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孤島の主(仮)  作者: 梅桃
第一章
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10・船上の戦慄-1

 上陸した侵略者の元へはカーリィとドルトが、船へはリティウスがそれぞれに向かっていた。


 音も無く船の象徴とも言える船首像に降り立ち、片手を真横にさっと薙ぎ払う。

 たったそれだけの風圧で、帆柱が倒れ海上へ落ちる。

 周りに浮かぶ船の船首像が壊れ、艫屋形の屋根が吹き飛ぶ。

 海面は、風圧と帆柱や船首像諸々が放り投げられた影響で荒ぶっている。


 この辺りの海流は、比較的穏やかで、荒れる事自体が稀である。

 にもかかわらず、天候のいい日に自然にここまで荒れる事はない。

 故に、真横に一薙ぎしただけで荒ぶり続ける海面の異常さは、一目瞭然である。


「この地において、先程からの非礼極まりない行いは、あなた方ですか」


 スッと細めた目で更に冷ややかな視線と感情の消えた声を上空から投げつけるのは、言わずもがなリティウスである。

ちょっと壊れ気味のリティウスも、人前に出ると多少は真面になるらしい。


「多少の事は見逃していましたが、今回は流石にそうもいきません。せっかくの憩いの時を奪う行為、孤島へ甚大なる被害を及ぼす行為、償って頂きますよ?」


 重要なのは前者であり、後者は取ってつけである。

 どちらかと言えば後者の方が重要に思えるが、そんな事実を船乗員達は知らない。


「魔……魔族ッ!! 撃て! 撃てぃ!!」


 勝てぬ相手であるのは見ての通りのはずなのだが、その姿と圧倒的な威圧に慄いた彼等の思考は混乱し、やらなければやられると脳が働き、口にした言葉は攻撃という手段だった。


 船乗員達も同様に、魔族というだけで混乱し連携も何もなく思いつく限りの魔法や武器を投げつけるのだが……。


「ふっ。この程度で私に歯向かうなど、笑止もいい所ですね」


 魔法を使う事も避けるそぶりもなく、放つ魔気で全てを掃う。

 圧倒的な力の前に、船乗員は立ち尽くす。


「もう終わりなのですか? 威勢の良かった割には存外つまらぬものですね……。はぁ……」

「魔族がなぜここにいるのだっ!」


 明らかに恐怖の目でリティウスを見上げる船団長。

 更なる攻撃を仕掛けるも、蚊を払う程度の動作で打ち消されてしまっている。


「魔族は我等の敵! 怯むな! やってしまえ!」

「ふん。過去数千年、我々があなた方に何をしたと? いつまでも過去に捕らわれているとは」


 魔族というだけで力は人間の比にならず、魔族という種族の違いと力の差で恐怖の対象になってしまう。

 恐怖の時代は遥か古の時代に終わったというのに、未だに根強く残っているのは古の伝承や現在にまで衰える事のない力のせいでもあるが。

 そして、同種族同士で争いをしていた過去があるにも関わらず、過去に終わった事象は同種という連帯感からか、同じ条件でも捉え方が変わるのは良くある話。


(全く。外大陸に足を運ばぬたかだか四・五年の間に、人間の質も落ちたものですね。まぁ、この程度の阿呆というのは我が国にもいますし、どっちもどっちですか)


 やっている事は同じなのだ。

 種族が同じかそうでないか、それだけだ。


 内心ため息をつきつつ言葉を続ける。


「あなたが代表であるとお見受けしますが、対話をするつもりがあるのならそうしましょう。そうでなければ容赦しませんよ」


 つもりがあるのかないのかと問われても、攻撃という選択肢は無いに等しい。

 去れという選択肢がない以上、迫られるのは一つだけである。


 このまま攻撃を続けても今ある戦力では歯が立たない。

 意を決して船団長は一歩前に進み出た。


「この度に限って言えば、先に手を出したのはそちらです。そこを踏まえて答えますが、ここは『魔族領』です。ここにいるのは何故かと問いたいのはこちらです。おまけにこの地の一部を荒らしたのです。その代償はいかに」


