16・集落の秘密事
「ところで、上の階の女の子。さっきから弾かれちゃうのよ~ぉ。なんかヤな感じよね~ぇ……、特にあの腕輪」
ガレインもサバトもお互いに目を合わる。
「な、なんで……」
「さっきから微量にヤな空気が流れてるから~ぁ。遠視しちゃったわ~ぁ」
言いながら部屋を出て二階へと上がる。
ガレインやサバトの静止も間に合わない素早い動きだった。
部屋を開けると、見慣れた服を着ているがすっかり体系の変わったファルルの姿がそこにあった。
「ファルル殿……?」
「ファルル?」
丸っこいぽてぽてとした体系ではなく、ほっそりとした姿になっていた。
何より腕輪が同じなのだから、ファルルに間違いないのだろう。
「見られちまったなぁ」
サバトは、頭をポリポリ掻きながらそう呟いた。
「どうかしたのかしら~ぁ?」
「これが嬢ちゃんの本来の姿なんだよ」
と、サバトは説明した。
「日中はコロコロサイズで夜は可憐な女の子、ね~ぇ。この腕輪のせいね~ぇ?」
「あぁ。つってもオレ達に分かっているのは、魔力を吸っているってそれだけなんだがよ」
その辺の事もリティウス達はすぐに分かった。
「ちなみにこの集落のもんはファルルがこうなる事はみんな知っているな。が、変なちょっかいが来て、ファルルにも集落にも厄介になる事は避けたいからな。秘密にしている」
肩を竦めて言いながら、ツンツンと腕輪をつついているカーリィを見遣る。
もしかしたら。なんて期待をしてしまうが、そううまくいかないのが世の常であり……。
「駄目ね~ぇ。リトもバロフも試したんでしょ~ぉ?」
「えぇ。見る事もままなりませんね」
「同じくですな」
この三人が、呪術を解除する事が出来ない。
ただ装飾品として見るだけだったり触れたりするのは問題ないのだが、干渉しようとした時点で何かに弾かれるのだ。
そういう単純な代物ではないという事がはっきりとしてしまった。
「物理的に壊す事も出来なさそうですし」
「そうね~ぇ。強引に壊しちゃったらこの子も一緒に壊れてしまうわね~ぇ」
「そうか……。魔族のトップに天使のトップがそう言うんならそうかもしれねぇが……」
「ただ、どういった類のものか分かった事があるわよ~ぉ?」
弾かれつつも、何度か試みた結果そう言った。
ガレインもサバトもこの腕輪が呪具の類である事は分かっている。
が、どういった影響のある物なのかが分からないでいた。
弾かれるとはいえ、リティウス達でようやくちらっと垣間見れる程度のものなのだ。
普通の人間にその概要が分かる術も無く、探してはいたのだが。
「呪具っていうのは言うまでもない事だけど~ぉ。恐らく使用者の負の望みを誰かに代行させるといった類ものね~ぇ。そういった類の古魔術語がちらほら見えたわよ~ぉ。アタシは種族と立場上、理解して問題ない部分までは古魔術語は知っているけれど、それでも一部だけだなのよね~ぇ。危険な古魔術語が多すぎてわざと消滅させたものまであるのよ~ぉ。リトやバロフ程度の歳でも理解出来たのは比較的新しめの古魔術語くらいじゃないかしら~ぁ?」
「そうですね」
「本当の古魔術語は神族の極一部が知っていたりしたのだけど~ぉ。消滅させたものもそうだけど、代替わりで正しく引き継がれず失ってしまったものも多数あったりね~ぇ……。神族っていっても万能ではないのよ~ぉ。一人が力を持ちすぎない様に色々系列もあるから、あちこち分裂した結果……正しく引き継がれなかったっていう……。ただ、唯一知っていそうなのは……いない事もないらしいのだけど……行方不明みたいよ~ぉ」
リティウスもバロフも首を傾げた。
とある神が代替わりをする時、その宣言と意思を以ってその身は消滅し、同時にその記憶と知識を受け継ぐ神が現れる。
が、時折、新たな神の中にはその記憶・知識の一部を誤って受け継ぐ・或いは一部を消失したまま受け継ぐ者が現れる。
ごく僅かなことが積み重なり、失われていったりする。
それらのほとんどは、前神がこれらは不要と位置付けた物なのだが、不要の度合いによって受け継ぎ方が変わる。
前神の意思による意図的な操作である。
そういうものだと理解しているので、神族もまた深くは気にしていない。
が、その代替わりもしていない唯一知っている神族がいる「はず」。
が、本当にいるのかどうかも怪しい「らしい」。
いたとしても行方不明「らしい」。
いるはずなのにいない。
誰も分からない。
行方不明になるという事はまずない。
神族には、神族同士その存在は必ず分かる。
そして、実際に存在している。
が、いるはずの神は存在「らしき」ものはある様な「気がする」のに、存在が分からないと言う。
「その話は初めて聞きました」
「まぁ……そうよね~ぇ。神族もモヤモヤしているみたいだし、けれど存在があるみたいなのに分からないから、どうしようもないでしょ~ぉ? 実際には、気持ち悪いけど存在していない者の事は判明するまで放置ってことみたいね~ぇ」
「ってそんな話漏らしてもいいのか」
「あぁ、別に隠してるってわけでもないのよ~ぉ。いるはずの者がいないのにいると言っても仕方ないしってだけの話なのよね~ぇ」
「なるほどねぇ。そんな話が聞けるとか、なんつぅか……やっぱり天使族だったんだな……」
と、残念に思えたカーリィだったが、そこはやはり神族に次ぐ地位にある天使族だと認識された。