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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第一章
9/44

9・孤島の侵略者

少し長くなりました。

魔法名は思い付きのままに並べているだけなので結構適当です。

 リティウス、カーリィ、ドルトが三者三様の威圧を放っていた頃。


 噂に聞いた話を纏めて、気配を出さなければいけるのではないかという事になり、実力者・研究者達を乗せた西南大陸のとある国の調査団である船団は、船全体に気配遮断の魔法を掛け、更には魔法そのものにも気配遮断の魔法を重ね掛けし、工夫を凝らしていた。


 リティウス達が気付けなかったのは、ルンルンランランとティータイムを楽しんで気を抜いていたのに加え、巧妙な気配遮断魔法のせいだったというオチである。


 そして、遠視で孤島全体を見回る。

 孤島は、森林で覆われた楕円系。ほぼ正円に近い。

 話に聞いていた通り、四季折々の植物が東西南北に区分けされ生息しているようである。

 自生なのか帰化なのかは定かではないが、この事実自体が孤島は異常な場所であると認識できる。


 ただ、どんなに遠視力を高めても孤島の深奥部だけは、覗き見ることが出来なかった。


 深奥部も木々で覆われている様にも見える。

 が、何かに阻まれている様にも見える。

 或いは、何かを隠している様にも見える。


 実際に侵入してみるしかない。

 そう決断した乗員達は、船に残る者と探索する者に別れ行動する事にした。


 捜索隊は、周囲をじっくり観察した後、次の行動に出た。

 ある生物研究者の一人が、未確認生物がいると声をあげたからである。


 気配遮断を上掛けした魔法は巧く作動し、その生物に気取られる事なく捕獲することが出来た。

 それをこっそりと船へと送る。


 孤島に生息者を持ち出そうとすれば、どこからともなく妨害が入り放り出されてしまうと聞いていたのだが、高度な気配遮断のお陰で何事も無く終わった。


 そこまではよかったのだ。


 更に調査を掛けていると、希少植物も発見した。

 そこで生物を捕獲したと同様に、その植物も採取しようと試みた。

 が、魔法を放った途端に威力の均衡が崩れ、気配遮断の魔法力を上回り暴発した。


 魔法を他の魔法で重ねる時、繊細な調整が必要となる。

 それが崩れると魔法同士の力が反発しあい、魔力が暴発するのだ。


 均衡が崩れた理由は、至極単純で繊細な調整をしている最中に、一番かなめとなる人物が、


「ぶぇっくしょいっ!」


 と、盛大なくしゃみをしたせいである。

 くしゃみの原因は、その植物が定期的に放つ大量の花粉のせいであった。

 タイミングが悪かった。

 仕方ない。


 そして。

 魔力が暴発した結果、辺り一帯はぽっかりと焼野原の如くになっていた。


 程なくして。

 膨大な魔力を帯びた細長い火魔法が、なんの音沙汰もなく突如として空間から現れ船を直撃する。


 探索隊は直撃した時の音にビクリとなり、船の方へ遠視をかけるとそこでは船員総出で火を消そうと右往左往している姿があった。


「たっ、たたたたたっ、隊長!! これ以上は危険です! 戻りましょう!!」


 島内を侵攻していた団員の一人が、へっぴり腰になりながら進言するが、


「否! ここまで来て引き下がれるものか! 我等は大義名分とともにここへ来たのだ!」


 素直にいう事を聞いて戻って置けば良かったものを、隊長は良く分からない大儀を翳して拒否した。


 直後。

 ズシンッと重苦しい威圧感が島全体を覆い、侵略者達は思わず足を止め硬直し、ある者は座り込んでしまっていた。


 一方、船上では、


「うわあああっ! あちちちちっ!」

「船尾楼甲板破損!」

「ええ~い! 鎮火急げえ~~いっ! 魔法師は何をしておるのだ!」


 急に降って沸いた様に現れた細い糸の様な火魔法に、大わらわとなっていた。


 魔法師組はといえば、見た目細く頼りなげな火魔法だったが、その形状の割には濃縮された魔力の半端なさに、荒らげた声が掛かるまでぽか~んと口を開けて着弾した個所を眺めている始末である。

