ仕事をサボりたかっただけさ。それじゃあな」



 =*=*=*=*=



 ドキドキと高鳴る胸を押さえながら扉を開くと、ユカリは自分に視線が注目するのを肌で感じる。この辺りでは黒髪黒目というのは珍しいのではないかと感じていたが、やはりそのようだと確信を持つ。

 好奇の眼差しを受けながら窓口へと向かう。窓口に座る職員たちも同じ目線を向けていたが、唯一こちらを一瞥しただけで仕事に戻った職員がいた。クールな女性で、仕事ができそうであるという根拠のない印象を受けた。そして、兵士から聞いた知り合いの特徴にも一致している。


 「……ご用件は」


 彼女の窓口に行くと、不機嫌なのかと思ってしまうくらいに抑揚の無い声でそうきかれる。


 「えっと、その、門兵のエヴァルトさんにここで身分証を発行して貰えると聞いたのですが――」


 エヴァルトの名前を出した瞬間に無表情だった彼女の目が一瞬細まったのを見ながらユカリは事情を説明する。


 「わかりました、ギルドの認識票でよければ発行しましょう。文字はかけますか?」


 「む、無理です」


 「それではこちらが質問していくのでそれに答えてください。まずお名前は――」


 そのあといくつか質問をされ、すぐに認識票を発行してもらえた。金属製のプレートには名前や年齢性別など基本的なことに加え、冒険者ランクの欄にEと印字されていた。

 そんなことよりも無事に文字の意味が認識できていることに感心しながら、礼を述べたあとで窓口をあとにする。


 「さてと、これからどうしようかな」


 もう夕暮れといった時間で、お腹も空いてきた。しかしユカリは今文無しである。軽く詰んでると思いながら、ギルドの掲示板を見てみることにした。

 掲示板には依頼の紙が張られてはいたのだが、討伐や危険なところへの調査依頼ばかりで、ペット捜索や手伝いなどの安全なものはなかった。

 しょうがないのでユカリは街をぶらぶらと歩きながら今後を考えることにした。表通りを歩いていると、屋台から香ばしい匂いが漂ってくる。お腹が鳴らないことを願いながらしばらく歩く。すると、少女の声が前方から聞こえ、ユカリは顔を上げる。


 「あれ、昼間の」


 「あっセノさん」


 いつの間にか街の端の方まで来ていたユカリは、セノと再び会うことになったのだった。



 =*=*=*=*=



 「お、お邪魔します」


 「ごめん、なにもないけどくつろいでいって」


 あの後無一文であることを相談されたセノは、ユカリを家へと誘った。不思議な縁を感じており、なにより街中とはいえ自分と同じぐらいの年齢の子があてもなくさまよっているのを放ってはおけなかった。

 ユカリもその誘いを断る理由はなく、セノの家の初めての訪問者となるのだった。


 「それじゃあ私は晩ごはんを作るから」


 「あっ手伝います!」


 「……分かった。野菜を切ってくれる?」


 「はい、よろこんで」


 セノはいつもは広く感じる台所が、初めて狭く感じた。しばらく二人は何も話さなかった。ユカリはセノに迷惑をかけないように集中しており、セノはユカリの手際の良さに驚いていた。


 「……どうして私を避けないの?」


 先に口を開いたのはセノだった。それに対してユカリは表情を一切変えず、目も手元からそらすことなく、ただ当然だという風に答えた。


 「避ける理由がないからです」


 「理由?それなんていくらでも……例えばこの銀髪とか」


 「ああ、そんなことですか」


 ユカリの言葉にセノは目を見開く。銀髪であることをそんなこと(・・・・・)で済ませた人は今までに1人もいたことがない。

 セノが絶句している様子を見てユカリは言葉をつなげる。


 「そもそも私、神なんて信じていないので。神話にあるからなんだっていうんですか、あんなのただの作り話でしかないでしょう?まあこの世界では私の価値観のほうが異質なようですが」


 セノは何か反論をしようとして、何も言葉が出てこないことに気づく。反論として言葉を並べることはできるだろう。しかしそれはただの屁理屈でしかない。セノは何も言えずに俯いてしまう。


 「それに……セノさん?ちょっと!大丈夫ですか!?」


 セノはユカリから肩を掴まれて初めて自分が過呼吸を起こしていることに気づく。荒い息を無理矢理抑え込むが、症状は悪化していくばかりだ。


 「ほら、落ち着いて!ゆっくり息吐いて!」


 セノにはユカリの言葉に従うかどうか判断する余裕さえ無かった。もうとっくに四肢に力は入っておらず、ユカリが支えてくれなったらこのまま倒れてしまっていただろう。ユカリはセノを抱きしめるようにしながら、その場に座らせる。


 セノには、久しぶりに感じる他人の体温が心地よく感じた。



魔法:自分のMPを消費して魔獣の力と似た行為を行うもの。詠唱が必要で、その間無防備になってしまう。呪文は、魔法書をもつのが普通である。魔術に比べMP効率は悪いが、呪文の詠唱を読むだけで誰でも複雑な魔法が使えるという特徴がある。

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