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5.遭遇、第一生命体

焚き火の明かり越しに見えたのは、少なくとも人型ではなかった。

一番近い存在を思い浮かべれば、犬だろうか。

ただ脚が六本、頭が二つ。

その頭からだらりと地面に着く程の長さの舌を引き摺った、灰色に染まった生命体をそう呼べるのなら。


(なんだ、あれ……)


視界を埋める色は(まだら)

舌部分は灰色じみた、腐ったような色。

牙は朱一色で、それ以外にもあちこちに朱と灰色が入り混じっている。

少なくとも友好的ではない、というのは言わなくても分かる。


じゃり、と一歩後退り。

それを切っ掛けに、その怪物は俺に向かって飛び掛かり――――そうになり、足を止めた。


「ッ!?」


足を止めたのは焚き火の直前。

飛び越えるか、或いは大回りで駆けてくるか。

何方を取ってくるにしても逃げられるとは思えなく。

その場にへたり込んでしまうのが精一杯だった。

そんな俺を舐めつけるように見るのだろうか……と思えば、そうではなかった。


『――――!』


甲高い鳴き声(なんだろう、恐らくは)を片方が叫び。

もう片方が、垂れていた舌を槍のように伸ばして俺の肉体を貫こうとしたからだ。

ここまで冷静に考えられる理由も、多分は死ぬ間際に見る走馬灯の一種に近いのだろう。

訳もわからない場所に移動させられ。

訳もわからない生命体に襲われる。

夢であればどれだけ良かったのか、夢であって欲しい。

そんな諦観を抱きながら、咄嗟に目を瞑り。


『――――!??!?』

「…………?」


直ぐ様身体に感じるだろう、痛みが来るのを覚悟していたが襲ってこない。

それどころか、唐突に怪物の叫び声が耳に入ってくる。

ゆっくりと目を開けてみれば。


「は?」


舌は先程のままのようにだらりと垂れたまま。

胸元には特に疵もなく、両手を見ても違和感もない。

ただ、一つだけ変わってしまっていること。


『……!ASJUiolads!』


焚き火越しだからこそ、はっきりと見えた。

怪物の犬のような胴体。

その首元辺りに、細い穴が出来てそこから黒い液体を垂れ流している。

垂れた液体は地面に落ちれば、茶色い煙を上げているように見える。


「自爆……いや、誰かが助けて……ッ!?」


其処まで呟いた時点で、我に返った。

そうだ、今なら間違いなく逃げられる。

明かりがない?

持ち物を失う危険がある?

そんなことはどうでもいい。

逃げられるのだから――逃げなければ。


「ッ! じゃあなワン公!」


地面を両腕で叩くように起き上がった。

衝撃で腕に鈍痛が来たが気にしない。

いや、そんな思考は後だ。

意味不明な叫び声を上げ続ける怪物から、咄嗟に真後ろへと走り出した。


寒さと、訳の分からない脳内と、現状と。

誰か説明してくれ。

そんな誰かに縋る事を思いながら、必死に走った。


……気付けば、怪物の姿は見えなくなっていた。

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