2 ドラゴンの戯言
目が覚めると、まだ辺りは暗かった。
目を擦り、周囲を見る。
真っ暗で、リリやチビ達の姿が見えない。
ン!?
何故周囲が確認出来無いんだろう?
暗くて見えない、と言うことが今まで経験したことの無いあたしは、少し慌てている。
木から落ちて、頭を打ったからその為だろうか……?
それは困る!
夜目が利くというアドバンテージが無くなると、もう夜にこっそりと森で採取が出来なくなってしまう……。
あたしは頭を抱えた。
どうしよう……。
チビ達とも約束したのに、これじゃあ罠も仕掛けられないよ!
「やあ、やっと目が覚めたかい?」
突然ダミ声が聞こえた。あたしは反射的に声の方向を見た。
……。
そこにはモザイクがかかった、青いタヌキのようなモノがいた。
「僕は蒼月のドラゴン、ドラちゃんと呼んで良いよ!君のお祖母さんに頼まれて、君を探していたんだけど随分と手間取ったよ」
バキッ!
あたしは思わずモザイクの青いタヌキを殴った、グーで。
「ちょ、いきなり何するの!?」
「黙れ。謝れ。お前に騙られたすべてのドラゴンと、ドラゴンに憧れるすべての人と、このあたしに!」
「え、何?錯乱しているのかな?まず落ち着こう、ね」
モザイクの青いタヌキ、メンドイ!仕方ないからドラちゃんと呼ぶが、そのドラちゃんが慌ててあたしを宥めようとしている。
しかし、あたしの魂からの怒りは収まらない。
「いいから、まず謝れ」
「何だかよく分からないけど、ゴメンよ、コレで良いかい?」
随分と軽いな、その程度でドラゴンに対する冒涜が許されるとでも思っているのだろうか?
もう一発殴っとくか?
「時間が無いんだから、ね、だから拳を握らないで、落ち着こうよ。ああーもう!ドラ美、見てるんだろ、ちょっと助けてよ!!」
「お兄様……」
呆れたような声が聞こえた。
ドラちゃんの横に、モザイクのかかった黄色いタヌキ(頭に赤いリボン付き)が立っていた。
ドラゴンへの冒涜がまた増えた。
「お兄様が大変失礼いたしました。わたしは蒼月のドラゴンの妹、黄陽のドラゴン。どうかドラ美とお呼び下さい」
「……そこの兄よりは不快では無いわね」
「ありがとうございます」
あたしの呟きに、ドラ美は深々と頭を下げた。ドラちゃんはその妹の背中に隠れている。
「お兄様も申し上げたことかと思いますが、わたしたちはあなたのお祖母さまから頼まれて、あなたを探しておりました。正確には、アナタの魂を……」
「それはどう言うこと……?」
「それを今ご説明いたしますが、落ち着いて聞いていただけますか?」
あたしはこくりと頷いた。
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うん、説明聞いたよ。
ドラ美は親切丁寧にそれはあたしに理解できるよう努力してくれたと思う。
ドラちゃんもドラ美の後ろに隠れておとなしくしてたから、説明も流れる水のように進んだし……。
だが、それで理解出来たかと言えば……無理だ。
あたしが今から千年程前の人間だって、普通そう言われて納得できると思う?
それも、あのチャチャ=クラウスだなんて!?
あたし、チャチャ=クラウス、六歳――。
現在、階段から転げ落ちて意識不明七日目。
そろそろ生命維持の危機だそうです。
「あなたのお祖母さま、王太后でありわたしたちの主人マスターである『双天龍の騎姫』ベアトリクス様がお待ちしております。それに魂の離れたあなたの身体、チャチャ様はもう限界なのです。まさか千年の刻の先にいらっしゃるとは……」
そう言ってドラ美はため息を着いた。
「と言うことで、君が納得しようとしまいと関係ない。もう砂時計の砂は僅かしか無い。砂が落ちきる前に、君の魂をチャチャに戻す」
それまで妹の背中に隠れていたドラちゃんが偉そうにそう言い、あたしの前に立った。そして、あたしの手をガシッと掴む。
「じゃあ、向こうの世界でもまた会えることを楽しみにしているよ!」
あたしはその言葉と共に力一杯振り回され、ぽぉ?いと放り投げられた。
あ〜ぁ!覚えてろよ、この野郎!!
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