2・集落の女の子
にぱーっと笑って、話しかけてきたサバトの側に駆け寄ろうとして。
ズタンッ。
と、こけた。
「~~~っ」
「「「はっはっは」」」
「嬢ちゃんは相変わらずだなぁ」
「よいしょっ」
サバトに抱え起こされ、照れくさそうに笑う女の子。
(丸っこい……)
丸っこい。
小さい。(縦に)
可愛らしい。
憎めない感じだ。
どことなく愛嬌もある。
そんな第一印象だ。
(なんでしょう。小動物みたいですね。くすくす。おや? 彼女の腕輪……あれは……)
腕輪が気になりつつも何気なく丸っこい小動物的な感じで見ていると、視線に気づいたのか目が合うなりビクッとなって、サバトの後ろに引っ込んでしまった。
「……っ」
「あらあら。ファルルお嬢様、お客様にご挨拶ですよ」
ふるふると首を振り、しっかりとサバトの服の袖を掴んで背中に顔を埋めてしまった。
(人見知りなのでしょうね。くすくす)
「初めまして。私はリトと申します。雨が上がるまでお邪魔させて頂いています(にこり)」
「……」
「はっはっは。嬢ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからな。オレ達に慣れてくれるまで数か月かかったもんだ」
「懐かしいお話しです。皆さんが気さくな方で良かったです。それに……必要以上にお姿を見なくて済むかと思うと。ここに来るまで随分と心躍ったものです。ここだけの話ですよ? ふふ」
「まぁなぁ。あれじゃあアンタも嬢ちゃんも参っちまわぁ。むしろここに飛ばされてよかったじゃねぇか。っと、ここだけの話だな」
「とはいえ……。ファルルお嬢様。お部屋に来られたのでしたら、ご挨拶なさいませんと」
相変わらず、ふるふると首を振る。
「だっ……うもの……」
小さく小さく呟いた言葉は、近くにいたミクリアとサバト、耳のいいリティウスの三人にはしっかりと届いた。
ミクリアとサバトは、ほんの少し暗い顔をして僅かに俯いている。
──だって、笑うんだもの。
いつも誰かに笑われていたのだろうか。
容姿?
性格?
それとも他の何かだろうか。
その何かは。
ここまで拒絶する程、少女の心を傷付けているらしい。
(くだらない事で簡単に傷つけるのは、いつの世も同じですね)
「そんな事はありませんよ? ああ、そうだ。この様なものはお好きですか?」
と、指をパチンと鳴らす。
するとどこに隠れていたのか。
指鮮やかな色彩の小鳥が現れ、左の手に出した一輪の七色の小花をくちばしに咥え、ファルルの腕に止まった。
細かく首を動かしつつも、手のひらに花を落とす。
「わ……ぁ……」
「ほぉ~」
「お前さん、魔法師かい」
「まぁ、そのようなところですね」
「あの鳥はなんていうんだい? この辺じゃ見ない鳥だなぁ」
「西の大陸に生息しているんですよ。月虹鳥というんです」
「西の大陸ってぇと……魔族大陸かい」
「そうなりますね(苦笑)私は色々旅するのが好きなんです。獣族大陸にも、妖精族大陸にも行ったことがありますよ」
嘘ではない。
が、好きかどうかはまた別である。
ふと視線をやると、ファルルと呼ばれた女の子はいつの間にか顔を出し小鳥の頭を撫でている。
満面の笑顔だ。
リティウスはそっと横に並んで、目線を合わせ話しかけた。
「綺麗でしょう? 月虹鳥というのですよ。この花は月虹鳥の羽で作られた花なんですよ。お近づきの印にどうぞ」
「きれーい……」
「この花の名前を知りたいですか?」
ぱっと顔を上げ、目をキラキラと輝かせる。
笑みを返してファルルの髪に手を添えてゆっくりと撫で下ろす。
(大きな、優しいお手手~……)
思わず目を細めてはにかむ。
その場にいた全員が、ほぉ、と感心のため息をついた。