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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第二章
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11・集落での再会

少し長めです。

「その様な事があったのは覚えていますが……」


 ルコットの隣国へ足を延ばしていた時魔素の飽和の気配を感じ、放って置いても良かったのだが、周辺の特に魔素の濃い山中へ向かった。

 物見遊山でその地でしか取れない特産物を口にして回っていたのに、スタンピート如きで潰されては……。とそんなノリであったが。

 あちらこちらで感じる魔素の飽和。

 魔素を散らしてスタンピートを阻止するつもりだったが、既に飽和状態にあった魔素は、タイミングが良いのか悪いのかリティウス達が到着する寸前で爆発してしまった。

 周辺のあちらこちらから、通常より濃い魔気をもった魔物、更には獣と融合しより凶悪となった魔獣が一斉に出現し暴れてしまった。


 魔素は、地脈を奔りありとあらゆる場に流れていく。

 地脈から染み出た魔素は大地に流れ、大地から染み出た魔素は空気と混ざる。

 基本、空気と混ざった魔素は魔力の源として人が常に魔法として消費するため、飽和する事はほとんどないが……。


 魔力の源である魔素は何処から生まれるのか。

 言わずと知れた天上人──つまり、神族。

 魔物は神族から漏れる微量の魔力を浴びた獣から生まれる。

 狩猟の本能しか持たない獣は凶悪となり、或いは人に懐きやすい魔物にもなり、源となる魔力は

その濃い本質を表面化してしまうものだった。

 それは当然人にも表れる。


 しかし、限界以上の力を持てない地上人は、被害ばかりしか生まない魔物を狩り糧にするため求め願った。

 漏れ出るものは仕方ないのだが、確かにそれで害を被ってばかりも哀れだ。

 どうせ有り余っているもの。

 ほんの少し流した所で微々たるもの。

 そう思い、定期的に地脈に魔力を流す事とする。


 ただし、与えるだけ。

 地上の事は基本関与しない、とそんな条件付きで。

 富るも滅ぶも諍いも、これにより起きる事は知らないから好きにしろ。

 簡単に言えば、そういう事だ。


 人気の少ない場では。

 魔素は魔物の魔力と同調し、魔物の魔力は魔素と同調する。

 同調した結果、魔素は飽和し魔物や周辺の獣に影響を与え、魔素を浴びてより凶悪になった魔物は魔素を浴びた獣を取り込み魔獣となる。


 故にどちらかのバランスを取る事で大抵は事無きを得るのだが、魔素を散らし過ぎると魔物は生息出来ず、魔物から手に入る素材が手に入らなくなる。

 それで生計を立てる人々は大勢いるため一般的には魔物を狩り、魔素は必要に応じて魔術師が適度に散らしていく。


 のだが……。


 山や森に囲まれた北方。

 魔物や獣が充分に生息するのに適した地系。

 北方の田舎で小国。

 腕の立つ冒険者は少ない。

 魔術師も当然少ない。


 魔素溜まりの多いこの周辺ではその少ない人員で全てをどうにか出来るわけもなく、近隣国の手を借り何とかなっていたのだが、頻繁に出来る事ではないので手の届かない部分がどうしても出てくるものだ。

