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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第一章
15/44

15・孤島の釣り大会-3(釣果)

 平屋の庭先。

 幾つも並んだ容器の中で泳ぐ魚群。


 流石にちょっと生臭い。


 というわけで、消臭魔法を使い清浄な空気を作り出すカーリィ。

 漁師でも魚好きな卸問屋でも海鮮料理人というわけでもないので、少し辛いものがある。


「わぁ……。お魚さんが沢山~……」


 あまりの量に、目を大きくして思わずそんな感想を漏らすファルル。

 本当にあまりにも大漁過ぎて、それ以上の表現のしようがなかったのも事実である。


「えぇ。頑張りましたよ。皆、一つの椅子を掛けていますからね」


 目ぼしい物(食用)だけ残して、後は海に還す予定だ。


「というわけでだの。結果を公表しようでないか」

「よーし。じゃあ、数えるから読み上げと同時に一匹ずつ別の容器へ移していこうぜ」


 せっかく身綺麗にしたのを汚したくはないので、移動は全て魔法である。


「いくぞー。いーち……にーぃ……さーん……じゅーろく……さんじゅーに……よんじゅー……よんじゅーはち……ごじゅーろく……ななじゅーご……」


 読み上げ始めて七六匹目、カーリィが脱落した。


「いやあああ……」


 続いて七八匹目、ドルトの脱落。

 

「ちくしょうー……」


 そして八三匹目、ワーグの脱落。


「ぬぉぉぉぉ……」


 最後に一〇一匹目。


「ふふ。勝負は私の勝ちですね(にぃーーーーっこり)」

「な、なんでそんなに釣れてるのよ~ぉ……」

「少し、釣り糸に細工していましたからね。ふふ」


 そう言って、回収した釣り糸を見せる。


「あああ……そういう事をしたのかっ! ずりぃ……」

「うわ~ぁ……。卑怯者~ぉ……」

「失礼な。これは作戦ですよ。魔力は一切使用してもいませんからね? 釣り糸以外は駄目でしたが、釣り糸に細工をしてはいけないとは言っていませんでしたしね(にっこり)」


 ドヤ顔で見せた釣り糸には、サビキの要領で釣り針が数本仕掛けられていた。

 余りにも針をつけ過ぎて、怪しまれて真似されても困るので四本程に抑え、魚群を見つけては投げ入れ、上手くいけば二匹以上ゲットである。

 引き上げるタイミングで、一匹引き離しては一度海に沈め引き上げてまた一匹といった具合に、こっそり誤魔化していた。


 みんな、人外過ぎてかなり遠くそして深く見る事は出来、それに関しては差はないのだが、サビキという技の差がでてしまった。


「確かにそうだわい。一本やられたのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」


 そんなわけでリティウスの一人勝ちである。


 で。

 何を競っていたかというと。


 園遊会には、招待客一人につき五名までの側仕えを連れて行くことが出来、更にその内の一名のみを会場へ連れて行くことが出来る。

 残りの四名は、付添人用に当てがわれた部屋で待機となる。


 会場へ連れていける一人は、アルコールのない清涼飲料なら口にすることが出来るし、過度にならない程度になら食事も可能だ。

 護衛という意味合いも兼ねているので、いざという時にアルコールが入っていてはまともに動く事は出来ないという事もあるが、基本貴族のための飲食用なので例え清涼飲料だとしても限度を超えて口にする事は非礼にも値する。

 といっても、大抵の付添人は貴族なのでほとんどの場合問題はないが、いざという時のために控えめである。


 一方で、会場へ連れて行くのは、自分はこんなにも優秀な人材を雇うことが出来るのだというアピールのためでもある。

 付添人の一挙手一投足が主の器と連動しているので、どの貴族も優秀な側仕えを選ぶのだ。


 更に、彼等がいる事で会場内における警備要員を削減できるというメリットもある。

 結託し良からぬ事を企てると内から被害が出るというデメリットもあるが、要員を削減しているとはいえ会場内には城仕えの優秀な者達がいるため、余程の事がない限り大事に至る事はほとんどない。


