- 2010/10/09 小野義章 - (1)
だいぶ間隔が空いてしまいましたが、とりあえず1話です。
「……あれ?」
おかしいな、このくらいの距離のところに警察署があったと思うんだけど。
「迷った、か……?」
おいおい、始めて来る街とはいえ帰り道で迷うかよ。確かに方向感覚はいいほうじゃないけどさ。
中学3年の10月。志望する高校を決める時期になっていたけれど、特にどこ、というイメージもないし、とりあえず片っ端から当たってみようということで進路指導の先生に自分の成績で行けそうなところをリストアップしてもらって、学祭やら説明会やらを総当りしてみることにしていた。今日もその一つで、電車で二十分ほど(途中まで各停な快速を捕まえればもう少し早い)の駅から少々歩く高校に来てたんだが……駅から『少々』ではない。だいぶ歩く。そんなに他の魅力があるわけでもなかったので、リストからとりあえず除外してとっとと帰宅、するつもりだった。それがこの有様だ。
しかも、今日はやけに暑い。徐々に水分が蒸発していく。自販機はどこだ。
---と、たぶん方向が間違ってるんだけど暑さもあって頭が回らなかったりめんどくさかったりしてとりあえずそのまま歩く。
「……お。」
道路の反対側、なにやら体育館のような建物と、その後ろにちょっとした森がある。公園かな。ちょうどいい、たぶん自販機もあるし飲み物を買って日陰で休もう。信号機、早く変われ。
青信号になった。一刻も早く飲み物がほしいんだが、走る気力はないし、むしろ若干ふらふらと渡り、木陰に逃げ込んだ。
……あった。待望の自販機。わりと離れてるけど、日陰がつながってるし、安全だ。梅を想像してどうこうじゃないけど、自販機を遠目で見ただけで若干回復したような気がする。よし。
と、歩き出したところで、右の方で金属音とちょっとした歓声が聞こえた。少し懐かしい、金属音。続いて、少し音量を抑えたようなブラスバンドの音色。演奏しているのは俺の親世代が子供の頃の曲だったらしい、聞き慣れた旋律。
「そうか、秋か……」
野球の試合をやっているようだ。ただ、とりあえず今は飲み物だ。命の水だ。自販機の前で少し考えた後、150円のスポーツ飲料のボタンを押す。---しかし、スーパーにいけば80円台で買えるのに自販機だと150円というのは高すぎだろうと思っていたが、こういう時には納得できる。『便利』の値段なんだよな。
ドリンクを一口飲んで、少し球音のしたほうに歩いていってみる。さっきまで鳴っていたブラスバンドは、なぜかトランペット1本の音に変わっていた。