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銀髪の悪魔は黒髪の転移者と共に行く  作者: 畑渚
第一章 始まりの街
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第一話 銀髪の悪魔

 この世界に広く語り継がれている神話の1つに、銀髪の悪魔というものがある。

 ある日、廃れた村に1人の少女がやってきた。彼女は強かった。村に来てすぐの頃、その村が害獣の被害にあっていることを知り、それを撃退してみせた。そのことで村人の信頼を得た彼女は次にその明晰な頭脳を持って村を発展させた。村人たちはその少女を銀髪の天使と呼び、崇めた。

 銀髪の天使のおかげで王国随一の街に至るまで発展したその村は、彼女を街の長にすることにした。しかしそれが決まった日の夜、その銀髪の天使はこつ然と姿を消した。

 それから間もなく、魔族の王国侵攻が始まり、魔族の領土に近かった村は大した抵抗もできずに占領された。

 ここまでならこの物語は村を戒める教訓で済んだのだが、もう少し続きがある。

 数少ない村の生き残りの証言である。


 「あの場には悪魔がいた。ただ力が強いだけじゃなく、高い知略も持っていた。そして何よりもその悪魔は、あの天使と同じ、透き通るような銀色の長い髪をたなびかせていた。やつは俺らを体のいい駒としか見ちゃいなかった。はじめからこうするつもりだったんだ」


 この神話が国に与えた影響は計り知れない。銀髪は国中から忌避され、宗教は銀髪を禁止し、老人たちは白髪が銀髪に錯覚することを避けるために髪を剃るか染めるかをする。

 宗教の権力が強い地域では、未だに銀髪の子を浄化の炎で焼く習慣さえ残っているくらいだ。


 そんな世界で銀髪のままで生きていると、どうなるか。



 答えは簡単で、味方がどこにもいない辛い人生を送ることになる、だ。



=*=*=*=*=



 朝の肌寒さにセノは目を覚ます。どうやら小休止のつもりが眠ってしまったらしい。迷宮の中で寝てしまうとは情けない、と自分を戒める。荷物を検めてみて何も盗られていないことを確認し、安堵の息を吐く。前に流れてきた髪を耳にかけ直し、剣を装備する。軽くべたつく肌にうんざりし、帰ったらすぐにお風呂にはいろうと堅く決心しながら、セノは帰路へとつく。

 セノの立ち去ったあとにはゴブリンの死体だけが残っている。その光景は凄惨の一言に尽きるだろう。身体を綺麗に両断された者、大きな力で叩きつけられた痕がある者、四肢が切り取られ、自分の血溜まりに溺れることになった者。しかしここにセノ以外の誰かが居たという形跡はない。剣の達人も、怪力バカの大男もいない。ここには店で安売りされていた剣を持った、剣を振れるかさえ疑問を感じる細腕のセノしか、来ていない。



=*=*=*=*=



 セノがギルドの扉を開くと、視線が彼女に注目する。だがこの視線には好意は含まれていない。セノもこの視線には慣れたもので、気にせずにその銀色に輝く髪をたなびかせながら窓口へと向かう。


 「換金をお願いします」


 窓口には無表情の職員が座っていた。他の職員だと露骨に嫌な顔をされるので、セノは最近はもっぱらこの人の窓口に来ていた。職員はセノの置いた袋を開けて手早く個数を数えると、対応した枚数の硬貨をカウンター上に置く。仕事が早いということも、セノがこの職員を気に入った理由の1つだった。

 ありがとうと感謝を述べて報酬を受け取り、そのままギルドに併設された酒場へと向かう。カウンターで酒を受け取り喉を潤そうとしたとき、座っていた椅子ごと蹴り飛ばされる。シンとしていた店内に、酒の入ったコップが落ちる音が響く。


