8.魔女の灯り
ぱちぱち、という火花の音に目を覚ました。
(……知らない天井、って何の作品だっけ)
昔聞いたことのある台詞を思い浮かべながら、首を横に倒した。
少し黒ずんだ天井とは違い、艶めかしい色合いが整えられた木壁にはランプが一つ。
幾つかの兜や剣が吊るされた傍には、一人の男性が焚き火に向かって何かをしているようで。
そこでやっと、自分が眠っているのが二つ並んだベッドの片割れだと気付くことが出来た。
「ぉ……?」
そうこうしている内に、俺の動く音に気付いたのか。
座った彼が立ち上がり、此方に向かってきた。
身長は190cmに近いだろうか、相当な長身。
髪の色合いはやや青みを帯びた黒で、見る限り20代後半くらいに見える。
目は何処か鋭さと温かみを併せ持ったつり目で、乱雑に剃った髭を撫でながら俺の顔を見ている。
「起きたか?」
「あの……此処は?」
「門番の詰め所だ。 お前さん近くの村人とかじゃねえの? ぶっ倒れてたってコークス達が大騒ぎしてたが。」
そうだと思いこんでいたのか、若干あてが外れたような声色をあげる彼。
違う、と小さく首を振りながら起き上がった。
コークス、という人物にも心当たりはないし。
「良く分かんないんですが、気付いたら森の奥の廃屋にいまして……。」
「森の奥ゥ!? お前さん、魔女の深森から出てきたんか!?」
「う、うぃっか……?」
出てきた場所を告げれば、あからさまに驚きの声を上げる。
ウィッカ・フォレストと言ったか。
ウィッカは分からないが、フォレスト……森、何故か英語。
英語圏内なのだろうか。
「此処は魔女の灯火。 このオブレヒト大陸のほぼ東端に当たる街だ。」
「は、はぁ……うぃっか。 森の近くだからですか?」
「それもあるが、まあ昔の伝承でな。」
それはともかく、と彼は顔を近付けて睨みつけるように聞いてくる。
「お前、本当に森から出てきたんだな?」
「え、ええ。 変な怪物に追いかけられて、命からがら。」
「……魔女の気紛れ人か。」
可哀想に、と。
そんな呟きを耳にしてしまった。
「……なんですか、それ。」
「これも昔の伝承だよ。 ぁー、ったく。 ってことは【神殿】にも登録してねえか。」
「神殿……ええ、少なくとも俺はそんな場所知りませんし。」
「この時間じゃ閉まってるし、神官叩き起こすのも忍びねぇしなぁ。」
むんず、と。
手を掴まれた。
ゴツゴツした掌が俺の掌に当たり、少しだけ痛みを感じた。
「とりあえずウチに来い。 妹なら少しはまともな説明してくれるだろうし、こうなったら面倒見てやるさ。」
「は、ぁ……?」
「俺は《門番長》のレザード。 お前さんは?」
「……竜胆。 貝谷竜胆です。」
「リンドウか、確かに聞かねぇ名前だな。 ま――」
宜しくな、と声を掛けられれば。
宜しくお願いします、と返すしかなかった。
……久々に、人の温かみに触れた気がした。