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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第一章
11/44

11・船上の戦慄-2

孤島に出てくる魔法や生物名には、色んな国のリアル言語を組み合わせたものが多いです。

ただの適当に(インスピレーションで)作っただけのものもありますが。

「カーリィ。早かったですね。もう終わったのですか?」

「終わったというか終わらせたというか~ぁ。ドルトが暴れちゃって。おかげでほら、この人達真っ黒こげよ~ぉ」


 魔力を暴発させた方へ向かうなり、ドルトは火魔法をぶっ放していた。

 何しろ、そこはドルトが好物の木の実が群生している場所だったからだ。

 遠視をかけて様子を見るなりいの一番に駆けだしたのは、実は唯一常識人ぽかったドルトである。

 火魔法をぶっ放して、更には物理的にもダメージを容赦なく与え、逆にそれを止めるのに苦労したのはカーリィである。


 後ろ手に縛られ、傷だらけで泡を吹き黒焦げの髪の侵入者。

 黒焦げというよりハゲに近い。

 むしろ、これで良く息の根が止まってない事に驚きである。

 彼等を甲板の上にぽいっと放り投げ、何事もなかったかの様にリティウスの正面に降り立った。


「同情の余地はありませんね」

「それで~ぇ? リトは何をしてこの人達の生気奪ってるの~ぉ?」

「ここが魔族領ではないと言うので、少しばかり言葉遊びをして差し上げている所です」

「ええ~……。いつからそんな事になってたの~ぉ? アタシ知らないわ~ぁ」


(ろ……六翼……セラフ……)


「はー。すっきりした。なんせ思ってた以上にハゲ地にしてくれてたもんだからさ」

「ドルト、暴れ過ぎよ~ぉ。全く勘弁してよね~ぇ」


 陸地から船まで結構な距離があるが、余裕な顔でひとっ跳びし甲板へ着地したのは言うまでも無くドルトである。


(フェ……フェンリル……)


 船乗員達はこの組み合わせに戦慄し、ただただ意気消沈した空笑いを浮かべるしか出来ないでいた。


「魔王に……六翼の天使……に……幻獣……」


 サタンにセラフにフェンリル。

 更に、フェンリルであるドルトには、族長であり獣国国王でもある血筋である証も見て取れる。


 この組み合わせの異様さに、ツッコミを入れたいがそれどころではない。


(そもそも、魔族と天使なんて組み合わせは聞いた事がないわ!)


「で? これが問題の地図? ……うわー。こんなん聞いた事ねぇぞ。でたらめだな~。一応、親父にも確認してみるか?」


 タラタラと冷や汗を流している船団長を尻目に、会話をする三人。


 使えるコネは当然使う。

 別に隠しているわけでもない。

 ファルル以外には。というのが前提であるが。


「は……はは……」


 船団長は腰を抜かしてその場にへたり込む。

 正体を隠すつもりなどさらさらない。

 隠す必要性も感じない。

 例え三人が何かに巻き込まれても、大したことないからだ。

 過信しているわけではないが、力があると言うのは素晴らしい。


「もしかしたら情報の行き違いかもしれないし~ぃ。その方が確実ね~ぇ。アタシの所に情報が来てないって事もあるかもしれないわ~ぁ。その時は……部下をお仕置きしなくてはね~ぇ。まぁ? アタシに隠し事なんて出来ないから問題ないけど~ぉ」

「うし。まぁ、ちょいっと行ってくる」


 ひょんっとテレポートし、姿を消す。

 ここから所属国までかなりの距離があり多大な魔力を必要とするが、ドルトには関係ない。

 人間がテレポートする場合、他種族と比べて魔力量が少ないので、精々隣街へ程度の距離間でしか使えない。


 十分程経った頃に戻ってきたドルトは、


「親父も兄貴もお隣の国王さんとか。後は知り合いの領主とかギルド長とか他にも色々聞いたけど。知らねーって言ってたぞ」


 と、十数分の間に一体どれだけの人物に顔を出して来たのかというくらい、その面々を列挙する。


「確認するまでもありませんでしたが。お疲れ様でした」

「おう」

「それで~ぇ? そういう訳だけど、この落とし前どうしてくれるのかしら~ぁ」


 船団長の額をツンツンと指で突きながら、ん~? っと判断を迫っていく。


「この地はリトが提供してくれた場なのだけれど、アタシ達の憩いの場なのよね~ぇ。そして特別区でもあるのよね~ぇ。あんなハゲ地帯作ってくれちゃって。この地の管理は難しいのよ~ぉ? あなた方に元に戻す事は出来て? まぁ? 気を緩めてたアタシ達にも責任はあるのだけれど~? けれど、明らかに非があるのはあなた方でしょ~ぉ? はぁ~。このアタシが直接非礼者に話しかけて差し上げているだけでも光栄に思いなさいね~ぇ? それと~ぉ。あなた方が盗み出そうとした可愛い子等を、返して頂けるかしら~ぁ?」

