1 プロローグ
以前書いてたものを再構成。
友人にアカウントを消された不幸から不死鳥のように蘇ればいいなぁ〜と思ってます。
継続できるよう頑張ります。
あたしの家は貧乏である。
どれくらい貧乏であるかと言えば、代々続く大変由緒正しい農奴階級で、今日を生きるのも苦労するほどに貧乏だった。あたしは両親に売られて奴隷階級ですけど……。
遥か千年ほど前は伯爵家だったけど、とある人物のおかげで領地没収・身分剥奪のうえ農奴階級まで落とされたのだ。
チャチャ=クラウス
あたしのご先祖様で諸悪の根源……。
歴史の教科書に載るくらいに有名な悪女の代名詞!
やりたい放題の末に王族から不興を買い、民衆から恨まれ、ついには捕らわれて農奴として追放されたのだ。
処刑にならなかったのは、殺すのですら慈悲にしかならぬと、生きて生きて苦しめという事らしい。
だいたい名前が悪い!
ハチャメチャからハメも外してチャチャ。
名付け親もヒドイものである。
名付け親は確かお祖母さんだったかな?
ともかく名前に恥じない生涯だ。
まったく迷惑なご先祖様である。
何年か前のことだけど……。
あたしの仕事の一つである『ゴミ処理』で、ボロボロの教科書一式を見付け、その中の歴史の教科書を読んで気が遠くなるほど衝撃を受けた。
チャチャ=クラウス!
あんたは一体何をやってるのよ、本当に。
一発とは言わずに気がすむまで何発でも殴ってやりたい。
しかし、千年も昔のご先祖さまを恨んでも、お腹は一杯にはならない。
本当に全く役に立たないご先祖さまである。
あたしは今日もゴミ処理や汚物処理などの仕事を終わらせると、真夜中にこっそりと奴隷小屋を抜け出し、近所の森に向かった。
何しにって?
食べ物を探すためだよ。
森には木があり実がなり獣がいる。それを採取してお腹の足しにするのだ。
幸いあたしは夜でも暗闇の中でも、何も困らないくらいには夜目が利くのだ。
あたしは木に登り、木の実をもぎ取る。
ふふふっ、華麗なこの動きはサルも羨むことだろう。
それに今日は何か調子が良い。
採取用の背中のカゴが、あっと言う間に山盛りになった。
奴隷小屋で待つチビ達も大喜びだ。
そのチビ達と一緒に待つリリも喜ぶよ。
きっと奴隷とは思えない綺麗な顔で、上品に頬を染めて微笑んでくれる。
リリーー。
我が友、心のオアシス……。
そう思いながら見上げると、一際高い所に一際大きな木の実を発見した。
……アレを取って行ったら、リリが喜ぶ!
あたしはそう思い、調子に乗ってその木の実に手を伸ばした。
そう、あたしは調子に乗っていた。
いつもより沢山採取していたのも忘れ、いつもなら安全のために手を伸ばさない高さの木の実にまで手を伸ばしてしまった……。
結果、あたしはバランスを崩して木から落ちた。
ぐえっ⁉︎
乙女にあるまじき声が喉の奥から漏れる。
まあ、奴隷が乙女も何もあったものではないのだけど。
あたしは背中のカゴを胸に抱え、仰向けで地面に大の字ならぬ、人の字に……。
チビ達にため、明日の太陽を見るため、カゴとカゴの中の木の実を死守した。
あたし頑張った。
しかし、背中と頭が痛い。
ノロノロと頭を触ってみるが、どうやら血は出ていない。骨もどこも折れていないと思う……。
あたしは生まれたての仔羊のように、ヨロヨロと立ち上がる。
手足に力が入らないし、眩暈と吐き気がする。
だけど奴隷小屋ではリリとチビ達があたしを待っている。ーーいや、あたしじゃなくて食べ物かもしれないけど。
とにかくあたしはイロイロなモノを我慢して、奴隷小屋に戻った。途中何度も転びながら、それでも木の実は一つも落とさないように気を付けながら……。
「ただいま」
奴隷小屋の戸を開けてあたしがそう言うと、リリとチビ達が駆け寄ってくる。
「おかえ……きゃー!」
リリがあたしを見て悲鳴を上げた。
大きく開けた口を慌てて両手で隠し、ふるふると肩を震わす。
チビ達もカゴに群がり、
「うわぁー!」
と声を上げる。
あたしはリリとチビ達を交互に見て、へらっと笑った。
「これ凄いでしょう?今日は調子が良くて、いっぱい持って帰れたよ」
「そうじゃなくて、その泥だらけの姿はどうしたの?また無茶をしたんじゃないの⁉︎」
「帰る途中、転んだだけ……」
あたしは、喜んでくれると思っていたリリに怒られて、しょんぼりだ。木から落ちたと言えば、もっと怒られるかもしれない。だから、それは黙っておくことにした。
「本当に転んだだけなの?もう無理はしないで……」
呆れたようにため息をつき、リリは心配そうにそう言った。白い手を伸ばし、あたしの顔に付いたどろを優しく拭ってくれた。
あたしはそれにホッとした。
良かった、もう怒ってないみたいだ。
気が抜けたのか身体中の痛みと吐き気が少し増したような気がする。
ジンジンと言うか、チカチカと言うか……。
光の粒がザーザーと雨のように降っている。
目の前が良く見えない、あたしの耳にチビ達の声が聞こえた。
「木の実ばっかじゃん。肉は無いの肉?」
「ゴメンね、今日は木の実だけなんだよ〜。今度罠を仕掛けて取ってくるから……」
「仕方がないなー、約束だぞ!」
そんな事を言うチビ達を、リリが何やら怒っているようだ。
キーンと鳴って、良く聞こえない。
それに今日は頑張り過ぎた。
すごく眠い。
「あたし、疲れたから、もう寝るね」
あたしはノロノロと部屋の隅に移動した。ズルズルと壁にもたれて目を閉じた。
起きたら、夜が明ける前に……。
森に罠を仕掛けに行かなきゃ……。
お読みいただきありがとうございました。