 手の付けられない魔素溜まりはやがて人を寄せ付けない程までに成長し、周囲に影響を与え爆発する。


 そして溜まりに溜まった魔素が爆発し、潜んでいた魔物達も一斉に牙を剝く。

 それがスタンピート。


 周辺を森と山で囲われていたルコットは、あっという間に魔物達に囲まれ魔物と瓦礫と横たわった人々が入り混じった何とも言い表せない光景の国へと変貌した。


 突然の出来事に間に合わなかったリティウスとバロフは、その光景を見て眉を寄せる。

 人間とは本当に脆いものだと内心呟いた。

 上空から砂埃の舞う地を眺めていた時、瓦礫に隠れて子どもが震えているのを見つけた。


 縮こまっていたとガレインは言っていたが、瓦礫が飛んでくる直前までその手に小さな瓦礫を持ち一矢でも報いようとする姿があった。

 キッっと魔物を睨みつける姿を見て思い直す。

 確かに肉体的には脆い生物であるが、その子どもに限って言えば芯まで脆いと言ってしまうのは失礼な様だった。

 他の大人達は、泣き叫び逃げまどっていただけに余計にそう思えた。


 バロフが声を掛けようとする前に、リティウスは行動していた。

 それを見て軽く苦笑しつつバロフもその後を追い、子どもの背後に立った。


「私も覚えていますぞ。小僧というのは……ガレイン殿の事ですな?」

「おう。そのまさかの小僧が俺だ」

「これは驚きましたね。この様な偶然があるとは」

「人の姿をして現れた二人がいきなり魔族の姿をとった時には、そりゃぁもう腰を抜かして驚いたがなぁ。はっはっは」


 サバトは、密かに頭を抱えていた。


(確かに種族的に長寿の奴もいる。集落にもいるからな。自然に溶け込んでいるから失念していたぞ。そうは言ってもだ……。こいつの普段取らねぇ姿勢が気になる。オレをここに残したって事は、教えてくれるって事なんだろうがよ……。勘だが、聞きたくねぇってのが十割だ……)


 そんなサバトの目の前でガレインは姿勢を正し直し、


「俺……私は、お二人に安全な地まで送って頂きました。その後、生計を立てるために私は冒険者となりました。冒険者となって数年経った頃、とある機会があったのです」


 更には口調まで改めていた。


「ある国に、西方の大陸よりとあるご一行が来国されたんですがね。私の仕事は周辺を警備する事だったのですが、たまたまその一行の姿を目する事が出来たのです。遠くからでしたがはっきりと分かりました。目にした方というのがルコットで助けて頂いたお二人だったとは……。私はずっとあの時のお礼が言いたかったのですが……。あの奇跡の様な出来事は二度とないと悟りましてね。そっと頭を下げたもんです」


 リティウスもバロフも、ガレインの言葉に気付いた。

 二人の人型の姿を、その姿でも二人の地位を分かっている者は少ない。

 ガレインは、自分達を知っていると。


「サバト、これからいう事は絶対に他言無用だ。お前はずっと俺の仲間だったからな。信頼しているからこの場に留めたんだ」

「オレは聞きたくないんだがなぁ。嫌な予感しかしねぇ……。てめぇの久しぶりのその口調が既に寒気を呼んでいるんだが?」


 正解だな。とガレインは苦笑しつつも、


「聞かねぇつっても言うんだろ? はぁ~……分かった。オレはな、仲間を裏切った事は一度もねぇ。知ってるだろ。誰にも言わねぇよ」


 そんなサバトの返事に頷いて、改めて二人に向き直る。


「この様な機会を逃すわけには行きません。座ったまま失礼をしますが、改めてお礼を述べさせて頂きたく存じます。おかげであの日から今日までこの様に生きながらえる事が出来ております。リティウス・ロスター・ヴァルガンド大陸王陛下、バロフ・オットー・レブロスティ特級大臣、心より感謝を申し上げます」


 目立つのも憚られるので、目を伏せ軽く頭を下げるに留めた。


「なっ……なっ……はあああああああああっ!?」


 あんぐりと口を開け手にしていた木製グラスを落としているのは、言うまでもなくサバトである。


「まぁ、落ち着けサバト」

「おっ、おっ、おめぇっ……。えっ、なん、だ……? は? え? 本気か?」

「おう、本気も本気。本当の事だ」


 リティウス達は、苦笑しながらそんな二人の様子を見ていた。

 声を抑え、一応気を遣った事に関しては褒めるべき事である。


「人も近づけてねぇ、周りは見ての通り話も碌に聞きゃしねぇ酔っ払い、仮に、実は客人達はっつったところでこんな田舎に来るわけがねぇと笑い話になる程度だ」

「いやまぁそうだが……。だから聞きたくねぇって言ったんだ……」

「ルコットでの話だけだと思っていたのですが、まさかばれてしまっているという話になるとは予想外でした(苦笑)」

「全くですな。はっはっは」

「いや、いやいやいや……笑い事では……」


 サバトは星が瞬く夜空を見上げながら思った。


(頭いてぇ。本来こんなんじゃねぇんだろうが、魔王がこんな腰の低い方だとか誰が想像するってぇんだ……)


 と。


 楽しむ時は楽しむべきとにこやかに言う二人であったが、サバトは引き攣った表情を崩す事は出来なかった様だった。

バロフさんの役職名出てきました。

一応魔族大陸独特の役職名となります。

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