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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第二章
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12・集落の元冒険者

「はぁ……」


 と、深くそれはもう深くため息をついているサバト。

 完全に酔いが醒めてしまった。

 苦笑するリティウスとバロフ。

 何事もなかったかの様な顔のガレイン。

 三者三様、いや四者四様の表情をしたその席は周りから浮いていた。


 酒が回り酔っぱらった大人、眠気に耐えられず寝てしまった子ども。

 誰も近づいてこないとは言え、その場を気に止める余裕のない者の集まりであったのがある意味救いである。


「ガレイン殿は集落の長でしたな。もしや集落を発起したのはガレイン殿ですかな?」

「あーまぁ、そういう事になるんだろうなぁ。俺とこいつ、あと留守でここにはいないんだが、数人の仲間で作ったんだがな。こいつ等は俺の我儘に付き合わされた感じだな」

「確かに巻き込まれたっつぅのは事実だが、結構楽しんでやっていたぞ。突拍子もない事を言うのはいつもの事だったしな。まぁ、おめぇは冒険者を引退せざるを得なかったのもあったからな。仕方ねぇ。ここを拓くつった時はまた変な事を考え始めたと思ったが、面白そうだったしな。オレ達もおめぇがいなけりゃつまらねぇしよ。ただ集落になるとは思わなかったがな」

「いやそりゃ、俺も思ってなかったからな」

「住めば都とはよく言ったもんだなぁ。思いの外いい具合に出来ちまってよ」


 懐かしむ様に、過去を語る。


「冒険者を引退するには理由が?」

「あぁ、俺は剣士をやっていたんだが、利き腕をやられてな」


 思う様に上がらず回らずの右腕を出して見せる。

 服に隠れて分からなかった太い傷跡が、肩から肘にかけて一直線に伸びていた。


「それでも左腕と両足は生きていたから、こいつらに助けられつつ細々と冒険者をしていたんだ。まぁ左腕だけを酷使していたせいか、だんだんとそっちも思う様に動かなくなってきてな。無理させしなければ平気なんだが、長時間となるとな。そうなりゃ剣士として何の役にも立たん」

「引退してここに腰を落ち着けて軌道に乗り始めた頃によ、当時の西の領主様が様子見にやって来たんだ。数日滞在していたんだが、その滞在中にスタンピート程じゃねぇが、魔物が大量発生したんだ。領主様達は一緒になって間引いてくれていたんだが、運の悪い事に数匹の魔物獣まで現れてよ。それで領主様が襲われたのさ。流石に少ない人数じゃ魔物と魔物獣を無傷で屠る事なんざ出来っこねぇ。オレ達も領主様達も傷だらけで何とかしてたんだがよ、領主様が襲われた時に庇ったこいつが一番の深手でな、背中と唯一まともだった足も深くやられちまって。単独で突っ込んじまってよ、馬鹿野郎が」


 頭を掻きながら「心配かけたな」と渋い顔をした。


「そんな事があったのですね。スタンピートといいあなたは魔物に襲われてばかりではないですか」


 見せられた左足の傷も深く、くっきりと跡が残っている。


「背中は平気なのですか?」

「背中は右手左足程じゃない。普通に動かせるから問題ないな」


 と、伸びたりぐねぐねと動かしてみたりして大丈夫だとアピールする。


「問題ねぇわけねぇだろ。無理をしなけりゃとはいうが、無理しちまうからなぁこいつは。しかも、一言も言いやしねぇ。今日だって、魔物を間引くとか言って何時間山に籠ってどれだけの魔物倒したんだ? 言ってみろ。戻って来るなり倒れ込んでいた奴が問題ないはずねぇよな」

「無理・無茶・無謀は別ですぞ。ご自愛召されよ。ガレイン殿。そうは言っても、救った命がこうしてここにある事を嬉しく思いますぞ」

「俺もな、剣士……いや、冒険者としてそこそこいっていた方だと自負していたんだよ。その、なんだ。二人の強い所を見てから目標にしていたんだ。あんなのを目の前にしても平然と立っているんだぜ? あれにくらべりゃ規模は小さいが、人生二度目の魔物の群れ。どこまで強くなれたか試したかったんだよ。人間として、どこまで近づけたか知りたくてな。で、この様だ。ちっとも近づけてねぇと思ったさ。そのまま冒険者家業を辞めざるを得なくなって、反省はしたんだ……。バロフさんの言葉通りのをな」


 少しでも近づいていると思っていた。

 現実は、全くそうではないと突き付けられた。

 なんとか退けたものの悔しかった。

 思いあがっていた事が腹立たしかった。

 同時に、自分にとって二人は特別な存在である事を確認した。

 けれど、もう二度と追いかける事が出来なくなってしまったという現実に侘しさも覚えた。


 この心情を誰に打ち明けるでもなく、集落として成り立ち始めていたこの地を、虚無感を払うかのように必死に開拓し続ける日々。

 本当に諦めがつくまで暫しの時を必要とした事も、今となっては懐かしい話である。


「私達とあなた方の強さは別物です。人間の強さには限界があります。ですが、その大群を前に引かなかった貴方は、間違いなく人間という種として強くなっていたと思いますよ。それに、皆さんとこの様な立派な集落を作り上げたではないですか。強さだけでは仲間の信頼は得られません。個人としても立派に成長したのだと、自信を持って良いと思いますよ」

「ここは本当に良い地ですな。皆の顔を見れば、ガレイン殿の人柄が良く分かりますな」


 見渡せば、何の不自由もないとばかりに集落の面々が笑顔で今を楽しんでいる姿が映る。


 ガレインは、目を潤ませ鼻を啜った。

 仲間として、言葉にせずとも心配をしてくれる言葉。

 命の恩人であり、何十年もの間ずっと背中を追い続けた二人の言葉。

 感極まっても不思議ではないのだが……。


「がっはっは。いい年こいた野郎の泣き顔ほどむさ苦しいもんはねぇな」


 と、無情にもそんな言葉で断ち切った。

 ただ、それがサバトなりの気を遣った言葉である事をガレインは知っていた。


 リティウスは少し思案する。


「バロフ。彼女ならいけるでしょう」

「そうですね。しかし、今席を立つのはせっかく招いてくれた集落の方々に失礼というもの。後程声を掛けにいきましょう」

「えぇ。頼みましたよ。あぁ、ですがその前に……。ガレイン、一つ確認と、約束をして頂きますよ」


 リティウスは少し意地悪く笑みを浮かべ、ガレインに向き直った。


「後悔はしているのですね?」

「ああ、後悔ならいつもしている」

「では、二度と無茶はしない、命を投げ出す様な真似はしない。約束出来ますか?」

「ああ、二度とそんな事はしない。だが……守るべき者を守るべき時は……約束を違えるかもしれないが」


 リティウスが何を考えているのかは知らないが、ガレインは真剣に答え頷いた。


「それで結構です。ただの無茶とその意志がある行動では意味も価値も違いますから。では、今の事、忘れない様心に留めておいて下さい」


 頷くガレインに満足したリティウスは、誰もが息を飲むような微笑みを浮かべた。

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