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【書籍化】私の推しメンは噛ませ犬◆こっち向いてよヒロイン様!◆  作者: ナユタ
◆一年生◆

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*17* 転生者仲間はオネエさん。



 自分から抱きついておいてなんなのだけれど……これは少しばかり予測していなかった。マンゴー色の髪は褐色の肌によく映えるし、瞳だって海に沈む間際の夕陽のような色合いを持っていて美しい。


 見た目は非の打ち所のない褐色のイケメン。しかし一度口を開けば「それから、一旦離れなさいよ。人違いにしても、女の子が軽々しく男の腰にしがみついたりしちゃ駄目よ?」と至極まともな注意をされてしまった。


 あの、だけどですね……何だろうか、この○ッツマン○ローブと○ツコを足して割ったような――友人に一人いたら絶対相談事してしまいそうな頼れる“オネエさん”感は。


「それからこの頭の、これ何なの?」


「え?」


「だから“え?”じゃないわよ。こ・れ・よ、こ・れ! あら、でも……刺さってるわけじゃないの?」


 こちらも困惑していたもので反応が鈍かったせいか、それに苛立ったオネエさんは私の頭の上にある“何か”を掴もうと手を伸ばし……触れないことに驚いているようだった。


 スカスカと私の頭上をオネエさんの大きな掌が往復するのだけれど、当然人前に出るのにオネエさんが言うような、三角コーン擬きを頭に乗せて出歩く面白い癖はない。誤解のないように言えば、うちの領地にもそんな風習はないからね?


「は? やだ、本当にどうなってんのよ、これ?」


「いや“どうなってんの”と言われても……それならこっちだって、その周辺をビカビカ眩しく彩ってるエフェクトをどうにかして欲しいと言うか……」


 一瞬、腰にしがみついたままの私と、そんな私の頭の上で執拗に空を切っていたオネエさんの視線が交差する。あるのは同じ困惑の色だ。


 そして――。


「「……ちょっとこのあと暇ある?」」


 見事なハモリをみせた以心伝心ぶりだけれど、別にこの出逢いでラブワゴンは走り出したりしない。その証拠に互いの目の奥に光るのは、腹の中を探り合う十代ではない人生観を持った人間の色。


 私を腰にぶら下げたままのオネエさんに、一緒に鍛錬をしに来ていた数人の男子生徒達からは「え、なになに彼女?」や「お前モテるもんな~」といった、とんでもない誤解を含んだ言葉が飛んでくる。


 慌てて腰から離れた私とは対照的に、オネエさんは「アンタ達はそういうところが駄目なのよ。もうちょっと気遣いが出来ればモテるのに」と余裕のある大人な返しをしていた。……私が転生してからというもの、はしゃぎすぎている自覚があるだけに辛い。


 このオネエさんが前世で何歳だったのか知らないけれど、出来れば歳上でありますように。


 そんな私の心など知る由もないオネエさんは、振り向き様にややたれ気味だが、そこが色気を感じさせる目を細めてイケメンな笑顔を浮かべる。右目下にある黒子がまた良いアクセントを効かせているなぁ、なんて思う。


「ほら、アンタもぼうっとしてないで。こっちよ」


 ガタイの良さから意外なほど優しく手首を掴まれ、引かれるままにその隣をついて行く。これだけ身長差があるのに隣を歩けるということは……かなりエスコート慣れしていると見た。

 

 訓練場の少し奥まった場所にあるベンチに座り、互いに互いを頭の先からつま先までじっくりと眺める。


 そして全身の確認が済んだ私とオネエさんは、互いに向き合った状態から立ち上がり「「初めまして」」と腰をしっかりと曲げたお辞儀をし合う。


 ……あぁ、懐かしいな。このお互いに顔の見えない営業畑のお辞儀。これで名刺があったら再現度が高まるのに。


 そう感じながら顔を上げた先に、同じような表情を浮かべたオネエさんを捉えて、私達はほんの少しだけ前世の癖に苦笑し合った。



***



 そして、私とオネエさんが魂で惹かれあって会談を始めてから一時間後。


 ――まずザッと今まで聞いた説明を頭の中でおさらいしてみようと思う。


 オネエさんの今世でのお名前はラシード・ガラハット。


 シナリオ上は隣国からの留学生となっているが、私はホーンスさん同様にこのキャラクターの存在も知らない。


 外見は派手なオレンジ色の髪と瞳を持ち、どちらかというと千夜一夜物語の世界の住人っぽい小麦色を通り越して、やや浅黒い肌をしている。そして、やはりというか……私と同じ世界からの転生者らしい。


