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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第二章
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6・集落の手土産

「大層な物を頂きましたな。宴会まで時間もある様ですから、何か手土産となる様なものをお持ちしますかな?」

「そうですね。何が良いでしょうか」

「そうですな……。ファルル殿。ファルル殿は魚は食べられますかな?」

「お魚……さん?」


 キョトンとするファルル。

 海から離れた内陸の更に奥。

 新鮮な魚なんてものは、この地にいる以上口にする事はないだろう。

 魚という生物は知っているが、ファルルを含め九割程は未知の食材でもある。


 この辺りで魚と言えば乾物くらいしかないのだが、それでも高級品の部類になるし、庶民の口に入るのはごく一部である。


「お魚、さん……美味し……?」


 キョトンとしたまま、想像しようと頑張ってみるものの未知過ぎて固まってしまった。


「クスクス。とても美味しいですよ」

「はっはっは。リト様、魚にしましょうかな」

「そうですね。話の種にでもなるでしょう」

「では、早速手配を致しましょう」


 そう言って、軽くお辞儀をし姿を消した。

 ただの転移である。

 が。


「バロフ、もう少し気を遣って下さい……」


 陽炎の様に靄がかかったかと思うとバロフの姿はどこにも見当たらず、ファルルはリティウスの袖をぎゅっと掴み更に硬直していた。


「おじ……ちゃま、消えちゃっ、た……?」

「あれは、転移と言って場所を一瞬で移動できる魔法ですよ。おじさんはファルル様を驚かせたかったみたいですよ」

「消える、魔法……っ!? すごーい……」


 先程までバロフの座っていた場所を撫でる。

 魔法自体は珍しい物ではないのだが、消える魔法を見たのは初めてだったらしく、目を輝かせてじっとその一点を見つめている。


「あの、ね、あのね……、ファルルも、魔法使える、の。凄い、でしょうっ? でも、苦しくなる……から、使っちゃダメって……ミクリア、言うの……」


(恐らく、腕輪のせいでしょうね)


「そうなのですか? しんどいのは嫌でしょう? ミクリア殿の仰る通りにしておきましょうね」

「う、ん」


(一体何なのでしょうね。呪い系の魔法には違いないようですが。見た事のない術式ですね。ダンジョンの遺産、でしょうか?)


「ファルル様、その腕輪とても綺麗ですね? 少し見せて頂いてもいいですか?」


 すると、腕輪を外すでもなく腕をそっと伸ばして来る。


「外せないのですか?」

「うん……。えっと、ね、外そうとする、と、頭がキーンて……痛くなるの……。お父様、に、誕生日のお祝いで、頂いたの。大事な物……だから、失くさない様にって、魔法掛けてくれたの」


 失くさないようにするためだけに、苦痛を強いる様な魔法を幼い子に施すのかと怪訝な顔をしながらも「そうなのですね」とやんわりと答えながら、腕輪に触れた。


 ジリッ。


 触れた瞬間、正確には腕輪の本質を覗こうとした瞬間に痺れる感覚が体中に奔った。

 もう一度触れ直してもやはり同じ感覚が奔り、触れる事すら拒否しているかのようである。

 恐らくリティウスでなければ、その衝撃で気を失う所だろう。


「これは……」


 触れた瞬間に、そういった類の古代語と見慣れない記号で術式が組まれているのが垣間見え、思わず顔を顰めた。

 分かったのはそれだけだ。

 頭に思い浮かぶ様々な解呪魔法を当てはめても、反応しないどころかその際に使った魔力が吸い込まれ無効化されてしまっているかに見える。


(この私の知識がかすりもしないとは)


 少しばかり意地になりつつ、解呪魔法を組み替えつつ試してみるものの無駄な様だ。


(子どもにこんな呪いを。オズラークは西の街。ファルルは領主の子という事になりますが……)


 おまけに、常にファルルの魔力を吸い続け、それが腕輪の効力を持続させている様だ。

 魔法を使って苦しくなるのは、そのせいであろうと思われる。


「リト、様……?」


 だんだんとしかめっ面になっているリティウスの様子に少し不安になったのか、袖口をキュッと握って声を掛ける。


「あぁ、いえ。何でもありませんよ。大事な物を見せて頂いてありがとうございました。それと……。リト、でいいですからね?」

「リ、ト……?」

「はい(にっこり)」

「リー……ト」


 ポスンッとリトの腕に恥かしそうに顔を埋めて隠してしまう。

 記憶にあるお父さんの様な温かさと、優しい年上の兄弟がいればいいなぁという憧れ。

 ファルルにとっては新鮮なものの様だった。


「リティ……コホン……リト様。いくらなんでもそれはありませんぞ……」


 一刻程経ち、ふいに戻って来たバロフは、ファルルを膝に抱えるリティウスを見るなり、白い目を向けて言い放った。


「バロフ? 何をどう思っているかは知りませんが……」


 苦笑しつつも膝に乗ったまま船をこぐファルルを降ろす事なく、ジト目で返した。


「それにしても随分と懐かれましたな」

「珍しいようですよ? 極度の人見知りの様ですから」

「そのようですな。では、ミクリア殿に手土産を渡してまいります。が……手を出してはいけ……」

「バロフ。後で説教です。早く持って行って下さい」


 と、さっさと行けと右手を振った。

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