13話 オークとの戦い
俺とヒルダは木を陰にしながらオークへと接近していく。
ガイさんには戦闘能力があまり無いということで、俺とヒルダ二人で戦うことにした。
ガイさんが犠牲になってしまっては元も子もないからだ。
位置に着いた。
という報告を手振りとアイコンタクトで行う。
ヒルダも位置に着いたようで、後はタイミングを見て攻撃を仕掛けるだけだ。
作戦としては、俺とヒルダの初撃で二匹のオークを仕留め、その後残りの一匹を倒すというものである。
三匹のオークと真っ向から立ち向かっても勝てる可能性は100%とは言えない。
むしろ負ける可能性もある。
それならば数を減らすことが優先事項だ。
オークたちは話し続けている。
俺には言語が理解できないので、どんな内容か分からないが、殺気などが感じられないことから和やかな話であると推測する。
狙うなら今がチャンスだろう。
俺はヒルダへサインを送る。
ヒルダが頷いたことを確認し、指でカウントを示す。
3……2……1。
今だ。
バッと木陰から飛び出して目前のオークの首に向けて剣を横薙ぎにする。
『グォオ!!』
剣には確実に首に食い込む手ごたえがあった。
しかし、予想よりもオークの首は硬く、切断まで至らなかった。
半分ほどで止まってしまったのだ。
普通の生物であれば絶命してもおかしくないのだが、オークはまだ生きている。
慌てて剣を引き抜き、構え直す。
失敗だ。
オークは立ち上がっており、傍にあった棍棒を手に持っている。
首を半分切断されてもなお立ちはだかる姿には畏怖すら感じてしまう。
だが、こんなところで相手を恐れている場合ではない。
なぜなら、ヒルダはすでに一匹オークを仕留めると、もう一匹と対峙しているのだ。
早く加勢に行かなければ。
剣を握る手に力が入る。
「くたばれぇ!!!」
気合を込めた喝と同時に強く踏み込む。
その瞬間にオークも棍棒を叩きつけてきたが、もう遅い。
こちらが懐に入ってしまえば、図体がでかいオークには不利だ。
棍棒を躱してオークのみぞおち辺りに剣を突き立てる。
かなり分厚い皮膚と筋肉だが、全力で突き刺すと剣はズブズブと沈んでいき、 オークの体を貫通した。
どうやら致命の一撃となったようで、オークは棍棒を取り落とし、膝から崩れ落ちる。
まだ息はあるようだが、確実に死ぬだろう。
今はとどめを刺すよりもヒルダの加勢だ。
突き刺した剣を引き抜くとヒルダの下へと向かう。
「遅くなった!」
「良かった、無事みたいね」
「後はこいつだけだ」
「ええ」
ようやく当初予定していた二対一の状況を作ることができた。
俺とヒルダは肩を並べて最後のオークと対峙する。
ここからが正念場だ。
このオークの皮膚や筋肉の分厚さと硬さは先ほど痛感した。
かなり力を入れて攻撃しないと致命傷を与えることはできない。
だが、臨戦態勢の相手に対して全力で斬りかかる余裕はないだろう。
上手いことダメージを与え続けて戦力を下げていくことが最善だ。
「ヒルダ。攻撃を躱しながら隙をみて反撃しよう」
「分かってるわ」
「腱を損傷させることができれば、かなり有利になるはずだ」
ここからの狙いは腕や足の腱を断つことだ。
それからの俺とヒルダの行動は作業的なものだった。
命の危険がある作業ではあるが。
オークの攻撃を躱しては関節などを狙っての攻撃を繰り返すのだ。
しかし、これがなかなか難しいもので、オークもこちらの意図に気づいているのかは分からないが上手く関節に当たらないように避けてくる。
オークは全身切り傷や刺し傷だらけだが、まだピンピンしているのだ。
「シグルズ。このままじゃ埒が明かないから、少し無茶するわよ」
「どういうことだよ、ヒルダ?」
「少し踏み込んで攻撃する」
「ダメだ! 確かに時間はかかるけどこの方法が一番だ」
「時間をかけ過ぎれば他の魔物が寄ってくるかもしれないわ。新しい魔物を相手取るほどの余裕はないはずよ」
「それは……」
「大丈夫、上手くやるから」
そう言うとヒルダはオークとの距離を詰め始める。
そしてオークの攻撃を誘うと、それを紙一重で躱しオークの顔を目掛けて槍を突き刺した。
ヒルダの槍はオークの左目を貫いたようだ。
オークは痛みからかガムシャラに腕を振り回している。
「キャッ!」
運悪く振り回している腕がヒルダに当たってしまったのだ。
ヒルダは弾き飛ばされ、地面を転がる。
その光景を見た俺の中で何かが弾けたのを感じた。
「てめぇ!!」
考えるよりも先に体が動いていた。
俺は振り回されるオークの手を躱していくと、剣を喉笛に突き刺す。
剣はいとも容易くオークを貫き、絶命へと追いやった。
そして剣を横に薙ぐと、オークの首は落ち、剣先にはガイさんの恋人の形見である首飾りが引っ掛かっていた。
自分でもビックリするほどの力加減だったようだ。
血で汚れてしまったが洗えば大丈夫なはずだ。
しっかりとポケットへとしまい込むと、ヒルダの下へと駆けよる。
幸いヒルダは軽傷なようで、地面にペタンと女の子座りしていた。
「大丈夫か、ヒルダ!?」
「うん。特に外傷とかはないわ」
「良かった……」
ヒルダに怪我がなかったのは一安心だ。
俺はホッと一息つく。
そして、ヒルダに手を貸して立ち上がらせる。
「強いんだなぁ、二人とも」
「ガイさん! 怪我とかはないですか?」
「俺は見てただけだから大丈夫だよ。それよりヒルダちゃんは大丈夫かい?」
「はい。少し油断しただけです」
「それなら良かった。俺のお願いのせいで君たちに怪我させたとなったら未練が残るところだ」
ガイさんは明るく振る舞いながら、俺たちの無事を喜んでくれた。
そんなガイさんを見て先ほど取り返した首飾りを思い出す。
「ガイさん、取り返しましたよ! 血で汚れちゃったけど洗えば大丈夫なはずです!」
「ありがとう! これでシーラも浮かばれるよ。少し行ったところに小川があるんだ。悪いけどそこで洗ってくれると助かるよ!」
「分かりました」
「こっちだ! 着いてきて!」
ガイさんはウキウキとしや様子で小川への先導を始めた。
恋人の形見が帰ってきて相当嬉しいんだろうな。
「行こうか、ヒルダ」
俺とヒルダも後を追って再び森を歩くのだった。