 早く鎮火しないと沈没するのだが、この魔法師組は大丈夫なのだろうか……。

 頼りなさげである。

 が、あの一瞬の魔力を見極めることが出来るというのは、魔法師としては実力がある様だ。


「うえっ、あ、ははははい!」

「「「「「ウォーター!」」」」」


 はっとなって、動揺していた魔法師組が一斉に水魔法を唱え、大量の水をばしゃりとかけ鎮火する。


「冷てぇっ! そんなにぶっかけて今度は水で沈没させるつもりかあああっ!」

「わわっ、すみません!」


 船団長が更に怒鳴りつける。

 辺りは波紋が出来る程度には水浸しになっていた。

 本当に大丈夫だろうか……。


「それで!?」

「は?」

「……どこから飛んできたんだと聞いてるんだ、馬鹿者がッ!」

「は、はい! 方向と魔力発生源からして恐らく……」


 と、船上に残っていた魔法師組のリーダーが、孤島の中心部を差す。

 一瞬の出来事の割には、なかなか勘が鋭い。


 そうこうしている内に、同方角より魔力を察知する。

 今度は注意していたために、気付くことが出来た。


「同方向より魔力感知! これは……恐らく雷魔法! 対雷魔法結界を展開せよ!」


 魔法全般の結界に対して、特定の属性魔法専用の結界の方がそれに対して威力がある。

 発動する魔法の種類によって魔力質も変化するのだが、軽く手を抜いていたとはいえカーリィの魔力質を離れた場所から察知するのはかなり集中が必要になる。


 そんなわけで、雷魔法と断定したこのリーダー、行動に多少の難あれど出来る者の様だ。


「「「「「対サンダーバリア!!」」」」」


 複数人が多重結界を張り、強度を図る。

 魔法全般を防ぐ結界もあるのだが、属性が分かれば対属性結界の方が威力が高い。

 ギリギリ結界を張る事に成功した直後、予想通り雷魔法が着弾する。


「ぐっ……。なんだ、この重さは!」

「これ、ただの雷魔法だろ!? ありえねぇっ!」

「耐えろっ! もっと魔力を放出させろ!」


 そう、放たれた雷魔法は本当にただのサンダーボルトだ。

 それなのに重く、結界がビリビリと振動する。

 これを放った相手は、どんな魔力の質と量の持ち主なのか。

 想像して、魔法師全員がぞぞっと背中に寒気を感じていた。


「ぐううっ……! 負、けるかああっ」


 気合で魔力を放出し、更なる結界の強度を上げる。

 そして、放たれた雷は霧散していった。

 結界には皹が入っている。

 重ね掛けの多重バリアとは言え、破壊させなかった事は褒めてもいいかもしれない。


「あれだけ魔力を込めて硬化したんだぞ!? それで皹が入るとか一体どんな奴なんだ……」


 放ったのは、ただのセラフである。

 だが、彼等がそれを知るのはもう少し先の話である……。


「ふむ。やはり中心部が怪しいか。よし! どうせ気付かれてしまったのだ! 今更怖い物などあるものかっ! 攻撃魔法を放て! そして孤島を我等の物にするぞ!」

「はっ!」


 ポーションを飲み、火魔法の魔術を編む。

 ただの雷魔法であれだけの威力を発揮させる人物がいるのだ。

 普通に放っただけでは意味がない。


 そう考えた魔法師組は、


「「「「「ファイヤバースト・インフェルノ!!!」」」」」


 と、遠慮なく人族が扱える高位火魔法の一つ、業火爆発魔法を唱えた。


 名前の割には小さめの炎の硬球が、魔法師達の頭上に浮かぶ。

 小さいと言っても船半分は余裕で覆う大きさはあるし、込められた魔力も相当である。

 個別に発動するのではなく、結界と同様、魔法を練り上げ融合させる事により威力は通常の物より数倍に跳ね上がる。

 そして、魔力を蓄えた火球は徐々にその大きさを増していく。


 冷却魔法を周囲に展開しているとはいえ、漏れる熱さから少しでも逃れようと、船乗員達は思わず後方へと非難する。

 

 カラカラになるまで魔力を込め、「放て!」の合図で一斉に対象へ向けて放つ。

 炎の硬球は、ゴオオオッと鈍くも激しい音を立てながら、目的地へ向かって突き進む。


「ふわははははっ! これでこの孤島は我等の……ッ!?」


 船団長の勝ち誇った顔が固まった。

 魔法師達も固まった。


 そ ん な バ カ な。


 そんな文字が全身から滲み出ている。


 瞬時にして孤島の周りに張られた結界は、魔法師達の渾身の一撃である火魔法をいとも簡単に霧散させた。

 皹が入るどころか、結界が振動すらしない。


 おまけに、結界に接触したと同時に展開されていた冷却魔法が作動し、熱を吸収し奪っていく。


「な、ななななな……ッ」


 船団長の肩が震えている。

 言葉に出来ないなら発しなくていいのにと思うが、気持ちは分かる。

 この結界と冷却魔法は恐らく一人で展開したと予想をつけた魔法師達は、愕然とし口を塞ぐ事も忘れただただ立ち尽くすのみであった。


「こっ、こうなったら直接孤島へ乗り込むぞ! 行け!」

「む、むむむむ、無理です! これは危険です! 止めましょう!」

「ええ~い! 行け! 命令である! この孤島の秘密を暴くまでは帰らんぞ!」


 あーだこーだと揉めている内に、侵略達は更に体を強張らせた。

 体の芯から冷え込む様な毛色の違う重厚な威圧が、ドンッ ドンッッ ドンッッッと放たれ孤島を覆ったのだ。

 最初に感じたも得体の知れないものよりも濃厚な重圧。

 おまけに、獣の遠吠えが全体を駆け巡る。


 上陸した者・船上に残った者全ての侵略者が、足を止め膝を突いた。


「……」

「かっ、神の怒り……」


 そう呟かずにいられなかった。

 とてつもない重圧に一歩も動けなくなった彼等は、「はは……ははは……」と乾いた笑いを発するが、後の祭りであった。

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