貴重品はしっかりとお持ち下さい。
ブクマお一人の方でけですが、すごく嬉しかったです。
今回も拙い文章ですがどうぞ。
その後、俺は亀さんと改めて自己紹介をした。
彼女の名前はユウヒさんで家名はないとのこと。今はフリーの冒険者をしていて、世界を巡り探しものをしているらしい。
それでユウヒさんは俺が文字通り"一人立ち"し、この世界で生きていけるようになるまで暫く付き合ってくれるらしい。
「よし!じゃあ少しでも早く一人立ち出来るように、早速狩りをしましょう」
そう言ってユウヒさんは何やら先程背負った亀の甲羅をゴソゴソ探りだした。
「トールはなにか使える武器とかある?ある程度なら用意してあるから。えっと、両刃剣、片手剣、メイス、レイピア、槍…」
あの甲羅の中どうなってる?四次元か!?絶対に入らないだろ!異世界の不思議パワー恐るべし。
「あっ!あなたの握力じゃ鉄製品はおろか、お箸以上の重量物は無理ね。となると本当に枝を拾ってくるしか……ダメダメ、さすがに……ブツブツ」
なおもゴソゴソし始めるユウヒさん。勘違いしないでよね!泣いてなんかないんだから!
と俺が心の汗を流していたらユウヒさんは何かを取りだし、こちらに差し出してきた。
「しかたないから、これを貸してあげる。あくまで貸すだけだからね!絶対に返しなさいよ!」
「えぇ…。こ、これですか?」
ユウヒさんの掌の上には一本の針があった。
そのもの赤子の如く地を這い、その手には如何なるものをも貫く針を持つ。ある者は彼を畏れ、ある者は彼を敬った。ここに空前絶後の赤子戦士爆誕!
うん無理だ。この世界はなぜこんなに俺に厳しい!俺が何をした!
「そこはかとなく君はこれを馬鹿にしているようだけど?これね、私にとってはとっても大事な物なのよ!」
「ごふぇんなふぁい」
とってもいい笑顔で頬を摘ままれた。物理的に頬が落ちるかと思った。赤子ステなんだからもう少し優しく扱って…。
「はぁ~、見た目で馬鹿にするのはしょうがないわね。でもその子ね元は名のある名剣なのよ」
「これがですか!?なるほど、一寸法師は異世界の実話だったんでね」
「また馬鹿にして。その頬はどうやらいらないようね」
「大変素晴らしい名剣でございます。拙者、感動で胸がいっぱいでござる」
口内からも血が出ました。
「その子はね名前を持ってはじめて本当の強さを発揮するの。だけど、前の持ち主と離れてからすっかり心を閉ざしてしまって、今のその姿になってしまったのよ」
「なんだか、同情しちゃいますね。あれ?これってユウヒさんの物じゃないんですか?」
「違うわね、私じゃその子の名前も呼んであげられないの。何度もいうようだけど私にとってその子はと~っても大事な物なの、貸すだけなんだから大切に扱ってね」
かつて名剣と呼ばれたいただけあり、今でもその力の一部の折れず、曲がらず、錆びずが残っている。手間いらずであるが、攻撃力には期待はできないとのこと。
手の中で針を転がして『よろしくな』と心の中で伝える。
指から血が出たのはこの子なりの返答なのだろう。このツンデレめ。
「武器も決まったし、早速始めるわね」
「待った!防具は!?あと俺動けない!いや、這ったり転がったりは出来るけども!せめて座らせて!」
「あなたに傷一つ負わせることはないから安心なさい。動けなくても大丈夫、向こうから来てくれるから。座るよりもそのまま寝てた方が都合が良いわよ」
「そういう意『パリン』」
目の前で蛍光ピンクの水が入った瓶が割られた。
一瞬の静寂。その効果はすぐに現れた、見通しのいい平原の先、すぐ近くの草むら、岩の陰。ゾワゾワっとそれは這い出てきた。
「スライム?」
赤、青、緑、黄と20cm程のカラフルなゼリーのような体に握りこぶし位の大きさの球体が浮いている不定形生物、スライムが集まってきた。あまりの数に鳥肌がたった。
取り込まれて溶かされるのか?溶解液か?内心ガクブル状態でこの状況を見守るしかなかった。
服だけか?その溶解液は服だけ溶かす、ファンタジー液なのか!?最終的には『らめぇぇぇ』な感じなのか?誰が?俺か?誰得だよ!意外と俺余裕だな!
