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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第一章
16/44

16・孤島の職人

 久しぶりにファルルは手料理に勤しみ、新鮮な魚料理も一品加え、後はみんなの帰りを待つだけとなり、手が空いて暇になったので裁縫を始めた。


 調子があがり、ハミングが漏れ始める。


「らんらら~らんら~♪」


 その適当なハミングに合わせて、精霊達がひらひらと舞う。


<ファールルー。これボク達がモデルなのー?>


 一人の精霊がファルルの肩に手を添え、肩越しに作業を見ていた精霊の一人が声を掛けた。


「うん、そう……。ダメ、だった……かな……」


<違うよ違うよー! 嬉しいんだよー。ねーっ>

<<<ねーっ>>>


 自分達がモデルの刺繍デザインのハンカチ。

 嬉しくない訳がない。


「ふふっ。良かった」


 ちなみにリティウス(サタンバージョン)やカーリィ(熾天使バージョン)、ドルト(フェンリルバージョン)にワーグ(竜バージョン)、今ここにはいないが他の住人達がモデルのハンカチもある。


 当然、ファルルからみんなにプレゼントされている。

 リティウスに至っては、大事に額に入れ飾っている始末である。

 使わなければ意味がない。

 ある種の阿呆である。


 いや。

 リティウスだけではなく、それぞれが大事な物として丁寧にしまい込み、たまに出してはにんまりとしている。

 気持ち悪いというか、怖い。

 まだオープンに飾っているだけ、リティウスはまだマシなのかもしれない。


 ファルルは、いつ家から追い出されて一人になってもいい様に、せめて手に職を的な感覚で料理と裁縫だけは自己流で頑張っていた。

 おかげで、裁縫関してはプロもため息をつく程の出来栄えであり、街では謎の裁縫職人と言われる程人気の高い商品となっている。


 刺繍もお洒落で手土産としても喜ばれているらしい。

 売れなければ受注はないし作る事もないので、需要はあるだけでも幸せとファルルは謙虚に思っている。


 孤島に常駐する住人ではないが、出入りを認められている者が仲介人として定期的にやって来ては、売り上げの一部と材料を渡し、代わりにファルルの作った製品を持って帰り、知り合いの商人へと委託販売する。

 その人物は、人族の町で仕事をしているので孤島に常駐するわけには行かないでいた。

 個人的には、孤島でのんびりしたいと思っている様なのだが仕方ない。


 一人で制作する量も限られている。

 みんなが欲しがる割に大量に売り出していないという付加価値も加わり、そこそこ高値で売れるのだ。

 ファルルの身の回りに必要な物は、その仲介人かカーリィが世話をしていて、せめてその資金は自分で稼ぐと決めている。

 そこそこ高値で普通に売れているので、必要な物を買う程度なら充分である。

 むしろ、余りが出ているくらいだ。


 たまに合間を縫って、自分のや孤島の仲間達に服を作ったりもする。

 作って貰った住人達は、喜んで家族や友人・知り合いに見せびらかしていたりもする。


 ファルルがそういった作業をするための専用の部屋には、所狭しと様々な完成品が置かれている。


 袖部分に可愛らしい淡い桃色の波打ったレース刺繍。

 手首部分はやはり淡い桃色で緩いカーブが交差するように一周・正面にリボンのあしらったのレース刺繍。

 中指から袖にかけて生地と同色の糸で一本のラインで蔦をあしらい、同生地で作った小花で立体感を出し適度に散らしている。

 可愛らしくもほんの少し背伸びした感じの春らしい白生地のオペラ・グローブ。


 そして、淡い桃色でふんわりとしたリボン、ワタリには同じデザインの小花。

 トップクラウンからサイドに流れる様にヴェールが掛けられている。

 お揃いの生地とデザインで仕立てたオペラ・グローブとお揃いのヘッドドレス・ミニハット。

 

 立体感のある波打った花をモチーフにした大きな淡い水色生地がベースのプリム。

 互い違いに浮かせるように二・三層に重ね、軽ろやかさを見せている。

 トップクラウンには同色の立体感のある花がバランスよく適度に添えられている。

 白と数種類の緑の葉をモチーフにした飾りとピンクパールを立体的にあしらったワタリ部分がアクセントとなっている。

 シンプルながらも存在感はあり、爽やかさをイメージしたヘッドドレスハット。


 それに合わせるかの様に、淡い水色生地がベースのパーティードレス。

 ネックラインはワンショルダーで、淡い緑の大きな葉をイメージしたデザインを数枚重ねて装飾している。

 白と数種類の緑の生地がグラデーションになる様に、ひざ下から裾にかけて段重ねになっている。

 マーメイド&ティアードのドレス。


 深く濃い光沢のある黒地のモーニングやタキシード。

 色も黒ばかりではなく、深みのある臙脂や濃紺・チャコール、同色の濃淡で柄を施したもの等。

 シルクハットを始めとしたハット各種。

 薄紫のベストに深みのある紫のアスコットタイのセットや、淡い水色のベストに深みのある群青のクロスタイのセット等、小物を含め紳士物もそれなりに揃っている。


 ただ、これらの物はどれも特一級品である。

 特一級品とまで見極められずとも、誰が見ても一目で高級品と分かる代物である。


 こういう特一級品の生地や装飾などの素材は、全てこの孤島で調達している。

 なにしろ(熾)天使や精霊、その他諸々の職人気質の種族がいるのだ。

 様子がおかしな素材ものにならない訳がない。


 ファルルが裁縫したいと言ったがために、ファルルに甘々な彼等が全力を出した結果でもある。

 一般的に高級生地と呼ばれるものから逸脱してしまうのは想像に固くない。

 仕方ない。

 ちなみに、その色合いを出す材料も孤島産なのだが、こだわって色を出したのはファルルである。


 更に謎の裁縫職人であるファルルの裁縫技術が加われば、ちょっと裕福程度のお金持ち程度では手の出せないものへと跳ねあがる。

 孤島限定の素材は、生産事態も少ないのだ。

 少ないという事は、製品も少ない。


 なので、基本これらはファルルの身近な人達にプレゼントされるもので、市場に出るのはその残り物と、仲介人が厳選して持ってくる数着のオーダーメイド依頼だけである。

 オーダーメイドに関しては多少の採寸直しは販売店に任せるため、出荷した後は楽である。

 もっとも、デザインに関しては不満が上がった事はないので気にした事は一切ない。


 孤島にある素材そのものをそのまま売るのは憚られるし、流通させ過ぎると市場がおかしくなってしまうのだが、好きにしていいと言われているしある程度加工して少量ならば問題ないかと、一応その辺は気を遣っている。


 と、ここでも趣味を兼ねた内職が出来るファルルは恵まれていた。

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