「魔族が何を言うか! ここは魔族領ではない! 貴様の方が不法であろう!」


「ほう? 魔族大陸における領域の定義と人たる者どもの定義が異なると? 魔族国領は孤島より南に見える島まで。これは世界会合において確立されたものです」

「そっ、そんな筈は! 伯爵に渡された物にも私が確認した物にも載ってはおらん!」


 投げつけられた地図を手に取り、確認する。

 そして、一笑した。


「何処の伯爵かどうでもいいのですが。何をどう調べたのか知りませんが、でたらめな情報ばかりですね。これを他国で見せれば恥をかくのはあなた方です。まさか私の知らぬ間に史実が変わったとでも? 船団の代表であるにも関わらず、でたらめな情報に踊らされるとは情けない」


(伯爵はこれが新しく認識されたものだと言っておったぞ! あのハゲめ! 騙したのか!?)


 そう言い終えた所で、リティウスに向かって魔法が一つ放たれる。

 人間がここまで高濃度の魔力を込めた魔法を放てることに関心しつつも、片手でその塊を受け止める。


「話に割って入るとは無粋ですね」


 冷ややかに言い放ち、軽々と水面に投げつける。

 海水が飛沫を上げ船を揺らす。

 大きく船が揺れているにも関わらず、船首に悠々と腰を下ろし足を組み笑みを浮かべる。


「話の続きですが、この孤島は私自ら作り出した地。つまり、孤島は私有地であり所有権は私にあるのですよ。 もっと言うなれば、私が所有するのは魔族領全て、です」


(全て、だと? 魔族領全て……? ということは!?!?)


 船団長始め、その言葉の意味を敏く理解した者達は、目を見開く。


「ま……まさか……魔族大陸の、王……」

「リティウス・ロスター・ヴァルガンド、と申します」


 瞬間、船乗員達はサーーーーッという音が聞こえるくらい血の気を引かせ、武器を手にしていた者は甲板の上にカラカラと落とし、ある者は膝を突き宙を仰ぎ、放心する。

 

 魔王と言えば、千年以上も代替わりをせず統治しているというのは世界共通認識であり、その名は周知のことである。

 勝手に名乗ろうものならどんな罰が下るかと噂されるくらいには畏怖の対象でもあり、地上において絶対的強者でもある。


 その姿を多様に変えるので、本来の姿を知る者は消して多くないが、その名を平然と口にすると言う事は、そうであるのが事実なのだと理解する。


 最初から敵う訳がなかったのだ。


「さて? 領域に関しては幾らでも資料を提示できますが、それはまぁいいでしょう。しかし、この不始末どの様に解決してくれるのですか? 私としては国家問題としてもいいくらいなのですが。あなた方の国はどちらです? 国からの要請ですか? それとも個人の行動ですか? 見るからに研究者らしき方もいらっしゃるようですし、国とみてよろしいですか」


 国家問題。

 その単語に更に血の気を引かせ、泡を吹く寸前である。

 害をなさず、ただ航路として使用する分には問題はない。

 孤島に関しても、ほんの少し休養地として使用する分にも咎めるつもりはない。


 が。

 領内において、被害を与え、被害を受けた場合。

 与えた側に制裁を加える、飛躍させれば戦争を起こす事も出来るのだ。

 それは何処の大陸・国でも同じである。


 冷や汗をたらたらと流す船団長と船乗員達。


「お、お待ち下さい……。それだけはどうか……」


 明らかに一変した態度は、口調からも見て取れる。

 揉み手をしながら、必死に交渉しようと試みる。


「リ~ト~。まだ終わらないの~ぉ?」


 そんな中、上空から空気を読まない声が降りて来た。

 見上げた船乗員達は、再び口をあんぐりと開けゆったりと降りて来るその姿をただ茫然と眺めていた。

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