23・孤島の秘密会議-1
「んじゃ、お疲れなー」
「ファルルぅ、お休み~ぃ」
「ファルル様、お休みなさい」
「ゆっくり寝るんじゃぞ」
「うん。みんなも……早く休んで……」
ファルルが部屋に戻り、寝入った頃。
孤島の離れた場所にある、数棟ある内の一つの小屋に移動した。
ファルルの行動範囲ではない場所に作られたその小屋は、こっそり内緒話したり個人的に仕事をしたり作業したりと多目的に使われている。
それぞれの目的に合わせて作られた小屋はそれぞれに防音も施され、例え隣や外で音を出していても邪魔をされる事はない。
入った小屋は、基本聞かれたくない話をするのが目的の小屋で、ここで話される事は決して他言してはいけないという暗黙のルールがある。
現在は、ファルルを除く全員が顔を揃えてお茶を飲んでいた。
一息ついたところで、
「儂等も聞いても平気なんじゃな?」
ワーグが口火を切った。
「はい。むしろ耳に入れておいて頂きたく」
「分かったわ~ぁ」
カーリィも頷いたのを確認し、バロフとボーデンは視線を合わせて頷いた。
「ボーデン殿もここにいるという事は恐らく同じ内容であろう? 私から話すがよろしいか?」
「あぁ、構わない」
「では。リティウス陛下。実は、招待状が届きまして」
「招待状ですか?」
「はい。ファルル殿の故郷であるグランヴァル帝国から園遊会の招待状でございます」
居住まいを正し、砕けた口調から主・侍従のものへと変わる。
ここはそういう場なのだ。
「やはりそうであったか」
ボーデンは軽くため息をつき目を細める。
「っていうと、オレんとこにもか?」
「はい。正確には父君であられる陛下にですが」
二人はそれぞれの主に封書を差し出す。
主より先に封書を見るとか本来はあり得ないのだが、ドルトは父である王当てで本人が確認済みなのを理解しているので問題はない。
リティウスは、身内とバロフに不在の間の全てを任せているので問題はない。
機密文書ですらそうなのだが、それはそれで如何なものかと思うがいつもの事なので慣れているし、バロフに絶対的な信頼を寄せているので特に怒る事もない。
本当はバロフが魔王の地位にある。と言っても誰もが納得しそうになるくらいにはブラックかもしれない。
「なんでも、建国千年を迎えるという事で園遊会に出席を望まれている様ですな。リティウス陛下を始め、人族大陸の各国及びその他大陸の主要国要人の参加を望まれている模様です」
「また面倒な事を」
リティウスは深くため息をつきつつ、その書面をひらひらとさせテーブルに放り出す。
人族だけで楽しく過ごせばいいのに、というボヤキにバロフ達は苦笑しながら頷く。
「親父んとこに来たんならオレでなくてよくないか?」
「時期が時期だけに、陛下も兄君方も国と族領を空けるわけには参りません。かといって家臣を向かわせ礼を欠くわけにもいかず。そこでドルト殿下に白羽の矢が立ち、勅命としてその旨を伝える様にと」
「うちも園遊会をするが、グランヴァルにも出席する事にしたのだな」
「左様です」
勅命ともなれば無視するわけにもいかない。
背もたれに深く寄りかかり、ドルトもまた深く大きなため息をつく。
「で? 出席する事には問題なさそうだけど~ぉ?」
「はい。ただ問題が一つあるのです。初日は各国代表及びグランヴァル帝国の侯爵以上と領主家全員会せよとの事なのです」
「「「「家の者?」」」」
全員がハモり、後に続く言葉を失う。
「つまり……。ファルルもその日に参加する、という事ですか……?」
「そういう事になりますな……」
「……」
「あはは……はは……」
「はぁ……」
額を抑え肩を落とすリティウスとドルト。
空笑いをするカーリィ。
ため息をつくワーグ。
「平穏の危機ですね」
「リティウス陛下・ドルト殿下の本来のお姿は、ファルルは知っておりますからな……。ファルルのみならず特に陛下のご尊顔は地位のある者ならば全土において知られておりますから、誤魔化しようがございません……」
「人族大陸の事実上トップの地位にあるからなぁ。帝国は。無下には出来ないだろうなぁ」
「ドルトも他人ごとではありませんよ? あなたも行かなくてなならいないのですから」
「うあー……。そうだった……。にしても、残念だったな。せっかくファルルに付いていけるはずだったのに」
「付いていくとはどういう事でございますか?」
「あー、いや。今日勝負したんだよ。釣りで。園遊会の会場内にファルルの側近として行く一枠を掛けて」
「それで、リトが完全勝利を収めて枠を勝ち取ったんだがの」
「でも、ちょーっとズルをしたからその罰よね~ぇ。きっと」
「いえ? 知恵の勝利ですよ。ふふふ」
「もしやあのブラッカーは……」
「そ。その時にワーグ殿がなー」
「左様でございましたか……」
「はぁ。困りました。ああいう場に私が行くと、皆が平然としていられなくなるでしょう? あれは少し気が滅入りますね。いや、それよりも、ファルルに地位が知れるとなると気が滅入るどころではありませんよ」
「最悪、弟君であられるジハル様か妹君であられるクィート様をと思いましたが、招待者が帝国である事、やはり陛下のご尊顔が知られているという意味では少々厳しいかと」
渡された封書を開け、先程の話と合わせて確認をする。
その背後から書面を覗き見るカーリィとワーグ。
「ほんとだのぉ。まぁ黙っておくにしても話すにしても、行かねばならん事に変わりはなかろうて」
「いっその事、ジハルに譲位……」
「陛下、却下です」
「……ですか。そろそろ引退したいのですけどね。そのために布石を打っているのですが」
「そのくらいの事でしょうとは分かっておりますからな?」
「ばれていましたか」
ぎろりとリティウスを睨みつけ、大きくため息を吐く。
「よし。ファルルに付添う権利は儂という事で決定じゃな」
「仕方ないわね~ぇ。順当でいけばそうですものね~ぇ……。アタシは部屋で待機組で我慢するわ~ぁ……」
にやりと笑ったワーグは棚ぼたで得た権利で一番ウキウキしている。
「にしても、今回の園遊会期間が長いんだな」
「はい。初日は先程申した面々でございますが、二日目以降は招待国の代表以外の招待者含め、グランヴァル帝国の子爵以上及び領主他の通常の園遊会が開かれる模様ですぞ」
「初日の招待者は、翌日以降も参加自由。膨大な招待客を迎えるため更に五日追加したということでしょうな」
「って事は、ファルルも初日と翌日以降の二度参加するはめになるのか?」
「そういう事になりますな」
「うわ~ぁ。それなんていう苦行~ぉ? ワーグぅ? 頼むわよ~ぉ?」
「二度目はファルルの様子次第では、私がこっそり行くのも楽しそうですね」
「まぁ無理そうならカーリィに譲っても良いがの」
「えっ。ほんとに~ぃ?」
カーリィもにこにこ顔である。
「魔王の地位を譲渡さえ出来れば……」
ぶつぶつと呟きながら、園遊会の出席の意を記すリティウス。
「行きたくねぇけど仕方ないよなぁ……」
面倒臭そうに、同じく意を記すドルト。
二人の目が死んでいたのを、見ないふりをした四人である。
といっても、バロフもボーデンも付いていかなければならないのだが触れないでおこう。