「ぐっ……」


 そう。

 この地の気候の管理は、カーリィが行っているのだ。

 このでたらめな植物の生息には、事象を無視するだけの力と維持するための緻密で繊細な能力が必要なのだ。

 この場においては、事象を無視する行為はカーリィにしか出来ない技である。

 正直元に戻すくらいカーリィには造作ないが、そんなことが出来るとは言わない。


「あぁ。そうそう。あと、ここにいるのはオレ達だけじゃねぇから。中位以上の精霊もいるし、各種族の偉い奴とか、様子がおかしげなのがゴロゴロな。ああ……そういえばじいさん最近こねぇけど、生きてんの?」

「はて。そう言えばとんとお見かけしませんねぇ」


『ん? 呼んだかね? わっぱ』


 何というタイミングで現れるのか。

 遥か上空に黒い点が見える。

 遥か上空にも関わらずはっきりと届く声量。


 グングンと近づいて来てその姿がはっきりと認識出来る頃。

 船乗員達は、もう何が何やら訳が分からない状態に陥り、ただひたすらその光景を眺めているしか出来なくなっていた。


 視界に収まる範囲から溢れる堂々とした巨躯。

 陽光にあてられ眩く光る白銀の鱗。

 バサッバサッ重厚な音を立ててる翼。

 成人の体くらいはある巨大な牙。

 太く短い前足と、どっしりとした後ろ足。

 人間など親指と人差し指だけで覆える鋭い爪。


 ファルル曰く、鱗が綺麗で大きな鳥さんねぇ(ふわあぁ~……)、らしい。


 まぁ、ここまで表現すればわかるだろう。

 ただの古代竜だ。

 八千年以上長生きしている、ただの古代竜だ。


 船乗員達の顎が元に戻るか心配になって来る程度には、顎が垂れ下がっている。


「おー。じいさん、三ヶ月ぶりだなー。生きてたのか」


『うむ。最近山が煩くてのぅ。魔物を間引いて魔気を整えるのに手間取っておったわ。ところでわっぱ。あの焼け野原はどうしたのかね?』


「あ~、そこの奴らが悪さした」


『悪さされるまで気付かなんだのかね。情けないのぅ』


「それについては何も言えませんね。ワーグ殿」

「それでちょ~っと脅しをかけて遊んでいたのよ~ぉ」


『えげつないのぅ。人間たるやひ弱な生物。見てみぃ。白目を向いておるではないか。儂がちょちょいと後片付けをしてやろう。儂は面倒臭いのと鬱陶しいのは嫌いでの。さっさと消えて貰おうかの』


 羽ばたく度に巻き起こる風にあおられ海面が大きく揺ら立ち、あり得ない角度で船が揺れ落とされない様に必死にしがみ付きつつ、白目を向いている彼等を一瞥し、


『帰ったら伝えておくがよい。ここに訪れし者災いが起きるとなぁ。さて。<強制隷約ラヴォ・ゲーヴ・コントラクト>汝等、ここで見聞きした事他言すべからず。犯そうとした者等しく苦痛を味わうが良いわ。そうじゃな、犯そうとする度に焼き野原のダメージ相当の苦痛を三日。苦しむが良いぞ。<成立コンクルード>』


 「喋ったら」ではない。

 「喋ろうとしただけ・書こうとしただけ」で、三日間だ。


 ほんの少し同情するような言葉を投げかけておきながら、この非道さである。

 古の制約魔法で、現代の制約魔法と違って解除方法はなく失われた強制制約。

 行使した者ですら解除が出来ないのだ。

 相当な魔力を要するため、人間の中に実行できる者は当時ですら数える程だった。

 そのため、大抵が魔力の多い種族で権限が与えられた者のみが行使出来るものであった。


 ほんの少し同情するような言葉を投げかけておきながら、この非道さである。


 解除出来ないため、毎日針の筵に立った様な苦痛を強制的に体感する様に仕向けられれば一生その苦しみから逃れられない。

 そんな鬼畜魔法故に廃れていき、人族以外の長く生きる者の一部がその存在知るのみとなり、現在では、契約主が解除しようと思えば幾らでも出来るものだけが残り、人道的にも法は出来たりしたのだが。


 当然、そんな古の鬼畜魔法を知らない彼等は、解除方法はない事を告げられ唖然としただただ立ち尽くすのみである。


『二度と近づく出ないわ。愚か者めが』


 そして大気中の空気を全て飲み込むかの如く吸い込むと、大きく吐き出した。


「たーまやー」


 吐き出した瞬間に生まれた気流に乗り、船団全てが宙に浮き、明後日の方向へ吹き飛ばされる。

 これだけでもう二度と手を出そうなどと思わないだろう。

 彼等が無事に帰れるかどうかは知らないが、戻った彼等がここに近づくと地獄を見ると宣伝してくれるのを軽く期待している。


「一番えげつないのは何処の誰だよ……」

「全くです」

「ほんとにね~ぇ」


『ほっほっほ』


 深くつっこんだら負けである。

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