 前世ではメイクアップ関係の仕事についていたそうで、この世界に転生してしまった心当たりは、ギャルゲーや乙女ゲームで主人公キャラを磨くのが好きだったことから、そこからではないかとの話だった。


 ちなみに恋愛対象はどっちもオッケーだそうだ。ざっくばらんな語りから何となくそんな気はしてたけど。


 職業柄不細工を言い訳にしている男女を見ると着飾らせたくなる病気だとかで、話している間中、私のことをチェックしているのが分かった。うん、溜息吐くの止めてくれないかな?


 二人とも大人なので、前世何で死ぬ羽目になったか何てことは口にしない。私の場合、特に悪い意味でニュースになるタイプの人生だったから。冤罪とはいえバレたら気分が悪いし。


 運の良いことにオネエさんは転生して自我を持つ頃には、自分の前世の記憶を思い出していたそうで、私のように高熱にうなされるだとかいう大事にはならなかったそうだ。羨ましい。


「今までの話の内容を整理すると……それじゃあ、そのヒロインちゃんの気持ちを無視して、そのアンタの推しメンとくっつける手伝いしろって言うの? 嫌よ、アタシ。そんな人の気持ちを良いように操るような真似はしたくないわ。恋愛ってそういうもんじゃないのよ?」


 いきなり恋愛の理非を説かれるとは非常に痛い。しかも話の内容を他人に要約させると私のクズぶりが光っている……。恐らく自分で思うだけよりも三割り増しくらいには。


「いや……語弊があるってば。そうじゃなくて、私は推しメンにも正当なチャンスが与えられて然るべきだってことを言いたいの。普通に前世の感覚で考えてみてよ。足一本犠牲にしたのに、相手はすっかり忘れてて、次に再会したら親の敵みたいに嫌われるのよ? 納得出来ないじゃない」


 しかし私とて懇々と語ってあっという間に断られる訳にはいかないと、やや早口に畳みかける。せっかく何の因果か巡り会った前世仲間に、いきなりクズ判定をされて冷たくあしらわれるのも嫌だけれど、それ以上に私は引き下がれないのだから。


「そりゃあ……その話がこのゲームでのアンタの推しメンの立ち位置だとすると、ちょっとは可哀想だけど。だからってアタシ達みたいな、十代とっくに卒業してる組が口出すのもおかしくない? 感性の押し付けはおブスだわ」


「……チッ」


「ちょい、この子は舌打ちしないの。ただでさえモブ顔なのに、むすくれたら平均より下がるわよ?」


 オネエさん……もといラシードは、幼い頃から今の形で固定されていたところから、前世からかなり良識的な人格者だと思う。だからこういう普通なら嫌味に聞こえる注意もサラリとしているけれど――、


「……顔が良いキャラに転生した人は余裕が違いますね~」


「あら、なあに、その可愛くない僻み方。それに残念だけどアタシは前世でもあんまり今と顔立ち変わらないわよ? 僻むにしても、女の子ならもっと可愛らしくなさいよ」


「……女の子だと可愛くないと駄目なの? それなら、私もどうせモブなら男に転生したかった。そうしたら結婚しないでも領地の跡取り問題なかったのに」


 前世から全く心根の綺麗でも正しくもなかった私は、子供っぽいと理解しつつも、ついひねた物言いをしてしまう。それに眉根を寄せるラシードは、けれど「――あら、嫌だちょっと、そんな顔しないの」と優しく笑う。


「誰も男らしいとか女らしいとか、そういうことを言ってんじゃないわよ。ただそれだとアンタが面白くないんじゃないの? って言いたいの。せっかく推しメンと同じ世界に――それもかなり近い場所に転生出来たのに、何で自分も参戦しようとしないのよ?」