 「おっとすまんすまん、足が引っかかっちまった」


 セノは自分の頭に血が上りかけているのを自覚しながらゆっくり顔を上げる。案の定そこには謝る気が一切なさそうな大男が、何人もの取り巻きを連れてそこに立っていた。


 「ほら、これで新しいのを買いな」


 大男はそういって硬貨を投げてくる。だがそれはセノの手が届かない位置に落ちてしまう。男たちはセノがのっそりと動いてその硬貨を拾うのを笑いながら見る。

 彼らにはセノの姿が滑稽に映っているのだ。一日の稼ぎの半分にも満たない酒一杯の値段のために小銭拾いをするセノの姿が。


 セノは硬貨を拾って拳を握りしめる。殴りかかりたくなるのを抑えながらチラリとギルドの窓口に視線を向けるが、目が合った瞬間にそらされる。彼らもまた、傍観者に過ぎないのだ。しょうがなくそのまま扉の方へ向かう。


 「ははは、おい皆、銀髪の悪魔様がお帰りだぜ!」


 大男のその声に続くように、いろいろな野次が飛んでくるが、それらを無視して足をはやめる。フードを深く被り直して銀髪を隠し外に出ると雲ひとつ無い快晴が広がっていた。強い日差しに嫌な顔をして、折っていた袖を伸ばして肌を隠した。



=*=*=*=*=



 「ただいま」


 町外れにポツンとたった家に、寂しくセノの声が届く。もちろん返ってくる言葉はない。その立地と経年劣化によって安売りされたのをセノが買い取り、少しづつ自分で補教工事をしている一軒家だ。1人で住むには広すぎる物件だが、彼女と一緒に住む物好きはいまのところいない。


 そのまま風呂場に向かい、装備を外す。大きめのコートを脱ぐと、彼女の異常な程に白い肌が空気に触れる。一切傷のない肌は、探索者らしくない。回復魔法は確かにあるが、小さな切り傷にかける程MP効率の良いものではない。致命傷の場合でも完全回復に使われることは稀なほどだ。

 身体を洗い湯船につかると、ため息が漏れる。ここ最近でセノが最もリラックスできる瞬間が、これである。十分に温まってから上がり、今度は料理にとりかかる。といってもセノにそんなに凝ったものを作る腕はない。適当に調理したものを盛り付けて席に着く。

 食事前の祈りをせず、そのまま食べ始める。もし他に誰かが見ていたなら、汚い言葉で罵られていただろう。しかしここに咎めるものはいない。

 食べ終わって食器を片付けていると、ポストに何かが入った音がした。また嫌がらせかとうんざりしながらも剣を片手に玄関に出てみると、ポストに一通の便箋が入っていた。差出人がギルドであることを見ると、どうやら今回は嫌がらせの類では無いらしい。


 「指名依頼……私に?」


 中身を読んだセノは怪訝な表情を浮かべる。確かに彼女のランクはCで、指名依頼をうける条件はギリギリ満たしている。しかしながら銀髪の悪魔と悪名高いセノに今まで一度も指名依頼が来たことはない。

 依頼内容は未開拓の森の探索で、報酬は見つけたものに応じて増額される。一見ごく普通の探索依頼なのだが、これが指名依頼であることが何よりの異常だった。うまく行けば一攫千金のこの依頼は、探索者の中でも人気の依頼の1つだ。


 怪しさを感じながらもテーブルに便箋を置いて、作業場へと向かう。保管している砥石などの道具を取り出し、剣の手入れを始める。探索者で自分で剣を研ぐ者は少ない。プロに任せてもあまり値段が張らず、自分でするよりも綺麗にしてもらえるからだ。それでもセノが自分で研いでいるのは、彼女の剣を研いでくれる鍛冶屋など無いからだ。

 装備の手入れが終わるころには日が沈みかけており、セノは軽く晩飯を済ませてから寝る準備にとりかかる。身体を拭いて寝巻に着替えるとベッドに横になる。


 この生活を続けて早くも3年。流石に慣れたとはいえ、寂しさもある。セノもまた、ここではただの1人の少女に過ぎない。毛布を被り、身体を丸め、震える手を押さえつける。年相応の少女を支える人は……まだいない。


感想や指摘等ありましたら、是非よろしくおねがいします。

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