4・孤島の価値
収穫を確認した所で、食材を種類ごとに袋へ放り込み、平屋の裏手にある倉庫へと運び込む。
「よーっし。収納完了っと。んじゃ、テーブルとか運んどく。泉の方でいいよな」
「じゃあ、アタシはクロスとかもってくるわ~ぁ」
「お願いします。では、私はお茶の準備をしてきますね」
そう言って、自分達の袋を懐にしまい、各々ティータイムの準備に取り掛かる。
この袋、有限ではあるが、二階建て一戸分程度の容量がある。
おまけに時間の経過もなく、袋に放り込んでおくだけで食材は痛まないので重宝している。
袋そのものは小さいが、入れる物の大きさに合わせてぐわんと口が広がり、持ち主が指定した物であれば手で触れずとも何でもかんでも吸い込んでくれる。
こういった時間経過を伴わない袋は、普通魔物からドロップする。
しかもこの手のものは、容量が少ない物でも強力な魔物が稀に落とす宝箱から更に極まれにしか入っておらず、例えそれが普通の鞄程度の容量だったとしても、時間経過がないというだけで希少価値は高い。
時間経過を伴う袋ならそれなりに存在しているのだが、時間経過を伴わない袋は存在自体が少ない。
鞄程度の容量の物でも、その価値は一年は遊んで暮らせるというレベルである。
そんなものが、この倉庫の中にごろごろと、それはもうごろごろと転がっている。
挙句に、一般的な二階建て家屋程度の容量の物から、豪邸!? と一般認識される屋敷程度の容量の物までが、無造作に。
ここにある袋を売れば、人生を二周……いや、三周・四周それ以上出来そうな勢いだ。
しかも豪遊しながら、である。
有限袋には、大・中・小と区分があり、目安としては小は鞄程度から部屋三つ分、中は部屋四つ分から二階建て一般家屋分・大はそれ以上から豪邸分くらいとされており、豪邸分ほどの物になればもう注目の的。
しかも魔物からドロップした物は分かり安く、シンプルでぼろっちい感じの巾着袋。
ただ、容量で色が違うというくらい。
希少ながらも、腰にぶら下げていると「あ、これ時間経過のないやつだ」と、分かる程度には認知されている。
そして、袋に持ち主を認識させた時点でその人しか使えなくなるので、盗んでも意味がない。
が、その代わり、様々な思惑の人達にたかられる。
この倉庫にごろごろと転がっているのはそういう物だ。
ただ、それがどれだけの価値のものかなど、この孤島の住人達には関係がない。
というか、無頓着過ぎてその価値観が薄れていたり、ファルルに至っては「わわわ……。この袋便利なのね……」という認識なので、この価値観と概念を外部の物が知ったとしたら顎が外れる事間違いなし。
しかも、この孤島にあるのはそれだけではない。
一人ずつが時間経過を伴わない有限袋と「無限袋」という物を持っている。
無限の名の通り、容量は底なしである。
無限袋は更に希少で、国家がようやく一つ、金に物を言わせて持っているかどうかのレベル。
一介の冒険者が運良く手に入れたとしても、代わりに最大容量の有限袋(大)に加え、ゲ〇が出そうなほどの金銀財宝を詰み、更には権威に物を言わせて強引に奪われると言う。
そんな物が。
この孤島に最低四つ。
知れば、顎を外すどころか泡を吹いて一生寝込みそうな。
これらを売れば、この世界をまるごとごっそり、普通に掌握出来るレベルである。
ファルルに至っては、ふわふわと笑顔で「わわわ……。この袋とっても便利なのね……」と、「とっても」と笑顔が付け加えられる程度の認識である。
ちなみに。
これら有限・無限袋は、ファルル以外の孤島の住人が作った物であると言ったら。
世界の常識を根本から覆し、全世界の人間が泡を吹いて再起不能になるくらいには、非常識な話だったりする。
魔物からしかドロップしない。しかも極まれに。
という常識が、吹っ飛ぶ出来事なのだから仕方ない。
しかも、手作り故にドロップ品とは違いお洒落なので、ばれる事はほとんどない。
全ての無限袋に至っては、ファルルがお洒落に可愛くかっこよく刺繍やら装飾やらでデザインし、見た目ちょっとしたお洒落袋になっていたり、無限袋の価値を無意識に引き上げた逸品に出来上がっていたりする。
そもそも、ファルルに無限袋が必要なのかと疑問である。
ファルル自身も「有限のだけで充分なのに」と言ったものの、それはファルル大好き住人達が許さなかった上に、誰の物よりもお洒落なデザインになってしまった。
もう、ファルルを中心に孤島の住人が世界の覇者になってもいいのではないだろうか。
更に、希少種と言われる生物、未確認だと言われている植物、泉の中央にある太陽の煌滴・月の浄滴・深淵の虚滴といわれる最高級素材を生み出す陽花・月花・漆黒花が咲き乱れている。
ちなみに、月の浄滴は有限袋の、深淵の虚滴は無限袋の材料である。
そして、妖精や精霊も集まり、泉の周辺にある普通の樹木や草花がいつの間にか精霊樹・精霊花・精霊草となっていたり、挙句の果てに土までも精霊土と化していたり。
ついには、まだ小さいが精霊の入口まで出来始め、もう少しすれば完全にそこかしこに散らばる妖精や精霊が自由に行き来出来るようになりそうになっていたりと、少々本気でかなり酷い感じで様子のおかしい事になっている。
文章がおかしいのは、その様子のおかしさのせいである。
リティウスが、準備のために入った平屋。
これもまた、普通の平屋とは全く違う。
平屋の癖にとにかく大きい。
部屋数も多い。
部屋数=住人の数なのだが、平屋の割には多すぎる。
玄関からして、彫刻やら装飾やらが施され、且つ、万が一にも認識させている者以外の不法侵入者が入れない様に魔術も施され、周囲にも同じ様に結界が施され、自然の生物と住人以外は立ち入りできない様になっている。
誰かの思念の入った生物は、木っ端微塵という鬼畜使用である。
全てはファルルのためにと、自重しなかった結果である。
平屋の中も、派手さを醸し出さず装飾された柱や調度品は、見る者が見れば一目でその価値が分かるし、華美になり過ぎない調度品類が添えられた空間と常に淀みなく流れる魔気を含んだ空気が相俟って、より一層落ち着いた感じとなっている。
この平屋にある調度品一つだけで、一財産は稼げそうな。
様子のおかしい孤島に、様子のおかしい資産であり財産が存在しているというのは誰も知らない。