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6 イロイロ考えた

ドアがノックされ、応接室にユリウス兄様が入って来た。



「夜も更けてきましたが、まだチャチャとのお話は終わりませんか?父上、母上」



呆れたようにそう言ったユリウス兄様は、中の様子を見て、幼くも美しい顔をギョッとさせた。

泣いているわたしを、お父様と義母様がなだめ、その様子をコジマとアンネローゼ、二人の侍女が生温かい視線で見ている。



「な、何があったのですか父上、母上!?それはチャチャは()()()ですが、病上がりの子供を泣くほど怒ることはないではないですか」



ユリウス兄様が何やら誤解をしているようである。

それにしてもユリウス兄様、アレな娘とはどういう意味ですか?



わたしはユリウス兄様をぎろりと睨む。



「あ、いや、もうチャチャは寝る時間だと思って……」



わたしはこてん、と首を傾げた。

もう寝る時間?

そう言えばユリウス兄様は、夜も更けたとも言っていた。

あれ?わたしが目覚めたのは朝ではなかったのかしら?



グイッ、とドレスの裾で涙を拭こうとすると、義母様がわたしの手をそっと押さえ、ハンカチで優しく拭いてくれた。

それを見てユリウス兄様は何かを察したのか、ホッと息を吐き優しく微笑んだ。



「子供はもう寝る時間だと思うのですが、父上」



ユリウス兄様はもう一度、今度はキリッとそう言った。

お父様は灰色の瞳を細めてユリウス兄様を見ると、小さく頷いた。



「チャチャ、話は終わりだ。今日はもう部屋へ戻りなさい」



お父様はそう言うと、アンネローゼを目で促した。



「お嬢様、お部屋に戻りましょう」



わたしはアンネローゼに頷くと、すくっと立ち上がり、お父様と義母様に退室の挨拶をして応接室を出た。

ユリウス兄様がニコニコとわたしの顔を覗き込み、



「お姫様、お部屋までエスコートいたしますよ」



そんなことを言った。それはそれは甘い声で……。

恐るべき十二歳である。

イロイロな意味でユリウス兄様の将来が不安になった。



「ところでユリウス兄様、わたしが目覚めたのは朝ですよね?」



いつの間に夜に、それも寝る時間になったのか、わたしはユリウス兄様に確認した。

ユリウス兄様は灰色の目をパチパチとし、心配そうにわたしの顔を見る。



「僕がチャチャの部屋に行ったのが、夕食の後だよ?目が覚めたのはその少し前だろうから、朝ではないよ」


「あれ?部屋が明るかったから、朝か昼だと思った」


「ああ我が家は魔道具があるから、夜でも昼と変わらないからね」



おお、そんな素敵道具があるとは、さすが伯爵家!

