13・集落での武器の正しい使い方
そんな話もひと段落し、暫く宴会を満喫していたのだが。
あれだけあった酒も料理も底をつき始め、その場で鼾をかき始める者、酔っぱらって空にも関わらずいつまでもグラスや樽を離そうとしない者、未だにお互いに絡みながら歌い続ける者等、様々に余韻を楽しんでいる。
「ファルルお嬢様、風邪を引きますよ」
遠くでそんな声がかすかに聞こえ視線を向けると、目を擦りながら重い瞼を必死に開けているファルルを馬車へ連れて行こうと頑張るミクリアの姿があった。
周囲の子ども達は、早々に睡魔に誘われて親に抱えられていたり家に戻されたりしているのだが、ファルルはかなり頑張った方である。
それというのも、周囲がファルルの成長と思しき行動を褒めて褒めて褒め尽して、グリグリと頭を撫でたり話しかけたりしていたからなのだが、流石に睡魔に耐えられなくなって来たファルルを見てお開きにしようかとなった所だった。
「おう、ファルルまだ起きていたのか。客人もファルルもミクリアさんも、もう家に泊まればいい。よく頑張って起きてたな」
もう半分も開いてない目をパチパチとさせながら頷くファルル。
ミクリアを握る反対側の手でガレインの服の裾を握って、立ったままカクンと倒れそうになる姿に笑いが起きる。
「こりゃ限界だな。馬車で揺らすのも可哀そうだ。はっはっは」
「ふふっ。珍しく燥いでいらっしゃったのですよ。ファルルお嬢様、ガレインさんのお家でお休みさせて頂きましょう」
「おう。片付けは元気な者に任せて、戻るか。すまんが頼むぞ」
「「「任せときな」」」
片付けは女衆だけでなく、元気のある男衆も混ざって行う。
「兄さん達、珍しいもんご馳走になったね。美味しかったよ」
「そうそう。もう一生忘れないな」
と、口々に言うお礼を聞きながら「どういたしまして。喜んで頂けて持ってきた甲斐がありました」と、会釈しながらガレインの後に続いた。
「そんなに広くはないが、一晩寝るだけだ。我慢してくれ」
そう言いながら、ファルルを二階の寝室に寝かせると、大人組はテーブルを囲い口直しの果実水を口にする。
さっぱりとした後口の果実は、ほろ酔い気分の心身にすっと染み渡っていく。
「この山で取れるライの実でな、酔った時に飲むとすっきりするんだ」
「後を引かず中々に良い口当たりですな」
「そうだろうそうだろう」
バロフの言葉に満足そうに頷くガレイン。
「この国つっても東西の国になるが、この土地でしか取れねぇんだ。生のままでも日持ちもいいが、乾燥させれば非常食にもなるし、甘味が増すから疲れた時のおやつ代わりにもいいんだよ」
「特産品ですか」
「そうしたいのは山々なんだがなぁ。手広くする程量は取れねぇんだ」
「僅かな量を土産物としてここで売っている程度」と、サバトは肩を竦めた。
「ま、大半は集落のもんで楽しむためなんだがな」
隠れた特産品というやつだ。
現地民ならではの特権でもある。
「そういうこったな。わはは」
ガレインもサバトも、こういう特別感もないとなと干しライ実を摘まみながら頷きあう。
「他にも色々ありそうですね。見た限りでは色んな職人もいらっしゃるようですが」
「まぁそうだなぁ。他と比べれば比較的大勢の他種族が生活しているからな。料理・鍛冶・大工・服飾・製紙、何でもあるぜ。旅に必要とされる物は特にだな。鍛冶職人は武器・防具・細工とか細かく分かれていてな、腕がいいのが揃ってるんだ。武防具なんかは日を掛けてでもいいからっつって東西から依頼が来る事もしょっちゅうだ」
勝手知ったる人の家。
サバトは徐に席を立ち、武器を一つ手に取ると鞘から剣を引き抜いた。
「オレのもだが、ガレインのこれもうちの武器職人が手掛けたヤツなんだ」
「これは見事な。欲を出さず豪華ではないが、なかなかの業物ですな」
「お、分かるかい。流石だなぁ。ただなぁ、見た目が良けりゃそれでいいという奴には、これがどれ程のものかすら分からねぇ」
「それに随分と凝った魔術が仕込まれていますな。これだけの魔術を仕込むには相当良い腕と素材でなければなりませんな」
「見る人が見ればやはり分かるねぇ」
「だな。流石というべきか。この剣に使われている素材は十m級の魔物、ジャイアントフライコルパットだ」
「ほぉ。それはまた。良く倒せましたな」
防具としての扱いは可能であるが、武器としてその素材を使うにはそれなりに無理がある。
防具の素材として一般的であったが、ガレインにこれを使った剣をと言われ新しい武器が誕生した。
この剣を作るにあたって苦労していた。
この魔物獣、外皮は硬い割にはしなやかだ。
そんな素材の持ち主ジャイアントフライコルパットは、半端ない防御力・攻撃力に加え飛行もする。
図体の割にはすばしっこく非常に厄介な魔物である。
その外皮と他の素材を組み合わせば、強力な魔術を複数組み込むことが出来る。
その強固さとしなやかさの相反する特性は防具としては一級品。
加工も難しいためそこまで市場に出回ってはない。
が、それで剣を作れと言われた職人は、少しばかりこめかみを引きつらせていた。
しなやかという特性が剣の作成を困難にしていた。
壊れにくいという点ではいいのだが、剣となるとしなるという特性が邪魔をする。
故に、この素材で剣を作るのは無理というのが一般常識でもある。
試行錯誤の末に意地で仕上げたその剣は、傷がつきにくく壊れにくい折れにくいおまけに多様な魔術を組み込んだ剣となる。
作れる者は数少なく名工と言われる者の内、極一部がどうにかこうにか形に出来るというものである。
「そりゃあ、なぁ。仲間には本当に恵まれていたからなぁ……」
今も、引き攣りながらも意地になっている顔が思い浮かび、思わず苦笑した。
「この剣を作って二年もしねぇうちにこいつが冒険者辞めてよ、暫くふくれっ面になっちまってな。宥めるのに苦労したんだ」
と、深いため息をつく。
「辞めたが今でも使ってるだろ。こんないいもん持っちまったら他は使えないしな。今日だってな……」
「さっき、ライ実を詰めた甕の封を切るのに使ってたよなぁ。あぁ。この前もあれだ、引っかかった鍵を直すのが面倒で叩き壊すのにも使ってたなぁ。後は立つのが面倒で服を取るのにも使ってたっけなぁ。それから、埃の塊を外に出すのにも使ってなかったか」
クスクスと横で笑っているリティウス達を見て、バツが悪そうに慌ててサバトから剣を奪い取り、軽く睨みながら言った。
「おい。アイツにそれは絶対に内緒だからな……。アイツがへそ曲げたらそれこそ釘の一つも作らなくなっちまうからな……。それにあれだ。使わないよりは使った方が……」
「と、言っていたと後で伝えておくから安心しなっ」
「あ、おい。やめろ……」
ガレインはサバトの口を塞ぎ、頼むから言わないで。とひたすら懇願したのだった。