13・孤島の魚釣り大会-1
「おし。んじゃ、制限時間は二時間。ルールは……そうだな……。魔法無し、誘いこみなし、網なし、撒き餌なし、妨害禁止、孤島の外へ出るのもなし! 島内であれば場所移動自由。たった一本の竿と餌、そして己の勘と実力、運のみでひたすら釣る、釣り上げる! 大小問わず釣った数を競う! シンプル・イズ・ベスト、だ!」
「いいわよ~ぉ。じゃ、不正のない様、アタシが魔法を使うわね~ぇ」
と、孤島エリア全てに視覚共有の魔法を掛ける。
孤島エリアにおいて各自の行動が丸分かり。
とっておきと言いつつ、これだけとか思わないで頂きたい。
仮にもセラフである。
対一~二ならまだ良いのだが、それ以上の複数人と感覚を共有する行為は、ある種の危険行為でもある。
複数人の情報が個に対し、脳に一気に流れて来るのだ。
神経に障害をきたしたり、処理が追い付かず廃人となる事も多々ある。
負担を全く掛けない様、繊細な魔力調整が必要となる。
絡まった蜘蛛の糸を切らさず、綺麗に解すそんなレベルで。
ましてや、ここになんの抵抗も出来ないファルルも含まれているわけで。
もっと言うと、魔法の威力具合も個人によって変えている。
ファルルに対していうなら、柔しく且つ負担にならない様に鮮明に。
これを、世界全体を対象エリアにしても、個人レベルに合わせて軽く行使出来るのだ。
リティウスもドルトもワーグも出来る事は出来る。
自分が一方的に情報を得るだけならカーリィレベルとまでいかずとも広範囲で出来る。
共有する場合、数十人というレベルでは出来るのだが、世界中の全人類というレベルでは厳しい。
まぁ、数十人だけでも非常識なのではあるが。
そう考えると、カーリィの非常識さが伺える。
まぁ、得手不得手があるという事だ。
「あ、そうそう。公平を期すために、魔法を使用したら感知できるようにしたのと、思考感覚と聴覚は無しにしておいたから~ぁ」
「承知。では、始めるとするかの」
「負けませんよ」
「譲らね~」
と、口々に勝利を譲らない宣言をしてささっと移動する。
あっという間にいなくなり、一人ぽつんと残されたファルルが呟いた。
「うん、今日は美味しいシチューを作ろうかなぁ……。みんなお腹空かせて戻って来るはずだもの……。後は~……」
と、両手を合わせてにこにこしながら、得意の料理をしてみんなの帰りを待つことにしたのである。
どこまで遠くへ出かけてどんなことをすればお腹を空かせた状況になるのか、一体どんな想像をしてその結論に至ったのか。
そこはファルルのおっとりが成せる業という事にしておこう。
「ふんふんふ~ん♪ らんらららら~♪」
鼻歌も絶好調。
(これはっ……! 勝負の後は、少し皆で鍛錬をしてお腹を空かせておかないといけませんねっ!)
リティウスだけでなく示し合わせたわけでもなくみんなが同じを思ったのは、ファルルは知らない。
カーリィは、思考感覚と聴覚はなしにしたと言っていたが、それぞれがこっそりファルルに対してのみ一方的に共有をしていたのは、ご愛敬である。
プライベート(笑)。
朝食はしっかりと食べた。
二時間ばかりでお腹がすくはずもないのだが、ファルルの作り立て手料理を食べないのはあり得ない。
そんな勢いである。
ドジ臭い割りには、料理や裁縫等は得意なのだ。
「ファルルが怪我をしてはいけない」とリティウスがキッチンを譲らないので、こういう時くらいしか料理をする事がない。
過保護もいい所である。
故に、貴重なファルルの手料理なのである。
これを逃す手はない。
勝負に勝って且つファルルの手料理。
最高だ。
平たく言えば盗聴の類で得たファルルの発言。
四人の思考は、ある種一致団結していた。
阿呆である。
そんなにファルルの手料理が食べたければ、キッチンくらい譲ればいいのに……。というのは言わないでおこうと思う。
そんな感じで、それぞれに陣取りして釣り勝負が始まった。