17・孤島の来訪者
「みんな、おかえり……?」
「おー、ただいま」
「おや。こちらは新作ですね。精霊がモチーフの素敵なデザインですね」
ハンカチの一枚を手に取るリティウス。
「あ、ありがとう」
はにかむファルル。
可愛さ倍増である(リティウスビジョン)。
「リト、いちいち覚えてるのかよ」
「当たり前です。ファルル様の作った物は全て覚えていますよ(にっこり)」
「そこまでいくと、ちょっときめぇ」
「心外ですね。下品な言葉を吐く口はこの口ですか?」
と、ギュウっと口先を摘まみ引っ張る。
「ってってって。このやろー」
あたふたするファルルを差し置いて、何故か火花を散らすリティウスとドルトである。
「全くな~にやってるのかしらね~ぇ」
鍛錬という名の腹空かしを終えた四人が戻り、一気に賑やかな空間へと変わる。
一人でのんびり(精霊が側でちょろちょろしているが)するのは嫌いではないが、やはりみんながこうしている時の方が楽しい。
にこにこしながらその様子を眺めるファルルは、本当に楽しそうな顔をしている。
「では、昼しょ……」
リティウスが「昼食にしましょう」と言おうとしたところで、来客を知らせるベルが鳴った。
「あー。この気配……」
ドルトが一瞬身構え、冷や汗を垂らしながら隠れようと企んでいる。
「隠れても無駄じゃろうに」
ワーグが呆れた様に呟くが、それどころではない。
無駄な努力をしているドルトに苦笑しながら、リティウスは平屋の玄関へ向かう。
「やはりボーデンでしたか」
「これはリティウス魔……コホンッ、リティウス様。リティウス様におかれましては……」
ひざを折り、堅苦しい挨拶をしようとするボーデンと呼んだ男を手で制し、苦笑する。
「ここでは堅苦しいのは抜きですよ。さぁ中へ」
「はっ。申し訳ございません」
そうは言っても、ボーデンにとってリティウスは敬うべき地位にいるのだ。
いつもの事とはいえ、最初は必ずこういった定型文での挨拶をするようにしている。
「さて。我が主は何処へ雲隠れしておられるのか」
鋭い目つきで平屋の中をぐるりと見渡し、一番奥まった浴室……ではなく、手前の室内倉庫へ迷うことなく歩を進め、
──ガチャリッ!
戸を開けズカズカと中へ進み、積み重なった籠をどけて行く。
「ドルト様。子ども騙しの様な隠れ方で、私を誤魔化せると思っておられますのかな?」
「げっ……。ちょっ、まっ……! うぇえええええっ」
後ろ襟をがっしり掴まれ引き摺られていくドルト。
うわあああ……っとエコーが掛かるが如くに連れていかれ、客間と思しき部屋へ消えて行った。
「ま、仕方ないのぉ。所詮わっぱの考える事よ」
そして、再度来訪者を告げるベルが鳴り、リティウスが出迎えた。
「リティウス様。一週間ぶりでございます」
「バロフも来たのですね」
「ふむ。気配は分かっておりましたが。ボーデン殿とは二ヶ月ぶりですかな」
「えぇ。今はドルトに雷が落ちていますよ。くすくす」
「同日ということはボーデン殿の要件もアレなのでしょうね」
「要件? 何か問題でもありましたか」
「そいう言う意味での問題ではありませんが、面倒と言えば面倒ですかな。ファルル殿がお休みになられてからの話に致しましょう」
「分かりました」
声を潜めて言うバロフの意図を組み頷いた。
ファルルに聞かれては不都合な内容なのだろう。
「とりあえず中に入りましょう。タイミングが良かったですね。今日は久しぶりに彼女の手料理なのですよ」
「おおっ。これはいい時に来たようですね」
「くすくす。二人は食探知機能でもついているのでしょうか?」
わくわくしながら主であるリティウスを差し置いて中へ入るバロフに苦笑しながら、
(ファルル様の手料理は絶品ですからねぇ)
と、自身も自然と笑みを浮かべつつ賑やかな食堂へと向かい、雷を落とされ続けるドルトを見て肩を竦めていた。