「私は別に、そういうのは良いの。そうじゃなくて、私はもう充分報われたから。あの子もそうだと……そうなれたら良いのにって、思っただけ」


「……ふぅん?」


「何?」


「いいえ、別に何でもないわよ。それじゃあ取り敢えず、今のアンタの話を纏めると、アタシはそのヒロインちゃんとの接触をあまりしないでいれば良いのね?」


 一瞬追いつめられた気持ちになって逃げを打った私に、急にそれまでの責め手を弛めたラシードがそう言うので、多少肩すかしをされた気分になる。

 

 私としては別にこのまま追い詰められたいわけでもないから、そのまま会話の流れに乗るけどね。


「え? あ、うん。そうだけど……良いの?」


「良いも何も、アタシは別にそのヒロインちゃんを好きな訳じゃないし。それとも仲良くして好感度上げて欲しいの?」


「あ、結構です。そんなことされたらこっちの勝算下がるんで。それで充分だよ、ありがとう」


「ドウイタシマシテ。だけど、ねぇ? そっちだけ一方的にお願い事してサヨナラは、狡いと思わない?」


 ――言われてから、ハッとする。


 今までの一時間、私は自分の現状説明に手一杯で、ラシードの置かれた現状や背景をあまり聞いていなかったかもしれない。ただしそれは逆を言えば、それくらいラシードはこの世界の中に馴染み、多くの友人を持っていたからだ。


「あー……うん、それは確かに。大したことは出来ないけど、私に出来ることなら何でもするよ」


「……アンタねぇ、もう少し言葉は慎重に選びなさい?」


 そう困ったように微笑んだラシードは、私の頬にその大きな掌を当ててスルリと撫でた。そんなことをしてくる人は、この世界でも父様と母様しかいない。


 だからほんの少しだけ照れ臭い気がして視線を彷徨わせていたら、何を思ったのか、ラシードは迫力のある華やかな笑みを浮かべると、いきなり過ぎることを曰った。


「――決めたわ。アンタは今日からアタシの玩具よ」


「え、ちょ、何それ……?」


「あぁ、いかがわしい意味じゃないわよ。安心なさいなチンチクリン。アンタ相手にそんな気になったりしないわよ。そうじゃなくて、アタシが用があるのはアンタの顔面よ」


「……顔面?」


「そう。こっちの世界の子達ってば、皆モデルさん並に綺麗でしょう? だからアタシのメイクの腕が落ちちゃって困ってたのよね? その点アンタは究極の平均点か、不細工な悪巧みしてる時はそれよりやや下じゃない。久し振りにメイクのしがいがありそうだわ~!」


 全然遠回しでも何でもない侮辱発言。これを聞き流しては流石に今世の両親に申し訳が立たない。地味なモブ顔に生まれてしまったとはいえ、今世の両親は娘の私の欲目を除いたとしてもそれなりに穏やかで良い感じの顔立ちなのだ。


「ちょ……侮辱するにもほどがあるし……それに私、お化粧嫌いだから!」


「あら、そんなこと言って良いの~? 労せず攻略キャラ自ら退場してあげようってのに……あぁ、アタシ何だか急にヒロインちゃんに逢ってみたく――」


 けれど私の抵抗もラシードの上げたわざとらしい発言に遮られる。オネエさんは大概一筋縄では行かない人が多いけれど、ラシードもそれに漏れない類の人物なのか……!


「ストッープ! その脅し方は狡いじゃない!」


「はぁん、お馬鹿ねぇ。脅しは元から狡いもんなのよ。それで……この条件を諦めて飲むの? 飲まないの?」


 ちょっと思っていた協力とは違うけれど、背に腹は代えられまい。こうなれば女だって度胸だ。なにも男だけの専売特許ではない。


「そんなの、もう……飲むしかない、」


「はーい、おブス。可愛くお返事のや・り・な・お・し」


「わぁい! 喜んで~!」


 くぅぅ……推しメンの未来の為ならば、何のこれしき! こうして私はこの日から、オネエさんの玩具になりました。


 …………はあぁ。


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