9.白銀の少女
【門番長】に案内されて外に出て。
最初に視界に入ってきたのは、頭上10m程の街を大きく包む石の壁だった。
予め大きくなることを前提に入れているのか、明らかに無人の土地が石壁傍に点在して見える。
そんな、幻想物語的な光景より。
余程目を引かれたのは様々な髪色の人間と、様々な生物達だった。
130cm程しかない、髭を豊富に蓄えた恰幅の良い男性。
180cmを超えるだろう長身に、耳がスラリと尖った弓を背負った美人の女性。
耳と尻尾が分かりやすいように動く、屋台の前で眺めた少年たち。
「う、わぁ……。」
「あー、《ドワーフ》や《エルフ》見るのも初めてだったりするか?」
「え、ええ。 初めてです。」
幼い頃に読んだ、様々な外国の小説。
目を輝かせて想像していたあの頃の内容が、今現実にある。
現実感を伴わない現実、という矛盾にどこかふわふわとした感じが拭えない。
どんな事が得意なんだろうか。
どんな食事を摂るのだろう。
話して、色々聞いてみたい。
「ほれ、先にウチ行くぞ。 物珍しいのは分かったけどよ。」
「あ、すいません。」
「しっかし、お前さん妙なモノに興味惹かれるんだな。」
「そうですか?」
そうさ、と親指を右側に向けた。
「ウチは向こうだ。 暗くなる前に行こうや。」
世話になるだけなのだから、お願いします。
そう答えて、後を追うしかなかった。
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案内されたのは街の中心程にある、平屋建てのやや大きめのモノだった。
日本なら地方だったら安めのアパートとして借りられそうな、そんな雰囲気。
「元々は親父とお袋と住んでたんだが、流行病で逝っちまってな。 今は二人暮らしなんだわ。」
「流行病、ですか。」
「ああ――海の怪物のクソ野郎のせいで、な。」
手を強く握りしめ、何かを呟くその姿。
一歩だけ後ずされば、首を小さく横に振って振り払うようにした。
「ま、それは良いや。 中に行こうぜ。」
深いトラウマを負っている人間は、分かりやすい。
そんな事を知った口で利いていた同僚がいたが、見るのは初めてで。
初めて、初めて、初めて尽くし。
ただ、浮かんだ感情は憐憫だった。
「ロザリー、今帰った。」
「……兄さん? 早いね。」
入り口らしき扉を開け、中に大声で叫べば。
それが日常とばかりに、壁に手を当てながら歩いてくる一人の女性が目に入る。
身長は150cmあるかどうか。
髪の色は白に限りなく近い銀を後ろに伸ばし、腰ほどまで。
見るからに華奢で、強く握ればあまり筋力がないと自認している俺でも折れてしまいそう。
若干垂れ目だが、瞳の奥には何か強い想いを持っているような――――そんな。
「俺の妹のロザリアだ。 此方はリンドウ。」
「……お客様なの? 兄さん。」
「魔女の気紛れ人だよ。 ……任せていいか?」
「――――本当に?」
目を白黒させる、彼女。
……俺の視界には、極めて輝いて見えたのは何故なのだろうか。