4.深淵の森の中で
木々は高く、漸く太陽らしきものが上がり始めたばかりの周囲は未だに昏い。
にも関わらず、俺は割と問題なく森の中へと足を進み続けていた。
それが可能だった理由は大きく二つ。
「流石に勿体無いし危ないんだが……仕方ないもんな」
一つは、持っていた端切れとライター。
そして森の中に落ちていた丁度いい長さの木を用いた簡易な松明。
油に浸したわけではないから着火までは相当時間が掛かったし、持つ部分に燃え移る危険すらある。
それでも、火を用いて安心を得たかったというのも合って強行した。
万が一危険になったら手で穴でも掘って埋めれば消えるだろう。
そんな松明を片手に、頭上の木々……光を遮る程の高さのものではない、手が届く範囲の若木の葉の部分を眺める。
幾つか点在して『見える』葉に隠れた果実、その中でも『普通』に見えるものをもぎ取って確認した。
「これは普通に見えるんだよなー……」
そう呟きながら、地面に所々に見える朱い物質を見る。
既に視界は通っており、その先にあるのは胞子で増える菌糸類。 俗に言うキノコだ。
幾つか現在分かっている事を整理し、果実を頭上に放り投げながら思考を続ける。
・頭上の果実のうち、明確に『朱い』モノと『普通に見える』モノは区別されている。
・地面のキノコも朱く、推定海も波間が朱かったことから推測すると『危険、或いは致死』に類するものに反応している?
・言葉にはしづらいが、本来見えないものが其処に『見え』ている。
・これらから考えると、単なる暗視や透視と言った想定できるものとは別物だろう、と想定出来る。
(まあ、良くわからないからどう活かすかってのも難しいんだけど)
途中、綺麗な小川に行き当たった。
流石に喉も乾いていたこともあって、一目周囲を確認したが特に違和感はない。
『朱い』モノが見えるとは言えそれは木の真下、推定キノコだし。
近くから乾いた枝と葉っぱを拾ってきて松明から火を移動。
簡易な焚き火を作り、一時的なキャンプのようにしてから小川の傍に移動して腰を下ろした。
水面に写った自分の顔は、若干埃に塗れてはいるが眼鏡を外した普段の姿。
(……本当によく分からんけど、今はそんなことはどうでもいい!)
両手を椀のようにして、一舐め。
妙な味がしないことを確認し、一度口に含んで嗽。
その後に浴びるように飲む。
手椀から漏れた水が服を濡らすがそんなことは後回し。
恐らく寒さに震えることになるが、焚き火は用意したのだ。
乾かせば良いのだ。
そんな言い訳をしながら、乾いた喉を潤して。
顔を上げ、焚き火へと戻ろうとした時。
「ん?」
遠巻きに、妙な生命体が見えた。