25・孤島の秘密会議-3
逃がさないとばかりに有無を言わせぬ笑顔を浮かべ戸口に立ち、それでも逃げ出そうとする往生際の悪い二人の行く手を遮るドルト。
更には、魔法不履行の魔法を二人にかけ転移すら出来ない様に素早く仕掛けるリティウス。
往生際が悪い。
「ぐぬぬぬぬ……」
「ここで暴れたら、出入り禁止ですからね?」
ついでに、所有者権限も持ち出す。
ちなみに、暴れる=島内を破壊するレベルの事である。
「リティウス陛下の仰る通りです。ファルル殿にお会い出来なくなってもよろしいのですか? ワーグ様、何事もあきらめが肝心です」
ラプトンの言葉にうんうんと頷くジェルネ。
ミクリアは、例年通りの内容にファルルへ言付けに来ただけなので苦笑するしかない。
といっても、想像通りリティウス達が参列する初日の参加をどう説明しようか考えあぐねているのだが、これはもうこの場にいる全員の悩みでもある。
そもそも、ファルルの存在を疎んでいるにも関わらず、毎年園遊会に参列させる現領主家の気が知れない。
疎んでいるのであれば、縁を断つか隠してしまえばよいだけなのに、その素振りすらない。
ファルルの血筋に関係しているのか、或いはアレが家の者という条件でなければならないのか……。
ファルルがまだ乳飲み子の頃より付添っていたミクリアにとっては、歳の離れた妹の様であり娘の様でもあって思い入れも深いのだ。
あの領主家の人間達が何を思っているのか、ある日を境に早々にファルルと共にお世辞にも領主の娘の住む家とも言い難い地に建てられた別宅に住まわされる事となった。
なんにせよ、そこまで疎んでいるにも関わらず、年に一度のこの時期にまだ領主家とファルルの間には繋がりがあると表向きに見せている鬱陶しさである。
そんな事を思いつつ視線を移すと、ワーグとカーリィ・ラプトンとジェルネの決着がついたのか双方ともに息を切らせながら座り込んでいた。
勝ち誇った側近二人の顔ときっちりと書状を握らされた二人の顔を見比べて、思わず笑ってしまっていた。
「ふふっ。決着はお付きになられたご様子ですね」
この中で一番地位の低いミクリアの発言だが、ここでは気にする者は誰一人としていない。
「ミクリア~ぁ? 笑っていられるのも今の内よ~ぉ? 明日はみんなでファルルにお話しするんだから~ぁ……」
「あっ、そうでございましたね……。はぁぁ、困りました」
「「「はぁ~」」」
リティウス、ドルト、ワーグの三人も同時に深くため息をつく。
嫌な事は早い方が良いと、明日にも話をする事になったらしい。
「ジェルネ~ぇ? 貢物の選別は任せるわ~ぁ」
「畏まりましたわ。出立はいつになさいますか?」
「リトもドルトも二十日後、一番近い町にって言ってたからそれでいいわ~ぁ。アタシも四・五人くらいでいいわよ~ぉ」
「はいですわ。その様に手配いたしますわね」
「儂もそうするかのぉ。ラプトン、任せたぞい」
「はい。王にもその様に伝えておきましょう」
「皆様揃っておいでになられると、さぞかし驚かれるでございましょうね。ふふっ」
「滅多にない事だからなー。ついでに、ファルルの後ろにオレ達がいるってあのアホ領主にちょっと圧力掛けられたらもっと面白いんだけどなー」
「あぁ、それは楽しそうですね。ファルルの様子次第ですが」
「ミクリア~ぁ? ファルルもアナタもいつも通りにアホ領主とは別便で行くのでしょ~ぉ?」
「えぇ。相変わらず、呼び付けられる割には出来るだけおそばにはいらっしゃりたくないご様子ですし、書状にもその様に書かれてございました」
「いいこと思いついちゃったわ~ぁ」
ミクリアは小首を傾げてカーリィを見つめる。
他も同様に続きを待った。
「ほら~ぁ、さっきのドルトの話よ~ぉ。ファルルもミクリアもアタシ達と同じにくればいいと思わな~ぃ? ほら、想像してごらんなさ~い? アタシ達と一緒にファルルがやって来た時の光景を……」
「ほほぅ。なかなか面白そうじゃの」
「それ、いいかもしんねー」
「カーリィ、良い事を思いつきましたね」
「でしょ~ぉ? おほほほっ」
目を点にするミクリアとは正反対に、他の側近達もそれは面白いとばかりの笑みを浮かべ頷いている。
「あの、ですが……」
「いいじゃな~ぃ。気にしてはだ~め~っ」
「それなら、付添はミクリア殿の他に私達から一人ずつつけるというもの面白そうですぞ」
「ああ、それもいいなー」
と、どんどんファルルが目立っていく方向に話が向かっている事に誰もが気付かない。
しかもまだファルルに話をしていない上に、ファルルの様子すらも伺っていない事にも気付いていない。
ミクリア以外は。
「では、ファルルを知っている者をそれぞれ一人選定して付ける事に致しますわね」
「ジェルネ様、皆様!」
「どうか致しましたの? ミクリア」
「あ、あ、あのでございますねっ! その前に……ファルル様にお話をなさってからでございませんと……」
「あっ……」
「そうでしたね……。すっかり忘れていました」
「カーリィが楽しそうな事を言うからだなー」
と、責任転嫁しつつ的を射た発言にハッとしつつ目を泳がせる面々である。




