6・孤島の住人ちょっぴり怒る
「「「!!」」」
<<<!!>>>
リティウス、カーリィ、ドルト、そして精霊達が、ふいにピリピリと張り付く空気を纏わせトゲトゲモードになり、すっと目を細めた。
「??」
ファルルは、急にシンッ……と静まり返った場に、一体何が起きたのかとビクリと肩を竦めて体を強張らせるが、体系のためか見た目あまり緊張感が得られない。
「あーん。ファルル驚かせちゃった~ぁ」
「え……と……?」
動揺しながらちょっとだけ困ったように声を出すファルルに、困った様な笑みを浮かべてカーリィはファルルの頭をナデナデする。
「全く。せっかくのファルル様との団欒を楽しんでいるというのに。邪魔をするのは、一体何処の輩でしょうか」
「おーい……。オレ達もいるし?」
ファルル以外眼中にないといった風に言い放ったリティウスに、ドルトが思わず突っ込みを入れた。
まぁ、そういうドルトも害された気分は同じなので人の事は言えない。
目を細めたまま、東の方へギラギラとさせた視線を向ける。
(ちょ……っ。リト、こえぇよ……)
(うわ~ぁ……)
「けど、今日は多いわね~ぇ。千客万来?」
「あ、あのね……。三人とも、少し落ち着……」
「ファルル様。何かあってはいけませんから、中へ入っていましょうか」
「う、うん……?」
「精霊達、ファルルを頼むわね~ぇ?」
<<<任せといて~っ>>>
「えと……」
「ファルル様は心配しなくて大丈夫ですよ。少しおイタの過ぎるお客様がお見えになっただけですから」
にこりと微笑みつつも、その目はかなり怒っていた。
外からのお客様に。
精霊達に引っ張られながら中へ入って行くのを見送る。
また躓いてこけたりしないか……、それだけのために……。
「「ほっ……」」
「何事も無く安心しました。ファルル様はやる時にはやれるのです(にこにこ)」
やる時にはやれると判断する基準が低い。
みんな、ファルル補正が入っているので仕方ない。
「さて。ファルル様を隠した事ですし」
言うのが先か、体中から怒気を吐き出すのか先か、ぶわっと辺りに重圧の籠った魔気を発散させる。
久しぶりの外での楽しいひと時をぶち壊してくれたのだ。
三人にとってはそれだけで怒るに充分な理由である。
沸点が低いのは、気にしないで頂きたい。
ただ、これまでとは違いここまで気付かなかったのは初めての事だった。
「カーリィ、様子はどうですか?」
「ん、ちょっと待ってね~ぇ。遠視をかけるわ~ぁ」
カーリィは、目を閉じて気配のあった方へ意識を飛ばす。
「あらあら~……最低ね~」
孤島には既に上陸した者がいた。
上手く気配を隠して、船がこっそり孤島の近くまで寄せている。
上陸した者達の方では、放たれた先の地は抉れ、木々は薙ぎ、そこにいた生物は命を散らしていた。
その前に船から遠目に観察して、偶然希少動物を見つけ捕獲している様である。
ピキンっときたカーリィは、船に向け火魔法を放り投げた。
甲板に穴が開き、そこかしこに火が立ち上り、魔法師や線乗員が消化に向けて右往左往している。
「うふふっ、もっと華麗に踊りなさ~ぃ? それじゃダンスのお相手は見つからないわ~ぁ? そぉ~れ、もう一つお土産よ~ぉ」
と、今度は雷魔法を落とした。
「あらあら~ぁ。ちょーっと手を抜いたからってアタシの魔法を防ぐなんて~ぇ」
相手の張った結界に皹が入っているものの、見事に防ぎ切った事にほんの少し驚いているが、楽しそうなカーリィである。
そして、どうやら今度はあちら側が船より魔法をぶっ放す様だ。
カーリィはぞわっとする程の魔力を放出し、魔術を編む。
ここでいう魔術とは、魔法を使うための術式、魔(法)術(式)、或いは魔(法技)術の略である。
魔術という単語の発音の仕方で、術式なのか魔力を使った手段の方なのかが変わる。
魔術(/ ̄)と魔術(\_)、ややこしい。
魔術(\_)は、魔力も必要となるが、媒体(素材や道具)を使用し、摂理を無視した現象を起こす方法である。
魔術と魔(法)術(式)はややこしいため、一般的には無属性魔法と呼び区別している。
例えば、魔法袋やテレポート。
例えば、意思なき物に意思を与える・力を与える。加える。意識ある者の器(肉体や魂)を占拠する。
例えば、枯れた草木を蘇らせる。真反対の季節の植物を急速に育てる。
例えば、死者を操る。この世にない生物を作り上げる。過去から絶滅した生物を呼び寄せる。(ただし、死者を生き返らせる事は出来ない)
それに対し、魔法は、大気中の魔力や自身の魔力を使用し、自然現象を具現化する能力で、明確なイメージさえあれば発揮出来る方法。
故に体内にある魔力が純粋であればある程、大気中から取り入れる量が多ければ多い程、イメージが強ければ強い程、そしてそこに句や陣が加わればより一層威力があがる。
平たく言えば、火・水・風・土・雷・光・闇の七属性を、操る方法である。
そして、更に魔法とも魔術とも違う分類がある。
精霊や天使や神の使う魔法。もしくは彼等の加護を与えられ、使う方法。
上記の魔法と同じ感じではあるが、それ自体が特殊区分のため微妙に違し、威力も違う。
故に、魔族魔法・幻獣魔法・竜魔法・精霊魔法・天使魔法・神魔法等、種族名を加えて呼ぶ。
分類的にはあやふやなものでもあるが、「魔術と魔法は似て非なる物」程度に思えばいいというだけの話でもある。
ぶっちゃけ、正直面倒なので一括して魔法と呼んでいたりする。
ただ、どちらも陣や句を仕様する事により、その威力が変わるというのは共通しているようである。
面倒なので魔法と魔(法)技(術)の二分類でいいと思う。
そして、カーリィがその方向へ、魔防結界に冷却魔法を器用に組み込んだ魔法を放ち被害を防いだ。
「では、お客様のおもてなしの準備をしましょうか」
「これはちょーっと手痛い仕置きをしなくては、ね~ぇ」
気を抜きすぎた事に深いため息をつきつつ、ファルルが側にいる間は極力抑えていた魔力を一気に放出し、それぞれに姿を変えていった。