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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第二章
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14・集落に来た天使

「そろそろ私はお暇致します。殿方同士ゆっくりお話ししたい事もございましょう」

「そうか。気を遣わせてしまったな」

「いいえ。屋敷を空けたままにしておくわけにはいきませんので、一旦戻ります。申し訳ありませんが、お嬢様の事を宜しくお願い致します。明日、お昼までにはお迎えに上がりますので」

「おう。気を付けてな」

「リト様、バロフ様。すっかりご馳走になってしまい、本当にありがとうございました」


 深く頭を下げて、ミクリアは屋敷へと戻っていった。


「さて。まだ夜はこれからです。バロフ、カーリィを呼んで来て貰えますか?」

「はい。また後程」


 バロフは、軽く礼を取り姿を消した。


「転移魔法をいとも簡単に。流石というべきか……」

「オレたちゃ人間には精々隣街、良くて二つ程度でへばっちまう。羨ましい限りだなぁ」


 ポカーンとしながら、深くため息をつく。


「ガレイン、先程の約束覚えていますか?」

「ん、あぁ……。もう無茶な事はしないってやつだな。覚えている」

「バロフにはある人を呼びに行って貰いました。ガレイン、あなたのその不自由な体を綺麗に治して貰うためです」

「!!」

「ちょっ……。リト、流石にそれは不可能……」

「えぇ。普通の回復魔法では、怪我を治すだけです。怪我による後遺症、失った手足、そういったものは治りません。ですが、これから来る者の魔法ではそれが可能になるのですよ」


(一体誰を連れて来るってんだ……)


「慌てないためにも予め打ち明けておきますが……。その者というのは天使族。中でも最高位にあるセラフです」

「「はああああああああああっ!?」」


『お、おい。聞き間違いか?』

『い、いや……。確かにセラフつったぞ……』

『なぁおい。魔族と天使族ってそんな関係だったのか?』

『オレが知るかよっ。オレら人間にはそこら辺は未知の領域だってんだ。つーかよ、水と油みたいなもんじゃねぇのか』

『だよな……』


 などとひそひそ話すのだが、リトには丸聞こえである。

 しっかりと聞いていたリティウスは、苦笑した。


「別に隠している事ではありませんが、交流はあります。紛争していたのは数千年前までの事。時代が変われば風習も変わり人も変わります。人族は強大な力には積極的に関わってきませんし、我々も必要以上に近づきませんし、一般的には広く知られていないというのが現状でしょうか。とはいえ、人族と魔族が争っていた古の時代とは違い、今では人族にも魔族や天使族と交流している者もそれなりにいます。友好的な者とは友好的に、そうでないものはそれなりに、それが今の両種族です。獣族や他の種族にしても似た様なものですが、我々ほどではないでしょう」

「確かになぁ……。人族で暮らす魔族もいるしその逆もあるしなぁ」


 人族にしても他種族と似た様なもの。

 とはいえ、ドワーフや獣族の様にフレンドリーな種族とは一般の間でも広く交流があり、普通にそれぞれの種族がそれぞれの国に移住していたりとか日常茶飯事である。


 しかし、魔族や天使族とは全くでないとはいえ交流がほとんどない。

 特に魔族とは、人化を会得していない、或いは人の形に近い者以外は、その見た目も然ることながら人族には持ちえない力も相俟って、必要のない限りは近付く事はほとんどないし、魔族側にとっては、別に関わらないからと言って困る事もないし、国家間の交流以外ではお目にかかる事が稀という地域が大半である。


 おまけに種族レベルでも個人的レベルでも比較的閉鎖的な空気が微妙にあり、人族側から見て未だに不明瞭の部分もあるのだが、その代わりお互い一旦仲良くなればとことん付き合いが深くなる。

 その度合いに大小の違いはあれど、例え同種族でも敬遠している者同士ではそういう事があるので普通と言えば普通なのだが。


 ただ、そんな中で、魔族のそれも頂点に立つリティウス始め弟妹やバロフの様に、国の中枢のトップ達がここまでフレンドリーなのは少々浮いて見えるのだが、それでも人化していたり魔族特有の膨大な魔力を抑えたりとかそれなりに気を遣っている。


 魔力に関しては、魔族サイドで兵士の底辺とされる魔力量が人族の熟練の魔法師と同等とされるものが多く、人族にしてみれば脅威そのものである。

 時折、魔族よりも強い者が生まれるが極僅か。

 それを考えると戦狂の時代と言われた数千年前、人族が魔族に食って掛かり対立していたのはある意味賞賛に値するかもしれない。


 故に、魔族は常に脅威の標的として認識され滅ぼしてしまわねばという思念に駆られていた。


 それだけではない。


 開拓はされていないが、適度に調整を入れられた膨大で肥沃な大地。

 当然豊かな資源もそこには生まれる。

 魔族を含めた他種族の大半はその恩恵のありがたさを知っている。

 そのため、大地の運用にも気を遣っている。


 対して人族の大半は、目の前にある恵みを片っ端から貪っていた。

 他種族と違い一生が短い代わりに繁殖率も高い人族は、そうでもしなければ増えていく同族を賄いきれないのだ。

 おまけに欲深い。

 その二つが重なり搾り取れる恵みすらなくなり、それでも貪欲に危険地区でもある場所にも手を付け、挙句周辺国からも搾り取り、その結果再生が不可能だと言われるレベルにまで堕ちていった国も少なくない。


 そんな国々が結束し、戦を仕掛けてくるのだ。

 

 魔族サイドにしてみれば、


「性懲りもなくまたかよ……」

「しょーがねぇなぁ」

「正直鬱陶しいんだよな」

「いい加減面倒臭い……。ここいらで本気で心折っとくか」


 と、相当面倒臭かったらしく、そんな事を頂点から底辺まで全体でぼやきながら、適当に且つ容赦なく心を折ったというのは、今も昔も口が裂けても公然と言えない事実があったりするのだが……。


「ここだけの話ですよ」


 と、肩を竦めながらリティウスはそう言った。


 当然の事ながら、はは……と乾いた笑いをするしかない二人である。


 種族や国が変わっても素行の悪いものはどこにでもいる。

 ただ力があるというだけで目立つだけで、魔族だからといって全体がそういう訳ではない。

 そこを勘違いしている人族が多いので、自分達から余り近付かない魔族はどちらかと言えば閉鎖的にもなるし、そう見えてもおかしくない。


「大分話が逸れましたが、そういうわけで呼びに言っている天使族のセラフは、中でも……」


「はぁ~い。そんなセラフのカーリィちゃん、呼ばれてみたわ~ぁ」


 リティウスの説明をぶった切り、自分で「ちゃん」と呼ぶ少し頭の痛そうな「見た目」美少女がバーンッと戸を開け、自信を強調するかのように腰に手を当て胸を逸らして立っているカーリィであった。

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