しかし……それに気が付かないわたし、アホである……。



「勘違いしても仕方がないさ、七日も眠っていたんだからね。さあ、部屋に着いたよ、良い子は寝る時間だ」



ユリウス兄様はそう言うと、わたしの頭をポンポンと撫でる。

わたしはユリウス兄様の顔を見上げ少し口を尖らせた。



「七日も寝ていたのに、また寝なきゃいけないなんて」



思わず不満が口に出た。

それを聞いて、ユリウス兄様が吹き出した。



「ぷっ、確かにそうだろうけど」



ユリウス兄様がわたしを見、アンネローゼを見る。



「アンネローゼ、僕の妹がこんな事を言ってるけど、後は頼んだよ」


「かしこまりました、ユリウス様」



歩き去るユリウスお兄様の背中に、アンネローゼは頭を下げた。そして頭を上げると、ニコリとわたしに微笑む。



「お嬢様、お部屋にお入り下さい」



そう言って部屋のドアを開けた。



部屋に入ってから、わたしは有無を言わさずアンネローゼに着替えさせられ、ベッドの中に入れられた。



何だろう?アンネローゼが急成長した気がする。良いことなんだけど、解せぬ……。



「ベッドの中に入ってるだけでも、目を瞑ってるだけでも良いですから、お嬢様」



そう言うと、アンネローゼは部屋の明かりを消して退室した。

そしてわたしは現在、暗い部屋のベッドの中である。

七日も眠っていたのだ、眠れるはずがない。

それでもアンネローゼの言うことを実行し、目をぎゅっと閉じ、



ごろん。



と、わたしはふわふわのベッドの中で寝返りを打った……。



……。


……。



う~~ん、やっぱり寝られない。

閉じていた目を開いた。



……、……。



目を開いてみたら、そこは真っ暗だった。

わたしの目でも、見えないほどだ。

前にも自慢したと思うけど、わたしは夜目が利く。それは昼と変わらないほどだ。それが見えないという事態は、さすがのわたしの記憶にも新しい。

それどころか、わたしはアンネローゼの言付け通り、ベッドの中でゴロゴロしていたのだ。そのベッドがない。



ああ、夢か……。



不本意だが、納得した。眠れない、と文句を言いながら寝てしまう自分に呆れてしまう。



「まさか……」



わたしはそう呟き、辺りを見まわす。

周囲は真っ暗で、何も・・見えなかった。

それを確認して、わたしはホッと安心する。

またあの、モザイクのかかった青いタヌキがいるのかと思ったよ……。

心の中で呟くと、わたしは自分のことを考えた。



あのタヌキの言うように、わたしはチャチャ=クラウスだった。



と言うことは、このまま黙っていたら破滅の未来、歴史に名を残す悪女への道を進むことになる。その上、伯爵令嬢から農奴となり、苦しむだけ苦しんだ後、死んだとしても救いがない。生まれ変わったとしても奴隷なのだ。 まるで呪いのようである。

いや、罰として何度生まれ変わろうとも奴隷になる呪いが掛けられているのかもしれない。

それに奴隷のわたしは、わたしチャチャの千年ほど先の子孫だ。

これは、何をどうしようと未来は確定していて、奴隷からは逃れることは出来ないと言うことではないか?

そうだとすれば、もうお手上げだ。

諦めて、悪女の道を爆進するしかない。どうせ奪われるならば、伯爵令嬢と言う地位を利用するだけ利用し、捕らえられるその日まで面白可笑しく生きるのも良いかもしれない。



ダメよ!それはダメ!!

誰かは分からないけど、それは誰かの思惑通りじゃない!?

その誰かは絶対どこかで見ていて『既定路線、ハハハ、お疲れさま』とわたしを笑うのだ。

それだけは許せない。

だから考えるのよ、チャチャ!

お馬鹿でも頑張れば、諦めなければ何か光明があるはずよ!!

そうだリリ。リリが何か良いこと言っていた。



『三人集まれば文殊の知恵、そんな言葉があるわ』


『文殊って何?』


『文殊というのは東方の知恵の神様の事よ』


『へーリリは東方のことに詳しいね』


『わたしのおばあさんが、東方から流れて来た人だったの』


『そうなんだぁ、それでどういう意味なの?』


『凡人でも三人も集まって考えれば、その知恵の神様に負けないアイデアが出るってことよ』



うん、それだ。



ありがとうリリ!ありがとうリリのおばあちゃん!!



『それでは第一回脳内会議を開催します』


『『『パチパチパチ』』』


『司会進行役として議長のチャチャです』


『会議記録係として書記のチャチャです』


『ご意見係として議員のチャチャです』


『『『よろしくお願いします』』』


『議題ですが、チャチャの破滅フラグを叩き折るにはどうするか、それで良いでしょうか?』


『『異議ナシ』』


『では具体的にどうするか、活発な意見をお願いします』


『はい、そもそも未来は確定しているのでしょうか?いえ、わたしはそうは思いません』


『それは興味深い意見ですね、チャチャ』


『何故そう思うのか、具体的な意見をお願いします』


『それは、破滅するチャチャとわたしたちチャチャは同じなのでしょうか?わたしは違うと思うんです。わたし達は千年先の子孫である奴隷のわたしと、六歳のチャチャの記憶が混ざっています』


『そうですね、混ざってますね。感覚的に言えば、奴隷のわたしにチャチャの記憶が混ざったようですね。チャチャの人格というか性格は確かにありますが、非常に薄いような気がしますね』


『わたし達は破滅する、失敗するチャチャを知ってるのです。努力で、この失敗を回避できると思うのです』


『さすがチャチャ、良いこと言った!』


『具体的にはアレですね、王族に近付かない、民衆には優しく、ですね』


『そうね、基本その方針で生きましょう!』


『あとはそうですね、年表を書きましょう』


『もし、やっぱり失敗しちゃったらどうします?』


『そうですね、失敗しても捕まらなければどーと言うこともないですよ』


『万が一のために、明日から庭の周りを走りましょう』


『何故?』


『足が速ければ捕まらないじゃない!』


『なるほど、さすがチャチャ!』


『有意義な会議になりましたね』


『王族に近付かない、民衆には優しく、明日から庭を走る、これでいきましょう!』


『『異議ナシ!!』』







そこでわたしは目が覚めた。

とてもスッキリとした朝だった。

しかしわたしは忘れていた。

リリはチビ達にこうも言っていた。




『下手の考え休むに如かず』


お読みいただきありがとうございます

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