3.外に一歩踏み出して。
若干どころか両腕で力一杯引っ張って、漸く開いた扉の先。
俺の視界の先に入ってきたのは、一面の。
黒々と――――いや、『赤々とした』巨大な波間だった。
よくよく見てみれば、その赤さは波自体が染まっているわけではなく。
文字通り、波間。 水の中に潜む何かに反応しているようだった。
「……波間。 つまり海、か?」
現在いる場所は良くテレビドラマとかで犯人が追い詰められそうな崖際。
そこに違和感すら感じるレベルで立っている廃屋の入り口だ。
少しずつ太陽……うん、太陽と呼ぶことにしよう。
太陽が上ってきていることから考えると、今は朝に相当するのだろう。
寒さから考えるに、現在は冬から春、或いは秋から冬に入りたてだろうか?
結局何もわからないことには変わらない。
記憶を失う前は若干殺意を覚えるレベルでの残暑が残った秋入りたてだったのだが。
(あれ、そういや。)
ふと、自分の顔に手を当ててみる。
違和感を感じないのが違和感。
いや、気付いてしまえば早かったのかもしれないが。
「眼鏡が無いのに見えてるな……?」
いつも視界の隅を陣取っていた金属の枠が見えない。
コンタクトはどうにも眼球に異物が入る感覚に慣れなくて、結局眼鏡のままだったのだが。
それがなくても見えている、ということは眼球が矯正されたのか?
いやいやそんな馬鹿な、と思いたくても現状がそんな馬鹿な事態である。
全く以て否定材料にならないのが辛い。
ぱちん、ぱちんと気付けばポケットに入れていたライターを開閉している。
普段から考える時はペン回しの癖が付いていたが、その代償行為のようなものなのか。
手持ち無沙汰な身には丁度いい気がしないでもないが。
(とりあえず、今の現状を整理だ。)
・何処かわからない場所にいる
・持っていたはずの荷物が別のモノに入れ替わっている
・目が良くなった?(夢ではないのか、と頬を引いたが痛覚は存在していた)
・かなり崖際、目の前は推定海(或いは視界の果てまでを埋め尽くす河か湖?)
・その推定海は赤く染まって見える、危険認識でもしている?
・小屋の裏側には森のような木々が乱立、赤いモノは見えない
・寒さから風邪をひくレベルで現状は危険
・太陽のようなものが浮かび始めている=移動し始めるなら今が最適?
……此処に留まる理由が全くと言っていいほど存在しない。
何しろ謎の場所なのだし、寒いし、意味がわからないし。
そして何より、食料も水もないのだから。
「よし確定、森の中で何か探そう。」
キノコはヤバいしやっぱり果実だろうか。
流石に只の一般社会人に狩りとかは無理だし。
そんな益体も無いことを考えながら、噛みタバコを一摘み噛み締めて。
森へと歩みを進めていくことにした。
※森の危険さなんて理解しようがありません、現代社会の一般人ですから。