 その一枠を勝ち取るための勝負だったという訳である。


 いつも隅っこで出来るだけ目立たない様に大人しくしていたファルルだが、今年に限って彼等が付いてくると言う。

 更には、内の一人が会場に付添いで来るというのがどんな事かすら理解出来ていないくらいには、鈍感なのは言わないでおこうと思う。


 ファルルにとっては、気兼ねのいらない大事な「お友達」なのだ。

 随分と年齢差があり地位がおかしいが、「ただのお友達」である。


「あぁ、そうでした。ファルル様、珍しい魚を捕まえたのですよ(にっこり)」


 と、リティウスが別の容器へ移していたシルクフィッシュを見せる。

 ファルルは、キラキラと輝かせながら優雅に泳ぐ姿に魅入る。


「わぁ……。綺麗……。リティウスが、捕まえたの……?」

「えぇ。シルクフィッシュと言って、海の貴女とも言われているんですよ。ファルル様にお土産です。後できちんと水槽を整えましょう」


 リティウス曰く、ファルルに差し出すこの魚を勝負の一匹に加える事はあり得ない。だそうだ。


「それを言うならオレだってほら。こいつも珍しい魚だぞ。ついでにこれも一緒に頼むわ」

「わぁ……。ドルトも、凄いわねぇ~……」


 ドルト曰く、同じくファルルにあげるのに勝負の……以下同文。


「エメラルドプーファという高級魚ですね。天然のこの二匹が同時に手に入るとは」


 説明を聞きながら、楽しそうに二匹を交互に見つめるファルルに満足する二人である。


「ファルルぅ。アタシは美味なる魚を手に入れたのよ~ぉ。レインボーライギョよ~ぉ。今日の夕飯のメインディッシュだわ~ぁ」

「わぁ……。噂にはよく聞いて……。初めて……食べるの。嬉しい~……」


 カーリィ曰く、ファルルにあげるために……以下同文。


「儂はのぉ、ほれ! 食の王様巨大ブラッカーじゃ」

「わっわっわっ……」


 無限袋からどどーんと現れた巨体にビクッとなって、目を丸くしつつ思わず隣にいたドルトの腕を掴み固まるファルル。


「び……びっくり……した……」

「ふぉっふぉっふぉっ。驚いたかの? ファルルドッキリ作戦成功だわい」

「その巨大魚、反則級だわ~ぁ……」


 当然、ワーグ曰く、ファルルに……以下同文。


 それぞれが思う、ファルルに期待する顔を見れたので満足である。


「ブラッカーの鱗は、防具の素材にもなるし装飾としても加工出来るのじゃよ。相当な技術が必要になるがの。あやつなら余裕じゃろうて。儂らも加工出来んことはないがのぉ。装飾に関してはあやつに限るわ」

「ブラッカーの鱗の中でも高品質でしょうね」

「うむ。耐久もかなりの様だしの。二つくらいの魔法付与ならいけるじゃろうて。あぁ、忘れておったわ。ちょっとこの前背中が痒くての。ボリボリ掻いておったら古くなった鱗が数枚とれてしもうたわい。まぁ完全に剥がれ落ちる前のものじゃ。ブラッカーの鱗と合わせたらいい物が出来るぞい」


 と、更に自身の鱗をドンッ! ドンッ!! ……ドドドドンッ!!!! と並べる事六枚。

 流石、古代竜の鱗。

 でかい。

 放置中の魚群に加え、場所を取っている。


 邪魔だ。


 そう思うくらいには、素材の価値としての感覚が鈍っている五人であった。


 いや。


 ファルルは、


「わぁっ。おじいちゃんは……綺麗な鱗持ってるのねぇ~……」


 と、尊敬の眼差しでワーグとキラキラと虹色に光る巨大鱗とを交互に見ていた。

 まぁ、ある意味感覚がおかしいので充分仲間であると思う。


 孤島の住人クォリティーとでも言っておこう。


「よしっ! それじゃ不要なやつは海に戻して。いっちょ鍛錬でもしに行こうぜ」

「あ……。みんな疲れてない……かな……? お腹、空いてない……?」


 と、ファルルがぽつりと呟く。


 一斉にハッとなってファルルに振り向き、


「そ、そうね~ぇ? 今よりお腹空かせた方が美味しく食べられるかな~ぁ? って!」

「そうですねっ! それにまだお昼まで早いですしっ! ファルル様の久しぶりの手料理楽しみですよ!」


 珍しく、リティウスが慌てているのが新鮮だ。


「う、うむ! ファルルや、美味しい食事楽しみにしておるからの」


(あほうめ……)

(ばっかじゃないの~ぉ?)

(ファルル様が泣いたらどうするのですか!)


 動揺しながら返事をし、ファルルに聞こえない様に念話で同時にドルトへ抗議を送りつつ、


「うんっ。美味しいご飯、沢山作って待ってる」


 と、嬉しそうに頷くファルルにホッとする四人である。

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