「じゃあいっくよぉ~」
とアホな妄想をしていた俺を間延びしたユウヒさんの声が現実に引き戻してくれた。
ユウヒさんは流れるような動きで、迫りくるスライムを叩き潰した。四次元甲羅で。
そこからは、流れ作業のようだった。ノロノロと迫るスライム、甲羅振り降ろすユウヒさん、ビターンと伸びるスライム。ノロノロ、ビターン、ノロノロ、ビターン……。
数分後、100体近い瀕死のスライムが俺のまわりに山を築きました。
「いい運動した!次はトールの番だよ。スライムはその核が弱点だから、瀕死の今なら一撃で倒せるよ」
「なるほど、確かに寝そべるくらいで高さもちょうどいいですね。それでは…」
プスッ!プシュー、シオシオ。
スライムは核を破壊されると、体を維持できなくなるらしくピューと水分を噴き出して萎んでいった。
もちろん、穴が開いたところから噴き出すのは火を見るより明らかな訳で、先程からカラフルなスライム水を浴びております。
浴びても大丈夫なのかユウヒさんに確認したところ、赤は発刊作用があり毛穴に詰まった老廃物を洗い流す、味は紅茶。青は冷却効果があり、毛穴を引き締め、お肌を引き締めてくれる、味は天然水。緑はリラックス効果がストレスから解放してくれる、味は緑茶。黄は体内の調整効果があるようで消化器は活発になる、味はカレースープ。と体に悪いどころか逆に健康になると説明された。
その後も体勢を変えたり、転がったり、這ったりしながら次々に針を刺していった結果、無事にやりとげました。
「トールなんかツヤツヤしてるね。綺麗になった?」
「……お陰様でスライム水沢山いただけましたので。お肌なんかもツヤツヤです」
「よかったわね。レベルはどう?各ステータス値が6以上あれば歩けるはずよ」
「あっ!レベル上がってます!LUC以外全部6になってます」
ーステータスー
名前:トール シラモイ
種族:人族(98%)
性別:男w
職業:未登録
LV:3
HP:6
MP:6
ATK:6
DEF:6(+6)
INT:6
SPD:6
LUC:6000
スキル:異世界語(共通語のみ解放) 上級謝罪
称号:謝罪の王(土下座交渉に補正大)、ヌレリスト(雨に濡れれば濡れるほどステータス増加大、但し雨具装備時ステータス激減大)、忘れ物(@%*○¥$@) "NEW"美の追求者(美を追い求める事によりDEFが倍加)
加護:なし
人間性が…減った…だと!俺は何になるんだ!?怖いすごく怖い!ある日寝て起きたら…ってこれはもういい。とりあえずほぼ人族だ今は考えないことにしよう。
レベルが1上がる毎に各ステータス値が1上昇か、成長率はかなり悪いな。LUCだけは成長率も異常だけどね!
