1.序章
ノリと勢いって怖いですね。
終わったはずのProlog/
朱い、紅い雨が降る。
静かに足元へと滴り落ちる雨。
誰かの声と。
誰かの祈りと。
誰かの絶望と。
誰かの叫びの中。
見知らぬ一人が、姿を消して。
遠くの誰かが、命を落とし、
そして関わりのない筈の彼は、意識を失って。
遥か遥か、見知らぬ暗黒へと姿を消した。
/
――――情報伝達の不備を確認。
――――再度確認…………失敗。
――――原因検索…………完了。
――――対象の取り違いを確認、誤差範疇のエラーと判断。
――――処理を続行、判断…………99.7%の承認、確定。
――――情報補填……無作為に抽出、開始。
――――対象、男性。
――――年齢、二十代前半。
――――属性、無。
――――祝福、不明瞭。
――――抽出完了、補填を開始……完了。
――――祝福名、”反:■■■■”。
――――対応、完了。
/
頭を抑えながら、目を覚ました。
先程までいたはずの駅の構内ではない。
見るからにやや古びた、小さな一軒家の中だろうか。
土間のようになっている場所には、文字通り見知らぬ形をした竈のような何か。
水瓶のようなものも見えるが、大きな罅がその存在価値の無意味さを示している。
見知らぬ家、見知らぬ場所、見知らぬモノ。
履いていたはずの靴も無く、仕方なしに床に直接素足を降ろした。
床は大きく軋んで、木でできた壁から寒さが擦り抜けてくる。
明らかに、俺が知っている範囲での――無論、知っている範疇なんて殆どないのだけど――物より劣化して見えた。
あばら家、というのが正しいのか。
廃屋、と言ってしまって良いものなのか。
それすら判断がつかない中。
ふと、手のひらに目をやった。
本来やや朱いくらいだった肌の色が、薄っすらと青くなりつつある。
そして先程からの寒気。
成程、つまり…………。
「何処だか分からないし、何が何だか分からない。」
それは間違い無い。
口に出すことでその事実を再認識する。
鼻の違和感を強く感じながら、大きく息を吐いて。
「……何を把握するにしても、寒さ何とかしないと死ぬやつだよな、これ。」
声も、若干しゃがれて聞こえ。
一度大きなくしゃみをしながら。
何が何だか分からないこの現実を理解した。
――――したつもりに、なったのだ。
貝谷竜胆、21歳。
気付けば、妙な場所にやってきてしまいました。