12・孤島での勝負の仕方
面倒臭いのが嫌いな古代竜のワーグさん。
孤島を別荘がわりにする住人の中で最古参である。
年寄りだからと温厚というわけでもなく、種族性のせいか意外と切れるのは早い。
故に、鬱陶しいからとさっさと侵入者達に退場させてしまったわけだが。
さっさと終わらせた理由が、ファルルに早く会うためであるとか知ったら、彼等(船団)は再起不能になるであろう。
ただでさえ、白目を向き呆然としていたのだから。
あの状況でよく気絶しなかったと思う。
褒めてあげよう。
一仕事終えた。と満足げに人型になったワーグは真っ先に平屋(別荘)に向かった。
「みんな、お帰り……なさい?」
「ファ~ルル~ぅ、たっだいま~ぁっ」
「おーぅ」
「ただいま戻りました。久しぶりのお客様もいらっしゃいますよ」
言われて、振り返るリトを視線で追った先に杖を突いたワーグがいた。
杖なんか必要なさそうなくらい元気に見えるが、気にしないでおく。
「おじいちゃんっ……」
ぱぁっと嬉しそうな顔をするファルルだが、おどおど具合は変わらない。
「ファルルや。元気にしておったかの」
コクンと頷くファルルの頭を撫でながら目を細める。
白いお髭がふさふさな好々爺(見た目)である。
当然の事ながら、八千年以上も生きている古代竜である事はファルルは知らない。
「ふぉっふぉっ。元気そうじゃの」
「えへへ……」
はにかみ具合が可愛らしいと思う。
これが可憐な乙女なら尚更……コホン……とは、ここにいる者は誰も思わない。
幸せ者だ。
「あ、あのね、おじいちゃん。リティウスが……パイ、焼いてくれたの。一緒に、食べよ?」
「おぉ、それはよい。ひと暴れして丁度お腹が……」
「空くほどしてねーだろ……」
「うるさいわい。わっぱ、早うもってこんか」
「へいへいー」
この孤島……いや、この世界において最古参。
歴史の生き字引とも言えよう。
そんなワーグは、今日もマイペースに周りを気にする事も無く、当たり前の様に泉のティータイム会場へと足を運んだ。
「みんな急にいなくなった……から……心配したの……。もう用事は終わったの……?」
「はい。抑えの効かないワーグ殿のお陰であっさりと。もう少し遊びたかったんですけどねぇ……(はぁ……)」
「さっさと退散して貰うのが楽でよいわい。貴様も抑えておらんかったじゃろうが」
「私は船を少し壊しただけですが? むしろカーリィの方ですよ」
「えっ。違うわよ~ぉ。アタシは、ちょ~っとピリピリさせてあげただけだもの~ぉ。真っ黒焦げにしたのはドルトよ~ぉ」
「短気じゃのぅ」
((どっちが……))
「え、と……怪我とか……して、ない……?」
「ファルル様。心配して頂いてありがとうございます。大丈夫ですよ(にーっこり)」
「あ~ん。ファルルぅ。いい子いい子~ぉ」
良かった。と呟いて、はにかむ様子で首を竦める。
よっぽどの事がない限り、彼等が擦り傷一つ追う事はないが、ファルルはみんなの実力を知らないので仕方ない。
「そうじゃ。ファルル。またあのろくでもない所に行かねばならんのじゃろ?」
ふいに言われて、頭の隅っこにすら残っていなかった事を思い出したファルルの顔が曇る。
「あぁ……年に一度のあれですか……」
「あれだわね~ぇ……」
「胡麻をするしか能がない癖に、威張りおって。よくあれで領主が務まるもんでの」
「ホントにね~ぇ……」
ファルルが、実は良い所のお嬢様という事実に軽く驚きである。
この時期、春の園遊会シーズンという名目で貴族達は王都に集まり交友を紡ぎ、よほどのことがない限り、領主や子爵以上の家柄の者は全員強制参加という一大イベントが五日間続き、日別にランダムで振り分けられる。
王宮主催の園遊会は、領主以外の男爵以下は、個人的地位を確立し余程の名が売れて招待されるか、そうでなければ気紛れに招待されない限りその場に参加する事は出来ない。
この大規模な園遊会は王宮にて行われるのだが、この機に個人的に主催をする者が増え、結果的に半月から一ヶ月の王都や近辺に滞在する事になる。
権威・名誉・地位の沽券維持活動や様々な目論みのため、面倒臭い遠回しな会話が飛び交う貴族社会の社交の場。
遠回しが故に。
一歩読み間違えれば、没落どころか地位を失いかねないため必死である。
これがファルルの故郷ルール。
ファルルは、こんな性格なので巻き込まれない様にといつも隅っこでひっそりと縮こまっている。
縮こまっている理由はそれだけではないのだが、色んな意味で肩身が狭いのだ。
「そこでじゃ。ファルルや。儂が付き添いで一緒に行ってやろうでないか」
「えっ、ええっ……」
「……ワーグ~ぅ? そんな横柄な付添人、見た事がないわ~ぁ」
「ワーグ殿が行くのでしたら、私もいきますよ。いえ、むしろ私が適任です。私が行くべきですね」
「えっ……。リト……それはちょっと……流石に駄目なんじゃないかしら~ぁ?」
「バレなければいいんです(にこにこ)」
(あ。駄目ね~ぇ……。行く気満々になってるわ~ぁ……)
「あ、ずるいなー。オレも行く」
パイを大漁に持って戻ってきたドルトも参加表明。
「はぁ~……。仕方ないわね~ぇ。アタシも行くわ~ぁ」
「ふふっ。嬉しい……ありがとう……」
目立たない様にひっそりとしているファルルなのだが。
彼等がいるとむしろ目立ってしまうという事に気付く者は、誰一人としていなかった。
「ただ、問題がありますね」
「そうね」
「そうだの」
「だな」
ギラリと目を輝かせ。
「「「「ファルル(様)、勝負の方法はなにが良いと思う?(思いますか?)(思うかしら~ぁ)(思うかのぉ)」」」」
一斉に振り向かれて、ひたすらキョドっているファルルである。
「ふえっ……? えっ……と……その……勝負……?」
何故急に勝負の話になったのか、頭が追いつかないままあたふたしながら口にしたのは。
「魚釣り……?」
海に囲まれた孤島ならではの平和な勝負。
怪我もなさそうで良い事である。
「うむ。それじゃな」
「んじゃ、今日はもう疲れたから明日にしようぜ」
「いいでしょう。受けて立ちましょう」
「おっけぃよ~ぉ」
「「「「ふふ……ふふふふふ……」」」」
そんなわけで、目をギラギラとさせ、バチバチと視線をぶつけ合いながら。
「みんな、楽しそう……(ふふっ)」
言うまでもないが、勝負という事を除けばただの釣りである。