この称号は紙装甲の今、非常に助かる!ただ、美を追い求めるって…。とりあえず今日からスキンケアは欠かさずやろう。
「よっこいせ」
グッと体に力を入れてみたら、今までが嘘のように簡単に立ち上がれた。
「トール漸くスタートラインに立てたな。今なら4歳児程度の運動能力はあるはずだ」
「はぁ…4歳児、でも歩けるって素晴らしいですね」
感慨に耽っている俺をユウヒさんはニコニコと微笑みを浮かべ眺めていた。
気が付けば夕陽が大地を赤く染めていた。『野営の準備をする』とユウヒさんに言われ、指示を出してもらい二人で準備を進めていった。
晩御飯はユウヒさんが作ってくれた。四次元甲羅から食材を出していくのをみて、改めて甲羅の中が気になった。
「どう?美味しい?」
「このスープ最高です!ユウヒさん美人だし料理うまいし優しいし、最高です!」
「ありがとう。おだてても何も出ないけどね」
俺はこの時、他愛もない会話を交わし、美人が一緒なら野営も悪くないな。なんて考えていた。
「そういえばユウヒさん、なんでこんなに良くしてくれるんですか?見ての通り俺、渡せるものは何もないですよ?」
「ん?そうだなぁ何でだろう?しいて言うならただの気紛れ…かな?」
「気紛れですか。でも俺はその気紛れで、命を救われました。本当にありがとうございました」
「トールは律儀なんだな。そういうところは好感が持て……!」
言い切る前にユウヒさんは突然闇の中を鋭い目付きで睨み付け、いつの間にか抜いていた淡く蒼く光る刀を構え、低く威嚇するような声で誰何した。
「誰だ!他人の野営地に気配を消して近づくなんて、真っ当な考えを持つやつじゃないって事位はわかっているわよ」
闇の中から音もなく現れたのは、黒髪に糸のように細い目、左目を隠すように伸ばされた前髪、黒いスーツを着た細身の男だった。
優しげな顔立ちに微笑をうかべ、立ち止まりこちらの様子を伺うように糸のような目を動かした。
暫くして満足したのか男は視線を外し、ため息をつき両手を上げ降参の姿勢をとって話はじめた。
「お見事です。隠れていた私の気配を探し当てるなんて流石ですね。」
声を聞いた刹那、背骨に氷柱でもブチ込まれたかのような悪寒が走った。こいつはダメだ!こいつに関わるな!本能がそう叫んでいる。
ユウヒさんも油断なく、刀を構えたままだ。
「おや、そちらの男性随分と汗をかかれてますね?具合でも悪いのですか?」
と手を伸ばしてきた。ヤバい!触れられるな!距離をとらなくては!頭からはそう命令を発している。しかし肉体は自分の体ではないかのように何の反応もしめさない。
だがその手に捕まることはなかった。遮ったのはユウヒさんの刀だった。
「質問に答えろ!ここに何をしに来た!」
「おぉ、怖い。危うく手を失うとこでしたね」
ユウヒさんの殺気にも怯まず、男はおどけたようにそう答えた。
「これ以上あなたの怒りを買うのは得策ではなさそうですね。それでは、自己紹介を私この度とある職に就くことになりました、名を『ミノス』と申します。今回は関係者であるあなたにも是非ご挨拶をと思いまして、ここに馳せ参じた次第でございます。以後お見知り置きを…」
そこで一旦言葉を切り、優雅に礼をして顔をあげたと思ったその瞬間、ミノスは両の眼を見開いた。右の眼は血を思わせるような赤い眼をしており、隠されていた左の眼は真っ黒だった。白眼と呼ばれる部分が黒く塗りつぶされたようなその眼は闇そのものに見えた。
そしてミノスは呟くように言葉を続けた。
「…旧世代の八の王よ。そして初めまして私が新世代の魔王だ」
「キサマァァァ!」
絶叫にも似た憤怒の声を上げながらユウヒさんは消えるような速さでミノスに肉薄し、一刀のもとに斬り捨てた。
…そのはずだったのだが、ミノスの体は幻のように消え、刀は空を切っていた。
この状況を嘲笑うかのようなミノスの声が聞こえたのは俺の背後からだった。
「おや?八の王、本当に力が使えなくなってしまったのですか?いくらあなたでも素体の状態なら、私の遊び相手にもなりませんよ」
「黙れぇぇ!!」
ユウヒさんがこちらに駆け出そうとしたその時、鮮血が舞った。
「では、これは手土産に頂いて行きましょうか」
「えっ……!?」
流れ出る鮮血が瞬く間に広がり、俺の足元に血溜まりを作った。
異世界転移一日目、俺は左腕を失った。
ということで、一日の出来事。正確には半日にも満たない時間の出来事で4話使ってしまいました。説明回以外は話のスピード上げたいんですけどね…。