20・孤島で解体ショー-2
鱗に対してブラッカーの皮は柔らかい。
腹はごつくて弾力があり、油が乗って切りづらい。
そして、骨は分厚い。
「よーし。頭ぶった切るぞ」
と、鋭い刃をきらりとさせ、胴と頭を切り離す。
分厚い骨も綺麗に真っ二つだ。
ほんのりアレな臭いが立つが我慢できない程ではない。
刃は片刃で特殊加工がされている。
ちなみに孤島産の素材を使い、強度も切れ味も抜群である。
ちょっと掠っただけで、指が飛んでいくレベルで危険なヤツだ。
「これで刺されたら流石の儂もたまったもんじゃないわい。よくこんなものを作りおったな」
ここにはいない鍛冶職人を思い出し、ぶるりと身を震わせる。
いくらブラッカーよりも固い鱗を持っているからといって、流石にこれを振り回されたらたまらない。
「ワーグ殿、私もですよ」
「これを世に出回らせたら大事だの」
「孤島だから許されるやつだよなー」
「門外不出レベルですね」
試しに、小さいが一番分厚い鱗に一突き。
強靭なブラッカーの鱗はいとも簡単に砕け散った。
ちなみに力の「ち」の字もいれてない。
ただ突き刺しただけでこれである。
今までに幾度となく使ってきたが、ブラッカーの鱗で確証された。
三人とそれを見ていたバロフ・ボーデンも、思わず顔を引きつらせる。
頬肉もその巨体に裏切る事なく人の顔くらいの大きさがある。
歯ごたえがありそうで美味しそうだ。
えらを取り、頭を細切れにし後で処分する。
ブラッカーの頭は美味しくない。
美味しい出汁すらも取れないのだ。
腹を切り内臓を取り出す。
「すまんの! ちょっと深く入ってしもうたわい!」
ワーグが力加減を間違え、外に出ていた内臓に刃先を当てて破いてしまった。
この魚、頭も内蔵(特に胃・腸)も物凄くアレ過ぎて、
「おいっ! 早く袋に入れろって!」
「いやあああ~~~ぁ! 忘れてたわ~~ぁ! この魚って!!」
「早く何とかして下さい!」
「はうっ……」
「これは危険ですな!」
「早く窓を!!」
「いや、外へ避難するんじゃ!」
と、この様に右往左往する羽目になる。
頭はまだいいのだが、内臓が頂けない。
取扱注意なのだ。
「ファルル、早く来いっ」
失神寸前のファルルは、ドルトに肩に担がれてみんなと一斉に外に出る。
「忘れていましたね……」
「ファルル? おいっ、ファルル!?」
きゅぅぅ~~……っと目を回すファルルにはほとんど意識がない。
「はっ……」
ドルトにペチペチと頬を叩かれ気を取り戻し、ふぅ~~~はぁ~~~っと新鮮な空気を取り入れた。
かくいうワーグもドルトもボーデンも、鋭い嗅覚のせいで鼻がひん曲がり青ざめている。
突然のこと過ぎて、魔法の魔の字も浮かんでこないのは仕方ない。
「おえぇぇぇ」
「皆様、申し訳ありませんがな。暫し休憩を……」
「儂、もうだめじゃ……」
瀕死であるが、ファルルを外に連れ出すくらいには頑張ったドルトである。
「ちょっと……これどうするのよ~ぉ……」
空気清浄するしかないのだが、一ミリだって隙間を開けたくないのはみんな一緒である。
「バロフ、行って来て下さい」
「えっ……リティウス様?」
「人身御供です。ささ、どうぞ」
グイグイと背中を押されるが、バロフとて行きたくないので足を踏ん張る。
「老体に鞭うってはいけませんぞ!」
「何を言っているんですか。あなたなら出来ます。骨は拾ってあげますから(にっこり)」
「遠慮致しますぞ!」
身を翻して魔の手から逃れようと、庭を走り抜ける。
追いかけるリティウス。
狂気の笑みが浮かんでいる。
「あなたのお皿は倍、いえ五倍にして差し上げますよ!」
「御免被りますぞ!!」
庭先で狂ったリティウスと狂ったバロフの本気の鬼ごっこが始まった。
どうしたものかと困っている空気の中、ファルルだけは別の事で感心していた。
「二人とも、足が速いのねぇ~……ふふっ」